<太田>
 昨日午後から、一読者の方のお誘いで、彼が共同所有しているヨットに、平素このヨットをつないでいる三浦半島の小網代から乗船し、三崎港まで赴き、花火見物をして、再び夜、小網代までクルーズして戻る、という小バカンスを楽しんできました。
 行きの太平洋の荒れようったら、天気はいいのに、波が高く、デッキにしがみついていましたが、相当波を被りました。また、花火の最中から帰港までの間、稲妻があちこちで見られ、まるで日本中で花火をやっているようで壮観でした。
 私の「留守中」にも、読者の皆さんから投稿が活発に寄せられており、うれしい悲鳴をあげています。
<読者> 
 コラム#2625「イラン攻撃準備完了のイスラエル(その2)」を読みました。
 大田さんは以前、イランは多数のユダヤ人を擁する稀有なイスラム国家でもあると紹介されていましたね。この観点からの論考は何かないのでしょうか?
<太田>
 コラム#1552と2084でちょっと触れています。
<真井>
≫実際は貴族のみが人間らしい暮らしをしていただけで、大半の国民の先祖は乞食同然だった。≪(コラム#2728。naka)
 これはある意味イギリスの間違いなのではないですか。囲い込み以降のイギリスの惨状はポランニーの『大転換』にくわしいです。
 フランスのことはトクヴィルの『アンシャンレジーム』を読んだらちょっとわかると思います。アンシャンレジームでは貴族は領民のためによく働いたといっています。
 フランスの田舎に行ったら、今でもどんなに豊かな国かわかるでしょう。あれほど農産物がとれるのに、「乞食同然」ということはありえないと思います。
<太田>
 これについては、「中世」におけるイギリスとフランス等の欧州諸国とを比較して論じる必要があります。
 コラム#54をご参照下さい。 
<Pixy>
≫つまり、グルジアは機会をとらえて南オセチアを軍事的に席巻しようとしていたのに対し、ロシアもまた機会をとらえて南オ セチアとアブハジアを軍事的に席巻するとともに両地区に対するグルジアの軍事的脅威を除去しようとしていた、ということであり、先に手を出したグルジア側 が、ロシア側の罠にかかった、と思われるのです。≪(コラム#2730。太田)
 どうやらグルジア側の勇み足ではないか?ということですね。グルジア軍が最初の数日で南オセチアに侵攻して支配下に置いた状態のまま、停戦に持ち込めるとも思えませんし、グルジアにどのような勝算があったのか不思議なところです。
 グルジア側の国内事情を押さえてないので詳細は分かりませんが、国際社会を味方に付け有利な状態で早期停戦に持っていければ御の字、仮にロシアに反撃されて散々にやられたとしても、想定される自国民の被害と、それによって得られる国際社会の同情、西側の更なる軍事・経済支援、NATO早期加盟への地ならし、などを天秤にかけて開戦に踏み切ったのなら、「自由民主主義国家」の名に値する素晴らしい指導者でしょう。
 「非人道的行為についてですが、グルジア軍によるティンヴァリへの大攻勢の際、南オセチアの一般住民2,000人が殺されたとのロシア側の発表は著しい誇張であった可能性が高い」(コラム#2730。太田)はおっしゃる通りで、鵜呑みにはできないと思いますが、
「目撃者達の主張によれば、この志願兵達は、掠奪、砲火、殺戮と強姦を繰り返した上、これら非正規兵達は<グルジア人の>若い男女達を拉致していった。」(コラム#2730。太田)」についても、実際に記事中に証言は検証できない旨の但し書きがあったように、全て事実であるかのごとく扱うのも危険かと思います。
 もちろん証言が本当の話である可能性も十分考えられますし、直接取材できない以上は、各紙の記事から判断するしかなく、その中でも太田さんが英紙を評価されていることも分かりますが、このタイミングでロシア側民兵の残虐行為の話が出てくるというのは(ボスニア紛争時にセルビア側民兵の残虐行為のみが喧伝されてセルビア側が一方的に悪者にされた事例を思い起こすまでもなく)何か意図があるのではないかと勘ぐらざるを得ません。
Seumas Milne氏の記事にあった下記の部分も頭の片隅に置いておくべきかと思います。
「Saakashvili’s links with the neoconservatives in Washington are particularly close:the lobbying firm headed by US Republican candidate John McCain’s top foreign policy adviser, Randy Scheunemann, has been paid nearly $900,000 by the
Georgian government since 2004.」
<太田>
 先にロシア側の非人道的行為について。
 そもそも、ロシアのプーチン体制には、旧KGB要員らを支配グループとする、国家挙げての犯罪組織であるという側面があることを忘れてはなりません。
 ロンドンでのリトヴィネンコ殺害事件(例えば、コラム#2508)等からも分かるように、状況的に、プーチン体制は、体制への挑戦者をロシア内外で暗殺していると見てよろしいし、モルドバ内の「独立」地域等における麻薬や武器等の密輸等を行っている国際犯罪組織(コラム#2535)ともつながっていると解してしかるべきなのです。
 グルジア内の「独立」地域である南オセチアでも事情は同じです。
 While the Russian “peacekeepers” who entrenched themselves in the conflict zones in the 1990s (and who will now likely resume their posts anew) have proved ineffectual and uninterested in maintaining stability, they’ve been highly successful in protecting an array of sophisticated criminal networks stretching from Russia through Georgian territory. South Ossetia, in particular, is a nest of organized crime. It is a marketplace for a variety of contraband, from fuel to cigarettes, wheat flour, hard drugs, weapons, people and, recently, counterfeit United States $100 bills “minted” at a press inside the conflict zone.
 “It’s a pretty sophisticated counterfeiting piece,” the American ambassador to Georgia, John Tefft, told me when I was in Georgia last year. He added that the fake bills appear so authentic that, if you weren’t specifically looking for a forgery, you’d easily miss it. More than $20 million worth have been found up and down the East Coast of the United States as well as in Israel, Russia and Georgia.・・・
 Because South Ossetia is within Georgia’s internationally recognized borders, Georgia doesn’t recognize the South Ossetian periphery as a legitimate frontier, and has thus refused to post border guards or impose any normal controls at the administrative line. ・・・
 Three years ago, Georgian intelligence officials began receiving reports from South Ossetian criminal contacts that a Russian smuggler - a North Ossetian calling himself Oleg - was circulating in Tskhinvali, the South Ossetian capital. He was reportedly looking for a buyer for what he claimed was high-quality enriched uranium pilfered from the Russian military.・・・
 In this case, we got lucky. A haphazard sting operation run by Georgian paramilitaries and Interior Ministry agents recovered the 100 grams of highly enriched uranium and captured Oleg Khinsagov, the Russian smuggler, and three Georgian associates. (

。8月16日アクセス)
 こんな犯罪者集団の息のかかった連中を民兵に仕立てて、グルジア本体内への侵攻に際してロシア軍に同道させたのですから、どんな非人道的行為が起きるかは、ロシア当局は承知していたと考えざるを得ません。
 私の引用したガーディアンに出てくる証言の信憑性は大いにある、と言ってよいでしょう。
 次に、ロシアとグルジアのプロパガンダ合戦についてです。
 後でライサさんが言及されているラリー/キング・ライブ等、グルジアのサカシヴィリ大統領は欧米のメディアに出ずっぱりで、「戦争」に惨めに敗北したグルジアがプロパガンダではロシアに勝利を収めつつあります。
 それもそのはずであり、
 Last year Saakashvili paid a reported 500,000<EURO> to engage Brussels’ Aspect Consulting to brand Georgia as a western wannabe, a Nato and European Union aspirant, emphasising everything from its fabulous food and drink to its liberties and democratic politics.
 The PR campaign went into overdrive last week when Georgia found itself on the receiving end of post-Soviet Russia’s first ever invasion of another country. Reporters covering the conflict have been showered daily with emails providing news, contact details, mobile phone numbers of officials, video footage, background material, and tele-conference access to Georgians from Saakashvili down. Highly efficient, highly effective, usually punctual.(
http://www.guardian.co.uk/world/2008/aug/16/georgia.russia
。8月16日アクセス)
という、グルジアの長年の努力が実を結んでいるというわけです。
<ライサ>
> ・・・グルジア政府は、その時、ロシアのたくさんの戦車と火砲がグルジアの国境(南オセチアとロシアとの境界(太田))を越えたことを知ったのです。何千もの部隊、戦車、火砲が国境線近くに集結していたのですから、これは、ロシアがいかに長期間にわたってこの侵略を計画してきたかを証明しています。・・・
 南オセチアの地図を見ると、主要な道路(北オセチア国境からTskhinvaliまでの)は1本(途中の主な町は→Zemo,→Rroka,→ Vaneli→Kvemo→Java, Didi gupta→Kekhvi→ Kurta→ Tamarasheni,→Tskhinvali・・・・・Gori)のようですし、、国境地帯は山岳地帯ですから、そんなに沢山、道が あるとも思えません。
>・・・軍事的解決はありえないと警告した・・・(太田)
 アメリカの偵察衛星は、国境といっても狭い範囲ですから、当然移動していて監視をし、情報を得ていたと思うのですが、警告にもかかわらずグルジア政府は勝手に行動した。だからグルジア政府には知らせていなかったのでしょうか。それともグルジア政府の将来的行動や思惑など当の承知で、あえてポーズとして前もって言ったのでしょうか。
 それともロシアの侵入を侵略的に、劇的に報じ、ロシアの不当性?を世界にアピールするために、わざと、情報を教えなかったのでしょうか。または、グルジアの政府も連絡を受けたり情勢は分析していたのに、自らの進行の非行?を薄めるために、先ずロシアが悪いのだというイメージ作りに利用したのでしょうか。
>・・・長期間にわたってこの侵略を計画してきたかを・・・(太田)
と、言うことは、数箇所にかなり大量に物資・武器・兵器・人員等の集結等があったのではないかと思いますが、これも偵察衛星で、とっくに分かっていたはずなのに、まったく知らん振りをしていたということでしょうか。
 すべてアメリカの長期的世界情勢の分析を欠く、近視眼的対応のひとつなのでしょうか。それとも、もっと大きな戦略がアメリカにはあるのでしょうか。きわめて回りくどい(深謀遠慮)、マッチポンプ的行動なのでしょうか。
 深読みすると、すればするほど、私の頭では、分からなくなってきます。もっとも、芥川の小説「藪の中」のように、すべてが真実で、両者ともに真実なのかもしれませんが。 上記(衛星による偵察の有無とその戦略的利用)の今回の事柄に関する太田さんのご意見はどうでしょうか。また人道的援助と称する、アメリカの対応の早さも予め織り込み済みだったのでしょうか。「ナンセンス」な疑問が湧いてきてしまいました。(笑)
 馬鹿にしないで教えてください。
(お盆で暇なものですから、度々すみません)
<太田>
 単純な話だと思いますよ。
 「何千もの部隊、戦車、火砲」を短時間で「国境線近くに集結」させる計画をロシア側が練っていたということであり、実際に「集結」していたわけではなかったのでしょう。
<ライサ>
 –順番が!–
Gorbachev: Georgia started conflict in S. Ossetia(南オセチアでの紛争はグルジアが始めた)
 Larry King King の番組の中で、彼が私の夫であるミハイル(ゴルバチョフ)とグルジア大統領サーカシビリ(サカシヴィリ)の両方にインタービューしています。記事は
http://edition.cnn.com/2008/WORLD/europe/08/14/gorbachev/index.html
で見られます。
 ビデオはサーカシビリのが見つかりません。
 最初、ミハイル(以下ゴルバチョフと言いますに)にインタビューをして、それを聞いていたサーカシビリ大統領が意見を言います。
 当然のごとく、オセチア問題に関しては、ゴルバチョフはロシアの正当な立場や西側テレビの偏向報道や、ロシア以外の国の周到に計画された策略であると言い。それを聞いたサーカシビリは当然グルジアの行動の正当性を訴え、HRNのレポートを効果的?に引用したり、ゴルバチョフの偉業?(ソビエト連邦からロシアへ、それに伴う冷戦構造の緩和・欧州に対するソビエトの圧力を削減等々)を讃え、尊敬していた人からこのような言葉を聞くのは残念であるし、恥を知るべきだの様なことを語っていました。
Gorbachev also said the United States is jeopardizing its fragile relationship with Russia by backing Georgia.
 やはり危うい関係、、深入り(武器援助やさまざまな肩入れ)するなと言いたいんでしょうか。
 しかし、これが米・ロやほかの国々にとっても良い関係や国際間の安定を作るチャンスでもあると言ってました。
 以上は概略で正確に対応した訳ではありません。訳に関する突っ込みはご遠慮願います。もしくは不満の方はお上手に訳してください(笑)
 これが逆にサーカシビリが先で、ミハイルが後だったら、もっと違った角度で夫は話したかもしれないのに、そして、視聴者はもっと深く知ることができたのではないかと思いました。やはり、その点もCNN(アメリカ)はグルジア贔屓を念頭に置いていたのでしょうか。後の方がいろいろ有利ですものね。前に言った 人は反論できませんものね。そういう構成まで考えるものなのでしょうか。
<安保さんに同意する一読者>
 ちょっと忙しかったので見にこれなかったのですが、移民の話は終わってしまったみたいですね。
 貧しく学のない人たちとインテリとの違いのことで一言だけ。
 安保さんが、太田述正掲示板に投稿しておられたこちら↓のご意見にまたまたまったく賛成です。
>人間って言うのは・・・。東大入ろうが、トップと屑、国会議員になろうが、トップと屑一流企業に行こうが、トップと屑ホームレスであっても、トップと屑
 スラムに暮らす学のない人たちの中でも頭のいい人はいくらでもいます。人間には運、不運がありますから。努力が足りないとかそういう問題ではありません。
 インテリとスラムの人との違いは、失うものがたくさんあるか何にもないかの違いです。
 スラムの失うものが何にもない人たち、物質的にも貧しくて財産はなく、家柄とか学歴とかのお飾りもない、家族さえないかもしれない人たちは無茶をしますから、社会が無秩序になってしまいます。希望がなくて、なんにでも恨みや敵意を持つ精神構造が代々受け継がれたりします。
 だから、失うもののない人を増やすような徳のない政治をしてはいけません。
 家や土地を持たせ、家族を持たせ、家の名誉を守らせる。
 それが江戸時代的、仏教的な価値観に基づく政治ですよね。
<ライサ>
>スラムに暮らす学のない人たちの中でも頭のいい人はいくらでもいます。人間には運、不運がありますから。努力が足りないとかそういう問題ではありません。
 あなたのおっしゃることは部分的には分かります。
 私は、自分で頭がいいと思ったことは、あまりありません。しかしたまに、何か上手くできたとき、「私ってなんてさえているんだろう」、「何でこんなに簡単にできちゃったんだろう」と思うことがあります。
 「頭がいい」ってどんなことを言うのか決まってないのが問題だし、努力ってどこまでやったら「努力したっ!」て言うのかも分かりません。
 私の基本的考え方は、「運・不運」て一概には決められないってことです。「人間万事塞翁馬」って知っているでしょう。「生意気言うなっ!」て言われるかもしれないけれど、運が良いと思っていることが実は不運かもしれないですよね。
 変な例で申し訳ないけど、会社の面接に行くのに、電車で行こうとしたら、寝坊して行けなかった。行けば面接だけ残っていたのだから、多分受かったに違いない。「俺ってなんて不運なんだ」、と思ってテレビをつけたら、乗るべき電車が転覆して大勢死んでしまっていた。「俺ってなんて幸運なんだろう」ってなりますよね。
 「そんな簡単な問題ジャーねーよっ」て言われればそれまでですけど。人生なんて、自分のできる範囲でしか、できないって考えれば、、、、またまた脱線してきました。
>だから、失うもののない人を増やすような徳のない政治をしてはいけません。家や土地を持たせ、家族を持たせ、家の名誉を守らせる。
 大賛成です、でも、いつの時代にも、これを完全に実現した時代はなかったと思いますし、将来にわたっても、実現しそうにもありません。
 太田さんご推薦の民主党に入れたら実現するかな? 完璧には無理だろうなー(笑)
<太田>
 だけど、こういった候補者には投票しないようにしましょうね(コラム#1156、1158参照)。
 「所得税法違反(脱税)などの容疑で東京地検特捜部に再逮捕された社団法人「日米平和・文化交流協会」専務理事、秋山 直紀容疑者(58)が、民主党の前原誠司副代表の政治資金パーティー券の購入を、協会の会員企業に割り振って斡旋していたことが分かった。斡旋額は数年前から毎年100万円前後に上ったという。・・・協会は国から平成18年度に1000万円、19年度に400万円の助成金を受けていた。所管の外務省文化交流課は「秋山容疑者が協会専務理事として行ったことなら非常に不適切。定款外の活動に当たるので協会側に説明を求めたい」と調査する方針。・・・これに対し、前原氏の事務所は産経新聞の取材に回答しなかった。・・・前原氏は昨年まで、日米平和・文化交流協会に事務局を置く安全保障議員協議会の理事を務めていた。協議会の事務局長は秋山容疑者だった。昨年11月に3日間の日程で開かれた協議会の国際会議では、前原氏が初日に基調講演を行い、2日目と3日目のパネルディスカッションではパネリストを務めていた。同協会の会員企業は昨年まで、三菱重工業、山田洋行など15社だったが、今春までにいずれも退会した。」(
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/080814/crm0808140205004-n1.htm、
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/080814/crm0808140205004-n2.htm
(8月14日アクセス)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
太田述正コラム#2733(2008.8.16)
<サルコジ批判(その2)>
→非公開。