太田述正コラム#2730(2008.8.15)
<皆さんとディスカッション(続x222)>
<ライサ>
 バグってハニー様、(コラム#2728での)丁寧に詳細な解説ありがとうございます。
>この疑問はナンセンスだと思うのですが。
 そうですかー。馬鹿げてますか。
 ナンセンス = 「無意味な」・「ばかげた」とか「意味のないこと」等々、相手の発言を否定し、くだらないからやめろという気持ちで使うこともあるそうです。また、全共闘世代の愛用した野次。ともありました。(笑)
 そんな意味合いで使用したのではないんですよね~。(笑)
<Pixy>
 秋の空さんから問題提起がありました(コラム#2726)。
 グルジア紛争は、ロシア側への非難が高まっていますが、コソボ関連を追っかけていた私にとっては、もう盗人同士の喧嘩にしか見えません。ベオグラードを空爆して、コソボに治安維持部隊を派遣し、セルビアの主権を無視してコソボを独立させた米・英が、ロシアが南オセチアとアブハジアで同じことをしたら、主権やら領土保全を持ちだして非難するのは滑稽としか言いようがありません。
 グルジア紛争関連の記事は「石油成り金の侵略国家ロシアめ!けしからん!」な感じの論調ばかりな印象ですが、ガーディアン紙のSeumas Milne氏の下記コラムは「ならず者ロシアの侵略」という視点ではなく、米外交を痛烈に皮肉っている内容で痛快でした。
「This is a tale of US expansion not Russian aggression」
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/aug/14/russia.georgia
By any sensible reckoning, this is not a story of Russian aggression, but of US imperial expansion and ever tighter encirclement of Russia by a potentially hostile power. That a stronger Russia has now used the South Ossetian imbroglio to put a check on that expansion should hardly come as a surprise. What is harder to work out is why Saakashvili launched last week’s attack and whether he was given any encouragement by his friends in Washington.
「What is harder to work out is why Saakashvili launched last week’s attack and whether he was given any encouragement by his friends in Washington.」
の部分は確かに疑問が残るところですので、太田さんに解明して頂ければ・・・と思ってます。
<太田>
 コソボについては、以前(コラム#2375、2391、2417で)、お答えをさせていただいたことがあります。
 私としては、分離独立しようとしている側に対し、母国側が非人道的行為をどれだけやったか、そしてその母国側と分離独立しようとしている側の相互の相対的自由・民主主義度が、分離独立しようとしている側をわれわれが支持、支援すべきか否かのメルクマールだと思っています。
 最後のご質問についてですが、グルジアのサカシヴィリ大統領は次のように言っています。
 「・・・先週、ロシアは、その手先の分離主義達を使って、南オセチアのグルジアがコントロールしている、いくつかの平和な村々を攻撃し、無辜の一般住民を殺しインフラを破壊しました。
 8月6日、南オセチアをグルジア高官が交渉を試みるために訪れた数時間後に、グルジア人集落に対する大々的な襲撃が始まりました。
 この攻撃にもかかわらず、私は、事態のエスカレーションの回避を希望して一方的停戦を宣言し、いかなる形であれ、分離主義者達と話し合いがしたいという意思を表明しました。
 しかし、分離主義者達と彼らの主人であるロシアはわれわれの平和への呼びかけに答えませんでした。
 グルジア政府は、その時、ロシアのたくさんの戦車と火砲がグルジアの国境(南オセチアとロシアとの境界(太田))を越えたことを知ったのです。何千もの部隊、戦車、火砲が国境線近くに集結していたのですから、これは、ロシアがいかに長期間にわたってこの侵略を計画してきたかを証明しています。・・・」(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/08/13/AR2008081303364_pf.html
。8月14日アクセス)
 ここにはウソは全く出てきません。
 しかし、重大な欠落があります。
 最後の一つ前の段落の後、8月8日未明(7日深夜?)、グルジア軍は南オセチアの「首都」ティンヴァリに大攻勢をかけたのです。
 さまざまな報道がこれを裏付けているだけでなく、以下のような状況証拠があります。
 「先月、・・・グルジアの指導者は米国務省幹部達に<南オセチアでの>戦争計画について話したのに対し、米国務省幹部達は、コーカサスにおける複雑な民族紛争に軍事的解決はありえないと警告した」(
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/aug/12/georgia.russia
。8月13日アクセス)という経緯があるからです。
 つまり、グルジアは機会をとらえて南オセチアを軍事的に席巻しようとしていたのに対し、ロシアもまた機会をとらえて南オセチアとアブハジアを軍事的に席巻するとともに両地区に対するグルジアの軍事的脅威を除去しようとしていた、ということであり、先に手を出したグルジア側が、ロシア側の罠にかかった、と思われるのです。
 なお、グルジアとロシアを比べれば、グルジア自身、到底成熟した自由民主主義国とは言えませんが、非自由・民主主義的なロシアとは比べものになりません。
 また、非人道的行為についてですが、グルジア軍によるティンヴァリへの大攻勢の際、南オセチアの一般住民2,000人が殺されたとのロシア側の発表は著しい誇張であった可能性が高い(コラム#2729。未公開)一方、ロシア軍が反転攻勢に出た後、南オセチア「政府」軍がティンヴァリ北方のグルジア人の4つの村を焼き討ち、掠奪した(コラム#2729)だけでなく、「ロシア軍は<停戦合意がなった直後、南オセチア領域外のグルジア本体内のゴリを制圧した後、>ゴリから隊列を組んで<更にグルジアの首都トビリシに向けて進み、>30マイル進んだところでようやく停止した。周辺の村々から避難してきた<グルジア人の>人々の証言によれば、このロシア軍の隊列の後方に、ロシア正規軍に加わったチェチェンと<北?>オセチアの志願兵達が続いていた。目撃者達の主張によれば、この志願兵達は、掠奪、砲火、殺戮と強姦を繰り返した上、これら非正規兵達は<グルジア人の>若い男女達を拉致していった。」(
http://www.guardian.co.uk/world/2008/aug/14/georgia.russia
。8月14日アクセス)というのですから、ロシア側・・すなわち、南オセチア(とアブハジア)側・・の非人道的行為の方が段違いにひどかったと言えるでしょう。
<スワン>
 今、ダライラマが来仏していて、毎日TVとラジオで「今日のダライラマ」を報道しています。昨日は上院に招かれていました。
 ダライラマダライラマって、グルジアのニュースよりダライラマを優先的に取り上げているラジオまであります。
 新しくできた仏教施設を訪問したときのTVニュースで、ブリー(チーズ)をプレゼントされたダライラマが珍しそうに匂いを嗅いでるシーンがあって、それが可愛らしくて周りのフランス人が和んで笑っていました。
 ダライラマが人気なのは可愛げがあって、どう見ても中共のお歴々よりダライラマのほうが善人に見えるからでしょうね。
<太田>
 中共当局に対する、ダライラマ率いるチベット人の平和闘争と、指導者なきウィグル人によるテロ闘争のどちらが功を奏するのか、注目されます。
 ダライラマ亡き後のチベット人の闘争ぶりがどう変わるのか、あるいは変わらないのかも興味あるところですね。
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太田述正コラム#2731(2008.8.15)
<サルコジ批判(その1)>
→非公開