太田述正コラム#2490(2008.4.16)
<韓国の新政権は反米か?>(2008.5.23公開)
1 実は反米の李明博政権?
 韓国のエリートが反米に転じつつあるのではないか、という話をコラム#2446でしたところです。(これに関連するコラム#2464、2466も参照されたい。)
 私は仮説はこういうことです。
 韓国では、歴代政権もエリートも、基本的に先の大戦当時の旧日本帝国臣民意識を引きずっており、親米・反日では決してなく、いわば「旧日本帝国製」史観の信奉者であったのだが、対北朝鮮安全保障上の理由から、反北朝鮮・反中・親米・反日的な「韓国公定」史観を、大衆に注入し続けてきた。
 しかし、朴正煕政権以降の歴代政権は、この「韓国公定」史観をタテマエ上は維持しつつ、実際には親日的な「米国製史観」に基づく対外政策を展開し始めた。
 これに対し、韓国の「民主」勢力は、この「米国製史観」と正反対であるところの、親北朝鮮・親中・反米・反日的な「北朝鮮製」史観を掲げて反体制運動を推進し、かかる「民主」勢力が主導して韓国の民主化(体制変革)がなる頃までには、大衆もこの「北朝鮮製」史観に染まることとなった。
 「民主」勢力に擁立されたノムヒョンが大統領に選出され、議会の多数もノムヒョンの与党が占めるに至ると、ノムヒョン政権は、エリート達によって構成される官僚機構やエリートが率いる朝鮮日報等の主要メディアの反対を押しきって、ついに「北朝鮮製」史観に沿った対外政策を展開し始めた。
 ところが、この政策が非生産的であることが明らかとなったことと、朝鮮日報等の主要メディアが、この間一貫して「北朝鮮製」史観排撃キャンペーンを展開し続けたこともあり、大衆はノムヒョン政権離れを起こし、「米国製」史観への復帰を訴える李明博が新大統領に選出され、議会の多数も李明博の与党が占めるに至った。
 ところが前述したように、韓国のエリートも、李新政権も、内心では旧日本帝国臣民意識を引きずっていて反米なのであり、その反米の部分が、政権発足後、次第に顕在化してきている。
 すなわち李明博政権は、実際には「旧日本帝国製」史観に沿った対外政策を展開しようとしていると見ることができるのではないか。
2 その検証
 本当に李明博政権は反米なのでしょうか。ざっととりあえずの検証をしてみることにしましょう。
 
 「・・・李大統領は外交部の業務報告で「国益がなければ<韓米>同盟もあり得ない」と発言している・・・政府は「アフガニスタンへの軍や警察の訓練要員の派遣」は現実的に難しいとの立場を示している。国民の間に人質事件の記憶が今も鮮明に残されている状況で、昨年末に引き上げた兵士を再び派遣するというのは、名分もなければ実利もないというのだ。ただ、医療陣など約30人からなる地域再建チーム(PRT)の人数を増やすことで、「誠意」を見せる可能性はある。また、防衛費分担金を米軍基地移転のために転用するよう求める要求や、米国産牛肉を全面再開放する要求などに対しても、全面的に受け入れることは難しいものの、部分的に譲歩していく可能性は高いとの見方が強まっている。一方、政府の一部では「米国の圧力は度が過ぎている」と不満を漏らす声もある。」(
http://www.chosunonline.com/article/20080414000025http://www.chosunonline.com/article/20080414000022 
。4月14日アクセス)
 「韓国での新政府発足後、米国が韓国に対してさまざまな要求を突き付けている。在韓米軍の防衛費分担金の増額、イラン制裁への参加、大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)への参加範囲の拡大、ミサイル防衛(MD)計画への参加の打診、駐韓米国大使館邸の移転、イラク派兵延長およびアフガニスタンへの追加派兵などだ。・・・2005年に合意したソウル竜山基地内の米国大使館邸の敷地を、今になって別のもっといい場所に移してほしいという<要求>も<突き付けているが、これは>、韓国の一部反米勢力に活動の口実を与えることになりかねない。・・・<また、>たとえ韓国の牛肉輸入規制があまりに複雑だとしても、李明博大統領の就任式に派遣した代表団に自国の肉牛牧畜協会会長を参加させたの<も>、決して見た目の良いものではなかった。・・・<こ>のような<性急な米国の要求>は・・・、ややもすると韓国国内で同盟修復に対する懐疑論や反米勢力の勢いを復活させる名分を与える恐れもある。」(
http://www.chosunonline.com/article/20080415000008
。4月15日アクセス(以下同じ))
 「米国が在韓米空軍に配備されているF16戦闘機の1個大隊(およそ20数機)を今年末までに撤収させる意向を、最近韓国政府と軍当局に伝えていたことが分かった。・・・在韓米空軍に配備されているF16戦闘機は全部で3個大隊(60機以上)で、削減対象はF16全体の3分の1に当たる。・・・在韓米軍のベル司令官は先月行われた議会の聴聞会で、「韓国側が要請すれば、在韓米軍削減を中断することもできる」と述べていることから、防衛費負担金割合の問題などで韓国側に圧力を加えるためではないかとの見方も出ている。」(
http://www.chosunonline.com/article/20080415000022
 「ブッシュ政権の最初の6年間は、李のリベラルな前任者は北朝鮮との一層の宥和(engagement)を追求し、ワシントンのより敵対的アプローチと軋轢を起こした。今やそれぞれの立場が入れ替わってしまった感がある。米国は、ソウルの新たな<北朝鮮に対する>厳しい態度にもかかわらず、2007年の金正日との核取引の実施を目指しているのだから・・。」(
http://www.latimes.com/news/opinion/la-oe-chinoy14apr14,0,684398,print.story) 
3 終わりに
 さあどう思われましたか。
 私の仮説ももっともらしいなと思われた方がいらっしゃればうれしいですね。