太田述正コラム#2597(2008.6.8)
<中共体制崩壊の始まり?(続x3)(その2)>(2008.8.2公開)
 今回の大地震発生直後から、実は様々な前兆現象があったというまことしやかな話が中共のネチズンの間をかけめぐりました(典拠失念)。
 こんな話は大方ヨタ話なのですが、そんなことより、もっと深刻な話があります。
 支那西南部の龍門山断層(Longmenshan Fault)に沿って大地震が発生する可能性があると中共の地震学者達が1970年代から警告してきたにもかかわらず、中共当局はほとんど何の対策もとらず、それどころか、この断層の中心部が走る四川省政府は、北京で適用される耐震基準より甘い基準を同省に適用してきたことです。
 2002年からは、具体的に四川省で大地震が起きる可能性があるとの学術論文がいくつも登場しました。
 しかし、地震担当部局は、他の政府部局にほとんど注意喚起しなかった結果、四川省では、甘い耐震基準がそのまま据え置かれたどころか、監督不行届で、この甘い耐震基準さえ下回る建物が建てられ続けたのです。
 昨年末には、四川省の成都(Chengdu)工科大学の地質学者が米英の専門家と共に、四川省で大地震が起きる可能性があるとの論文を公刊しました。
 そして今年4月30日には、中共の地震担当部局(NSB)での勤務歴のある著名な地震学者が同部局に対し、四川省で5月の前半にマグニチュード7.0以上の地震が起きる可能性があるとの報告書を提出しました。
 しかし馬耳東風で、中共当局は何もやらなかったと指摘されています。
 中共の地震学者達自身、反省しきりです。
 今回、彼らの予想をはるかに上回る、マグニチュード8.0の大地震が起きたからです。
 ソ連の地震学者達は、ずっと以前から、マグニチュード8.0クラスの地震が起きる可能性があると指摘していたといいます。
 建物の耐震強度以外にも問題が指摘されています。
 四川省北川(Beichuan)県の首都である北川市は、1952年に、近傍の、洪水の危険に晒されていた低地帯から現在の三つの山に囲まれた傾斜地帯へと移転したという経緯があります。
 その当時から、同市は、大地震が起きたら地滑りで埋まってしまうという懸念の声が投げかけられ続けたのです。
 案の定、今回の地震で北川市には岩や泥流が押し寄せ、市の全人口の十分の一の約1万5,000人が死亡したのです。
 ところが、これらの指摘を受けたにもかかわらず、中共の地震担当部局は、地震発生後1週間経った時点で、「個人、組織、あるいは政府部門から、地震の予想や前兆と解釈されるような情報の提供を受けたことは一切ない」とシラを切ったのです。
 (以上、特に断っていない限り
http://www.nytimes.com/2008/06/05/world/asia/05quake.html?_r=1&oref=slogin&ref=world&pagewanted=print
http://www.atimes.com/atimes/China/JF07Ad01.html
(どちらも上掲)による。)
 (4)当局の災害救助活動が遅れたこと
 今回の地震の被災者達から、更には人民解放軍の将校達からも、軍の救援活動への不満の声が挙がっています。
 ヘリコプターや輸送機が老朽化しており、空挺要員の技量が十分でない、災害救援に必要な職種が書けている、というのです。
 ヘリコプターが使えないため、兵士達が食糧や水をかついで被災地の山奥の村々に運ばなければなりませんでしたし、ヘリコプターが使えたケースでも、空中投下の精度が悪く、多くの救援物資が必要な場所に届きませんでした。
 また、ヘリコプターを傾斜地に着陸させることができなかったために、最も重要な最初の一週間が空費され、救われるべき多くの人命が山間部で失われました。
 (以上、
http://www.atimes.com/atimes/China/JF07Ad01.html
上掲による。)
3 終わりに
 最近では日本を訪れる中共の人々も多いためか、四川省では、「日本のように、中共でも校舎については、国で最も優れた建物を建てなければならなかった」という批判の声が聞かれるといいます(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/06/05/AR2008060503695_pf.html
上掲)。
 中共のすぐ近くに存在する「超先進国」日本の存在そのものが、今回のような大災害が起きると、中共の体制に係る危機を増幅させることが分かります。
 中共当局は、日本へ支援要請しなければ、被災者から手を尽くしていないと批判されるであろうことを懼れて、支援要請したわけですが、その結果日本の地震対策や日本の派遣要員による効果的な救援活動との比較で中共当局が被災者から批判される、という悲喜劇的状況に置かれています。
 北京五輪が目前に迫っており、全世界の関心が中共に向けられ続ける中、まさに、中共は体制変革の危機に直面している、と言ってよいのかもしれません。
(完)