太田述正コラム#2967(2008.12.11)
<ムンバイでのテロ(続々)(その3)>(2009.1.24公開)
 「<・・・そもそも、パキスタン>当局は、ラスカレタイバのテロリスト達をそっとしてきた。これは、ジャイシェモハマッド(Jaish-e-Mohammad)やラスカレジャングヴィ(Lashkar-e-Jhangvi)といった過激派組織に対する扱いとは好対照だ。
 これら組織の数百名にのぼる活動家達は、牢獄にぶちこまれるか警察との銃撃戦の末殺されているのだから。・・・
 このような扱いの違いの主な理由は、ラスカレタイバがパキスタン内でいかなる種類のテロ攻撃も行ったことがないからだ。・・・もう一つの、余り表だって語られることがない理由は、パキスタンの治安当局が、その最も恐れられているところの代理軍隊の一つとの関係を絶ちたいとは思っていないことだ。・・・
http://news.bbc.co.uk/2/hi/south_asia/7771360.stm
(12月10日アクセス)
 「ムンバイの警察は、12月9日、・・・<ムンバイのテロ実行犯達の>名前等を発表した。これはパキスタン政府に圧力を更にかけることが目的であることは明らかだ。
 <死んだ>9名のうちの8名の写真も公表された。パスポートの写真と死亡後の写真だ。・・・
 パキスタン政府は、・・・ジャイシェモハマッドの長であり、2001年のインド議会攻撃の黒幕と非難されているマスード・アズハル(Masood Azhar)<も>拘束した。・・・
 <他方、>パキスタン当局は、ムンバイのテロが始まってから24時間以内に名前が浮上した<実行犯の一人で生き残った>カサブの出身地を真剣に捜査しているようには見えない。残りの実行犯達の名前も公表されたものの、同様の扱いになるのではないかと懸念されている。・・・
 インドの公式筋によれば、アズハルは過去2度にわたってパキスタン当局によって拘束されたが、「数ヶ月」以内に釈放されているという。
 ニューヨークタイムスへの寄稿の中で、<パキスタン大統領の>ザルダリは、対テロ戦略に一身をなげうつと記した。<そして、>パキスタン内で発見された無国籍活動家達については、犯罪者、テロリスト、殺人者として適切に対処すると続けた。」
http://www.guardian.co.uk/world/2008/dec/10/mumbai-terrorist-attacks-suspect-identity
(12月10日アクセス)
 「アズハル・・・が2001年12月のインド議会への血生臭い攻撃がらみで拘束された時、パキスタンの裁判所は11ヶ月後に彼を釈放した。・・・
 パキスタン政府が現在とりつつある措置は、米国が後ろ盾となっている同政府が、自分達が創設を助けた武装イスラム集団と本当にあいまみえようとしているのか、そして同国の強力な軍部と諜報機関がそんなことを文民官僚達がやるのを許すかどうか、のリトマス試験紙であると言えよう。・・・
 まだ、パキスタン政府は、インドが引き渡せと要求した容疑者達の引き渡しを拒んでいるし、7日から始めた急襲によって拘束した22名の大部分の名前を明らかにすることも拒否している。・・・」
http://www.nytimes.com/2008/12/11/world/asia/11pstan.html?ref=world&pagewanted=print
(12月11日アクセス)
 「<ムンバイのテロの>実行犯の10名は、全員30歳未満で全員がパキスタンからやってきており、その大部分はパンジャブ州の出身だ・・・。連中の指導者は、25歳のイスマイル・カーン(Ismail Khan)であり、パキスタンの北西辺境州出身だ。・・・
 <片やインドや米国からの圧力、そして片や国内宗教勢力等からの>圧力の板挟みとなったためだと思われるが、<パキスタンの>ムフタル<(Chaudhry Ahmed Mukhtar)国防相>は、ラクフィの逮捕をパキスタンではなく、インドのニュース機関<(ラジオ局)>に明かした。・・・」
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-mumbai10-2008dec10,0,2507842,print.story
(12月11日アクセス)
 「パキスタン政府は、10日、ムンバイの乱暴狼藉テロの計画を立てた容疑者として二人目の男を拘束したと述べた・・・。
 すなわち、パキスタンの首相のユサフ・ラザ・ギラニ(Yusaf Raza Gilani)は、治安部隊が・・・ラスカレタイバ構成員のザラル・シャー(Zarar Shah)を拘束したと報道陣に語った。
 シャーは、ラスカレタイバ(「純粋なる軍」)と10人の<ムンバイ・テロリスト>との間の連絡役を務めた容疑がかけられている。・・・
 しかし、同じ日にギラニは、パキスタンの国防相がその前日に語ったところの、もう一つの非合法化されたカシミール過激派集団の・・・アズハルを自宅拘禁したとの言明にもかかわらず、その事実を撤回した。・・・
 ギラニは、アズハルが自宅拘禁されたことを認め(confirmし)ようとしなかったのだ。
 これは、・・・ムンバイのテロへの<インドや米国からの>非難にどう応えたら一番よいかについて、パキスタン政府が揺れ動いているかまたは決めかねていることの反映であるように見える。・・・」
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-pakistanarrest11-2008dec11,0,56513,print.story
(12月11日アクセス)
 「・・・米国は、英国とフランスの支援を受けて、国連安保理のメンバー国に対し、・・・国際テロ犯・・・のリストにサイード(Saeed)も加えるように5月に試みたが、<パキスタンと親しい>中共によって阻止された。2006年4月にも<ジャマート・ウド・ダワ>を国際テロ組織のリストに加えようとする試みがなされたが、やはり中共によって阻止されている。・・・」
http://www.nytimes.com/2008/12/10/world/10nations.html?pagewanted=print
(12月11日アクセス)
 「・・・ムンバイにおけるテロ攻撃は、・・・米国の諜報官僚達の間で、ラスカレタイバが米国の国益に対する潜在的脅威として、そしてアルカーイダの潜在的後継として立ち現れつつあるのではないかという懸念を呼び起こした。
 銃撃犯達が少なくとも米国人を6名殺した・・・<し、>・・・ユダヤ人を6名殺した<ことを想起せよ>・・・。
 既に1999年において、ラスカレタイバのウエブサイトは、インド、米国、そしてイスラエルの3カ国の旗が血の滴る刀によって貫かれているロゴを掲げたものだ。・・・
 <ラスカレタイバの>基地にいたことのある工作員達は、様々な事件に結びつけられている。その中には、英国当局によって防止されたところの、大西洋を飛行する米国の旅客機を爆破しようとした2006年の事件が含まれている。・・・」
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-pakistan10-2008dec10,0,3742700,print.story
(12月11日アクセス)
4 終わりに代えて
 ニューヨークタイムスへの上記寄稿中で、ザルダリは、妻ブットがイスラム過激派のテロで殺されたことを挙げて、対テロへの決意を披露していますが、ザルダリが勧進帳の 弁慶ではなく、せめてハムレットであることを信じたいところですね。
 何せ、イスラム過激派に強く出ると、彼の前任のムシャラフこそ、軍部と諜報機関が積極的に守ってくれたおかげで、テロで殺されることを免れたけれど、ザルダリは、同様の保護を期待できないだけに、間違いなくテロで殺されるでしょうから、同情すべきではあります。
 日本の政治家の誰でもよろしい。
 パキスタンで大統領をやる度胸のある人はいますか?
 いるわきゃないよね。
(完)