太田述正コラム#2513(2008.4.28)
<皆さんとディスカッション(続x124)>
<田吾作>
 コラム#2411(2008.3.9)での回答ありがとうございました。
 「・・日本の米軍基地に関しては、そこが治外法権になるのは、地位協定が締結されていようがされていまいが、一般国際法に照らして当たり前の話です・・」というご指摘は参考になりました。
 私が(参考1)でBBCの記事を引用したのは、在日米軍基地をカルフォルニア州の州法が支配するならば、三浦和義逮捕は「人種差別」で「米国憲法違反」となり裁判以前の問題でカルフォルニア州が敗訴する可能性があると推定したからです。
 そこでアメリカの国内法により「人種差別」で敗訴しないようにアリバイ工作として「アメリカ軍人レイプ事件」の軍法会議を行い、またアメリカ政府当局者が日本政府に「レイプ事件」に対する遺憾の意を表明したのではないのかと考えました。
 天木直人の「ジュゴンが沖縄を救うかもしれない」
http://www.amakiblog.com/archives/2008/04/27/#000847
(2008年04月27日参照) という文章の中に、
・・引用開始・・
 ・・・この訴訟を受けて米国防省は26日までに「ジュゴンへの影響を独自に検討する」という文書を米サンフランシスコ連邦地裁に提出した。
 サンフランシスコ地裁は今年の1月、(日米環境保護団体が近海に生息するジュゴンの保護を求めて起こした訴訟に対して)日本の天然記念物ジュゴ ンが米国の文化財保護法の対象になると認定し、米国防省がジュゴンへの影響を考慮しないことは、米国の文化財保護法に違反すると指摘。「ジュゴンへの影響 を評価するため必要な情報を」を示す文書の提出を求めていた。(これに対し)国防総省は文書で、「日本政府とも協議して、普天間代替施設がジュゴンに及ぼす影響について、地裁の判断に沿うよう独自に検討する」方針を明らかにした。原告側(日米環境団体)によると、米国防総省による文書提出から45日以内に原告側に反論の機会が与えられ、これを踏まえて米連邦地裁が夏にも改めて判断を示すと見られる・・略・・ しかしこれは米国の環境団体が原告に加わった訴訟である。米国の連邦地裁が米国防省に命ずる裁判である。その判決には米国防総省は従わざるを得ない。二つ目に、これは環境問題、文化財保護を全面に押し出した訴訟であるということだ。政治的思惑とは別に科学的立証が大きな影響力を有する。科学的検証次第では普天間基地の移設は変更を迫られることになる。
・・引用終わり・・
 これで(参考1)でBBCの記事を引用した
 ・・引用開始・・日本にあるアメリカ軍基地と、日本上空のアメリカ軍の飛行空域はカルフォルニア州の州法とアメリカの連邦法が支配する。
・ ・引用終わり・・
アメリカがやっている大量拉致事件
http://atfox.hp.infoseek.co.jp/xfile/terro/afghanistan.htm
(2008年04月27日再参照)
の実体の一部が分かりましたがまだ全貌が分かりません。
 日本国内に存在する治外法権の対象たる「カリフォルニア州(米軍基地)」のアメリカ国内での法的地位についての解説をお願いしたいのですが。
<太田>
 言及された、
http://atfox.hp.infoseek.co.jp/xfile/terro/afghanistan.htm
の文章は、BBCの記事の紹介と紹介者の私見がごっちゃになっていますね。
こういう書き方はしないように注意しましょう。(と私が言っても相手には聞こえないか・・。)
 さて、以下の括弧書きはすべて上記典拠からの引用ですが、
 「この基地の目的は、アメリカ国内の法律に拘束されず、テロ容疑者を無期限で拘束し、拷問、尋問を行う場所なのだ。」

 「キューバのグアンタナモ基地にはアメリカの国旗がひるがえり、ここはアメリカの領土だと強く意思表示をし、多くの場合はアメリカの法律下で支配されているが、時にここにはアメリカの法律が及ばないこともある。」
は一見矛盾しているように見えますよね。
 要するにこういうことであると私は理解しています。
 普天間代替施設ジュゴン訴訟報道からも分かるように、海外の米軍基地も米国の領土の延長であるとみなされ、米国の法律が適用される。
 米国の法律にはもちろん連邦法が含まれるが、在日米軍の場合、カリフォルニア州の州法も適用される。
 (在日米軍の各機関、部隊は、すべてカリフォルニア州サンフランシスコの私書箱を住所としている。)
 (キューバのグアンタナモ米軍基地については、米国は永久租借権を持っていると主張しており、ワシントンDCなどと同様の連邦直轄地として連邦法しか適用されない可能性がある。また、在日米軍以外の海外展開米軍基地にも連邦法のほか、州法が適用されるはずだが、それぞれどの州法が適用されるのかは詳らかにしない。)
 しかし、米国内であれ、米国の海外における永久租借権地域内であれ、永久租借権地域以外の海外であれ、またそれが米軍基地内であれ、基地外であれ、有事においては、米国の法律(連邦法や州法)と異なるところの、米国の最高軍事司令官たる大統領の一般的・個別的命令が存在する場合には、米軍は法律ではなく、大統領の命令に服する。もちろん、いかなる場合においても、米軍は国際法には服する。
 お分かりいただけましたでしょうか。
 以上の私の理解が正しいとすれば、
 「去年、ワシントンの弁護団が拘束者のために申し立てを行った。アメリカ政府は、グアンタナモ基地はキューバから租借しているもので、アメリカの領土とは言えない。グアンタナモはアメリカの法廷の管轄外であると主張。結局、司法でもその主張がとおり、・・・」
は不正確な文章であると言わざるをえません。
 「アメリカは、都合の悪いことは他国の領土とし、都合のいいことは自国の領土と同等に扱うのだ。日本にあるアメリカ軍基地と、日本上空のアメリカ軍の飛行空域はカルフォルニア州の州法とアメリカの連邦法が支配する。まったく汚いものだ。しかし、手立てはある。キューバの法律によるものなら、キューバの法廷に申し立てを行い、キューバの裁判所がアメリカ軍に命令を行えばいい。」
については、そのすべてが誤りであるということになります。
 米国の立場からすれば、キューバはグアンタナモ米軍基地に対し、それがキューバにとって外国の軍隊の駐屯地であること、それが米国の永久租借地であること、の二重の意味で裁判管轄権を有しないからです。
 なお、「日本上空のアメリカ軍の飛行空域」は「その上空」の誤りではないでしょうか。
 
 最後に、普天間代替施設ジュゴン訴訟についてですが、今年の1月26日付のニューヨークタイムス電子版に、サンフランシスコ連邦地区裁判所が、米国防省が同施設建設がジュゴンに及ぼす影響を調査していないのは連邦歴史的環境保護法(National Historic Preservation Act)違反であり、調査を行うべきであるとの判決を下したと報じています(
http://www.nytimes.com/2008/01/26/world/asia/26briefs-creature.html?_r=1&oref=slogin&ref=world&pagewanted=print 
。1月26日アクセス)。
 この代替施設の環境アセスを巡っては、ジュゴンのほか、青珊瑚の問題と、埋め立てのための海砂の浚渫の問題があります。
 (以上、
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20080130k0000m040153000c.html
http://www.asahi.com/politics/update/0129/SEB200801280014.html 
(どちらも1月30日アクセス)による。)
 いつかコラムで取り上げようと思っていたところです。
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太田述正コラム#2514(2008.4.28)
<チベット騒擾(続x8)>
→非公開