太田述正コラム#2599(2008.6.9)
<アルカーイダは弱体化したのか(その1)>(2008.8.4公開)
1 始めに
 5月末、ヘイドン(Michael Hayden)米CIA長官は、世界はアルカーイダ系テロリストに対する戦いを有利に進めている、と発表しました。
 果たしてそれは本当なのか、検証してみましょう(注)。
 (注)イラクでの米軍の死者数が5月は19人と、イラク戦開戦時以降最低を記録した。(これで累計米軍死者数は4,084人となった。)イラクは複雑な内戦状況下にあり、米軍の相手はアルカーイダ系テロリストだけではないが、このことも、CIAの発表を裏付ける事実の一つではある。実際、5月末に実施された、アルカーイダの都市における最後の拠点たるモスルにおける米軍の攻勢作戦は、ほどんど抵抗らしい抵抗を受けずして成功裏に終わった。(
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-iraq1-2008jun01,0,235970,print.story  
。6月1日アクセス)
 (以下、特に断っていない限り
http://www.economist.com/opinion/PrinterFriendly.cfm?story_id=11496851
(6月7日アクセス)、
http://www.nytimes.com/2008/06/08/weekinreview/08sciolino.html?ref=world&pagewanted=print
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/06/06/AR2008060603501_pf.html  
(どちらも6月8日アクセス)、
http://www.nytimes.com/2008/06/09/world/asia/09terror.html?_r=1&hp=&oref=slogin&pagewanted=print  
(6月9日アクセス)による。)
2 アルカーイダ系テロリストによるテロの減少
 アルカーイダ系テロリストによるテロの減少傾向が特に顕著なのが東南アジアです。
 インドネシアのバリ島で自爆テロによって犯人3人と一般市民19人が死亡した事件があったのは3年前ですが、爾来東南アジアではテロらしいテロが起こっていません。
 これは、アルカーイダから東南アジアのアルカーイダ系組織への金銭面や兵站面での支援がほとんど得られなくなったことが大きいと考えられています。
 もちろん、東南アジア各国によるテロリスト対策がうまく行ったことも挙げなければなりません。
 インドネシアでは、ハト派的対策がとられました。
 2005年以来インドネシア治安当局は、アルカーイダ系であるジェマア・イスラミーヤ(Jemaah Islamiyah)の構成員を200人以上逮捕しましたが、彼らに手荒なことはせず、情報を交換したり転向させたりすることに力点を置くことによって、成功を収めました。
 これに対し、フィリピン治安当局は、米軍の協力の下、タカ派的対策をとりました。
 すなわち米国は、米特殊作戦部隊、FBI、CIA、そしてAID(国際開発局)の要員500人以上をミンダナオ島の基地に送り込み、フィリピンの対テロ要員を訓練し、フィリピンの対テロ部隊を支援しました。
 この結果、ジェマア・イスラミーヤと提携関係にあるアブ・サヤフ(Abu Sayyaf)の勢力は著しく減衰し、そのトップを含む何名もの幹部が殺害され、その構成員は、2001年には1,000人以上であったところ現在では約200人へと減少したのです。
3 アルカーイダ弱体化説
 CIA「公認」アルカーイダ弱体化説の旗手が元CIA要員で現在ニューヨーク市警付き学者のセージュマン(Marc Sageman)です。
 彼によれば、もはや脅威はアルカーイダなる組織から来るのではなく、先鋭化した個人やグループが近所同士で或いはインターネット上で会って謀議をこらすところから来るというのです。
 すなわち、9.11同時多発テロまでの頃のアルカーイダ系テロリスト達とは様変わりで、現在のイスラム・テロリスト達の多くは、教育程度の低い10代の、非熟練労働者たる世俗的イスラム教徒であり、彼らは両親の移民先の欧州諸国で生まれ、育ち、過激化した連中であって、フランス、オーストリア、スイスで反移民政策を掲げる極右政党が20%前後の支持率を得るようになったことに象徴されているような、欧州諸国における反移民感情の高まりに対するイスラム教徒の反発が、このような新世代のクールなイスラム・テロリスト達を生み出したのだ、というわけです。
 米国のCIAやFBIにはこの説に同調する専門家が多いのだそうです。
 アルカーイダの弱体化に大きな役割を果たしたとされているのが、通称「ファドル博士(Dr Fadl)」(Sayed Imam al-Shareef)です。
 彼はオサマ・ビンラーデン(Osama bin Laden)の片腕でアイマン・ザワヒリ(Ayman al-Zawahiri)と同僚であった男ですが、エジプトで投獄されて以来、無辜のイスラム教徒を殺害しているとしてアルカーイダ批判を展開しています。
 ファドルに触発されたかのように、元アルカーイダ系テロリスト達多数と、元からアルカーイダに批判的であった伝統的イスラム教指導者達との間で、反アルカーイダ連合的なものが形成されつつあります。
 ザワヒリが昨年12月に、ファドルによる批判への回答を含め、様々な質問にインターネット上で答えたのは、このような動きに危機感を募らせたためではないかと想像されています。
(続く)