太田述正コラム#13440(2023.4.23)
<小山俊樹『五・一五事件–海軍青年将校たちの「昭和維新」』を読む(その43)>(2023.7.19公開)

 「・・・8月15日、尊攘同志会を名乗る12人が芝の愛宕山に武装してたてこもった。
 木戸幸一内大臣らの襲撃に失敗した彼等は、警官隊の呼びかけにも応じず、22日、警官隊の突入とともに手榴弾で自爆。
 10名が死亡した(愛宕山事件(注134))。

 (注134)「降伏に反対する右翼団体「尊攘同志会」の首領・飯島与志雄ら12名が愛宕山に篭城した。飯島らは抗戦派軍人の決起を期待し、これに呼応するため日本刀や拳銃、手榴弾等で武装していた。
 これを知った警視庁では約70名の警官隊を動員し、愛宕山を包囲、投降を呼びかけた。飯島らは説得を拒否し立て篭り続けたため、22日午後6時頃、警官隊が発砲し突入、追いつめられた飯島らは手榴弾で自決を図り、10名が死亡、2名が捕えられた。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%84%9B%E5%AE%95%E5%B1%B1%E4%BA%8B%E4%BB%B6
 「飯島与志雄(1911~1945年)<は、>・・・千葉県館山・・・出生<。>・・・大学・・・卒業後、「興亜青年運動」を結成、機関誌「大義」を刊行するなど興亜運動に従事。昭和15年「尊攘同志会」を結成。20年8月日本の終戦に反対、海軍厚木航空隊(小園安名司令官)などと呼応し「尊攘義軍」を結成、15日未明、木戸幸一内大臣邸を襲撃、16日木戸の実弟宅を襲ったが、いずれも失敗、東京芝の愛宕山にたてこもった。警官隊が包囲するなか、22日10人が手榴弾で集団自爆した。
 27日には同志の妻2人も愛宕山で[ピストル]自決。これとは別に23日に日本郵船の明朗会員12人、25日大東塾の影山庄平ら14人が集団自決する事件があった。」
https://kotobank.jp/word/%E9%A3%AF%E5%B3%B6%20%E4%B8%8E%E5%BF%97%E9%9B%84-1637725
https://senseki-kikou.net/?p=5321 ([]内)

 愛宕山で散った尊攘同志会の青年は、前田虎雄(神兵隊事件関係者)が小沼正(元血盟団)に「鍛えてくれんか」と頼んだ若者たちであった。
 執行猶予中であった小沼は三上卓に協力を頼み、三上も快く引受けた。・・・
 終戦時の混乱のなかで、もっとも危険性の高かったのは厚木海軍航空隊事件であった。
 8月20日を過ぎても、海軍機は終戦反対のビラを撒布していた。
 厚木海軍航空隊は、なかでも強硬に徹底抗戦を主張し、愛宕山の尊攘同志会と連携をとって「尊攘義軍」を結成、抵抗を続けた。
 厚木海軍航空隊指令の小園安名<(注135)>大佐は元霞ヶ浦航空隊の教官で、古賀や青年将校の厚い信頼を得た人物であった。」(251~252)

 (注135)1902~1960年。海兵51期。「鹿児島県川辺郡万世町(現・南さつま市)に生まれる。・・・
 1945年10月、小園は日本最後の軍法会議にかけられる。・・・最終階級は海軍大佐剥奪。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E5%9C%92%E5%AE%89%E5%90%8D
 「国体不滅を信じていた小園はこのまま日本が降伏すればソ連により皇室は根絶やしにされ、日本は滅亡すると危惧していたうえ、月光の斜銃装備や特攻反対などの提案を却下し、敗北を重ねた末に降伏を決めた海軍上層部への反感を強めていた。そして連合艦隊司令部と全艦隊に「302空は降伏せず、以後指揮下より離脱する」と伝達。部隊に「日本は神国、降伏はない、国体に反するごとき命には絶対服さない」と訓示を行う。翌日から陸海軍、国民などに対して軍用機で各地に『皇軍厳トシテ此処ニアリ』『重臣ノ世迷言ニ惑ワサルルコトナク我等ト共ニ戦へ』などと書かれた檄文を撒き呼びかけて回った。・・・
 宮城事件で玉音放送用の録音盤の奪取ならびに放送の阻止を図った陸軍将校は、武力による実害が発生したにもかかわらず、自決した者以外は裁判もなされずに釈放されている。また厚木と全く同様の抗戦を企てた者として、陸軍飛行九十八戦隊(児玉飛行場)の宇木素道少佐、あるいは陸軍狭山基地の山田少佐、台湾の海軍一三二航空隊がいた。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%9A%E6%9C%A8%E8%88%AA%E7%A9%BA%E9%9A%8A%E4%BA%8B%E4%BB%B6

⇒熱烈な秀吉流日蓮主義信奉者で、杉山構想を開示されていなかった人々の中から、終戦時点で、まだ何も達成していないと誤解し、こういった悲喜劇を引き起こしてしまうケースがある程度出来することは、避けられなかったと言えるでしょう。(太田)

(完)