太田述正コラム#2617(2008.6.18)
<フランスの新防衛政策(続)>(2008.8.12公開)
1 始めに
 一夜明けたら、フランスの新防衛政策の記事が山のように出ていました。
 そこで、もう一度このテーマをとりあげることにしました。
 前回と重複する部分はご容赦下さい。
 最初に前座です。
 「・・・フランスは2009年4月のNATO創設60周年記念式典の際に復帰する予定で、サルコジ大統領は復帰と同時に約110人の上級ポストを要請するとみられ る。また、約800人をブリュッセル郊外のNATO本部の軍事機構に派遣したい意向だが、同機構にはドイツ軍から約2000人、英軍から約1000人が勤 務しており、空きポストは「数年後になる」(軍事機構責任者)という。・・・しかし、機構は目下、1万4,500人から1万人への人員削減も実施中とあり、そう容易にフランスが希望するようなポスト、特に司令官級のポストを得るのは難しいとみらえる。」(
http://sankei.jp.msn.com/world/europe/080618/erp0806180902001-n1.htm
。6月18日アクセス)
 日本の主要メディアの電子版にはこの程度の、しかもゴシップ記事めいた記事しか載っていません。トホホって感じですね。
 (以下、
http://www.taipeitimes.com/News/world/archives/2008/06/18/2003415042
(AFP電の転載)、
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/7459214.stm
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/7458650.stm
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/7460052.stm
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/7459316.stm
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/06/17/AR2008061701349_pf.html
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1815385,00.html
(いずれも6月18日アクセス)による。)
2 フランスの新防衛政策
 フランスが(1994年以来)防衛白書(ただし、今回の正式名称はWhite Book on Defence and Homeland Security)の形で14年ぶりに打ち出した新防衛政策は、英国が既に採用している防衛政策に倣って、これまでの、欧州における本格的な軍事的衝突に対処するものから、欧州外、特にアジアにおいて軍事的介入を行うとともに、(テロ、サイバー攻撃、麻薬密輸、自然災害等から)フランス本土の安全を守るものへと変えようというものです。
 とりわけ重視しているのがテロ対策です。
 テロ攻撃は今そこにある危機だとし、今後、核・化学・生物兵器を用いた攻撃が行われる可能性だってありうるとしています。
 サルコジ大統領は、世界は1994年に比べてより危険度が低下した(less dangerous)けれど、より予測不可能(unpredictable)になったと考えているわけです。
 欧州における本格的な軍事的衝突に対処する必要がないのですから、フランスが欧州最大の兵力を維持し続ける必要はもはやありません。
 フランスはこれまで50,000人を有事即応態勢に置き、ただちに外国に出動できるようにして来ましたが、今後はこれを30,000人のレベルにまで縮減します。
 (現在フランスは約10,000人の兵力をアフガニスタン、コソボ、レバノン、チャド、象牙海岸における作戦に派遣しています。)
 そして、今後6~7年かけて、文官を含む国防省の職員数を約15%、54,000人削減します。(陸軍は17%、空軍は24%、海軍は11%の削減です。)
 これに関連し、かつての徴兵制時代の軍隊の面影を色濃く残し、多くの兵舎や支援インフラを抱えているフランス軍を、真の志願制時代の軍隊へと造り替えようというのです。
 具体的には、フランスの軍人の60%は管理・支援業務に従事しており、作戦業務に従事しているのは40%なのですが、これを英国並みの40%、60%にしようとしています。
 また、フランス全土の約450の都市に軍の施設がありますが、50箇所の施設が閉鎖されます。
 (以上については、フランスの国家財政が危機に瀕しており、国防費を増やすことが当面不可能であることから、思い切ったスクラップアンドビルドを実行する必要に迫られた、と捉えることもできる。)
 さて、欧州外において軍事的介入を行うのは、フランス単独では不可能ですから、NATOの統合軍事機構に復帰したり、EUの軍事機能を強化したりする必要が出てきます。
 (1991年の湾岸戦争の時には、フランス軍は、他の欧米諸国の軍隊と共同作戦を行う能力が不十分であったため、支援任務に甘んじざるを得ませんでした。)
 (1966年にドゴール(Charles de Gaulle)大統領の時、米国の支配を脱するとしてフランスはNATOの統合軍事機構から脱退したわけですが、既にここ10年以上にわたって、フランスは密かにNATOの統合軍事機構へ復帰しつつありました。1996年にはシラク(Jacques Chirac)大統領の下でフランスはNATOの加盟国参謀長達によって構成される軍事委員会に復帰していたところ、1950年代末以来、最も親米的なサルコジ大統領によってついに統合軍事機構そのものへの復帰の運びとなったわけです。)
 また、サルコジ大統領は、6万人からなるEU軍の創設を提唱しています。
 欧州外、特にアジアにおいて軍事的介入を行うのですから、現在、アフリカの旧仏領諸国のうち、セネガル、象牙海岸、ガボン、ジブチ、中央アフリカ共和国に計9,000人のフランス軍が駐留しているところ、旧仏領諸国との軍事的コミットメントは軽減ないし廃止され、アフリカ所在のフランス軍基地4箇所が廃止されます。
 また、ペルシャ湾岸のアブダビに恒久基地を設けるとともに、スパイ衛星や無人偵察機の増加等、アジアにおける情報収集手段を強化することとし、情報予算を倍増します。
 このことと関連し、国家安全保障会議(national security council)を大統領府に設置し、イラクやアルジェリア大使を歴任したバジョレ(Bernard Bajolet)を、新しく設けられる国家情報調整官に任命し、同会議に配置することとしています。
 <参考:防衛に関する簡単な英仏比較>
兵力      ・・仏は271,000 人(改革後は224,000人)。英は180,000(2007年)
国防費の対GDP比・・仏も英も約2.5%
戦闘機     ・・仏は353機、英は315機(どちらも2007年)
航空母艦    ・・仏は1隻(本格空母)、英は3(プラス予備役1)隻(いずれも本         格空母ではない(太田))
3 終わりに
 前回、「日本は、冷戦終焉後も第二次冷戦以前の骨董品的防衛政策を「堅持」して現在に至っている」と記したところですが、この骨董品的防衛政策とは、米国が朝鮮戦争用の予備兵力として急遽占領下の日本の政府に命じてつくらせた自衛隊(正確には自衛隊の前身)の作戦機能と主要装備の数を基本的にそのまま維持する、というものであり、こんなものは、およそ防衛政策の名に値しません。
 とにかく、属国に防衛政策などあるはずがないのであって、私は、英国やフランスのように、自立した国として自国の防衛政策を策定できる国に日本が早くなって欲しいと願っている次第です。
 もちろんこのことは、米国だって願っています。