太田述正コラム#3084(2009.2.8)
<人間にとって青年期とは何か(その1)>(2009.3.24公開)
1 始めに
 人間にとって青年期(=10代=teens=青春=adolescence)とは一体何なのでしょうか。
 英国のベインブリッジ(David Bainbridge)が出版した’Teenagers: A Natural History’という本の書評を手がかりにこの難問に迫ってみましょう。
 ちなみに、ベインブリッジは、獣医の資格を持つケンブリッジ大学の臨床動物解剖学者です。彼は、進化生物学(evolutionary biology)、古人類学(palaeoanthropology)や心理学をも駆使しつつ研究を行っている人物です。
 (以上と以下は、
http://www.ft.com/cms/s/2/17b0321e-ee5b-11dd-b791-0000779fd2ac.html
http://entertainment.timesonline.co.uk/tol/arts_and_entertainment/books/non-fiction/article5606652.ece
http://newhumanist.org.uk/1975
http://living.scotsman.com/bookreviews/Book-review-Teenagers-A-Natural.4947581.jp
http://www.newstatesman.com/books/2009/02/david-bainbridge-teenagers
http://www.guardian.co.uk/lifeandstyle/2009/feb/07/family6
http://www.theherald.co.uk/features/features/display.var.2486531.0.the_new_zoo_way_to_tame_a_teen.php
(いずれも2月8日アクセス)による。)
2 青年のイメージ
 ・・・ほとんど全ての青年は、気むずかしく、陰鬱で、感謝の念を持たず、敵対的で、見栄っ張りで、攻撃的で、性欲に突き動かされ、自殺願望があって、これらがしばしば同時に現れる。・・・
 <青年は、>予見力がなく、感情が不安定で、衝動的、等々<という特徴がある。>・・・
 大人は、アリストテレスやシェークスピアの昔から、青年のこういったちょっとした問題行動をとりあげては、青年達を批判し、馬鹿にし、善導しようとしてきた。・・・
3 青年の出現
 青年(12歳以上にもなってまだ未成熟な最初の人間)が出現したのは、直立原人(Homo erectus)から人間(Homo sapiens)への移行期のことだった。・・・
 <直立原人と違って人間は、>状況の変化にユニークな容易さで適応することができる<ことはご存じの通りだ。>・・・
 「人間以外の動物には青年期に相当するものがない」とベインブリッジは言う。「このことは、青年が我々にとって何か役に立つことをしてくれていることを示唆している。さもなければ我々は青年を進化の過程で生み出したはずがないのだ。・・・
 今から80万年前から30万年前までの間に、青年が洞窟から(間違いなくブツブツ言いながら)出てきた。歯の化石から計算すると、その頃から、成熟期が現在の女性18歳、男性21歳へと次第に上昇した。同じくらいの大きさの他のほ乳類は、はるかに早く成熟する。一般にほ乳類は、3歳になるまでに生殖行為を始めるものなのに。・・・
 人間は、巨大な大脳皮質を持っているが、6歳になるまでに大脳皮質は成人の95%の分量に達する。しかし、だからと言って、誰も6歳の大脳が大人の大脳の95%相当だとは考えてない。・・・
 人間の長い青年期において、保護された環境を提供され、大脳で思考を司っている前頭葉が点火され、新たな創造的な結節が出来、他方で効率のために結節が摘まれる。これらすべてが青年である間に起きるのだから、両親は脆弱な彼らを保護しなければならないわけだ。・・・ <このように、>大脳に可塑性(plasticity)があること、すなわち扱いかねる過剰な大脳を最も理想的には大人の分析的な大脳へと作り替えていく能力が現在の人間を生んだのだ。・・・
 青年の存在こそが、我々が長命であることの唯一の理由(excuse)なのだ。その大脳が成熟するまでの間、青年が我々によって善導され、経費を負担され、片付けをしてもらう必要性が存在しなければ、我々は30歳になるまでに全員が死んでいるはずなのだ。・・・
 基本的に、一たびあなた方が青年期を終えたならば、あなた方に残された唯一の役割は、青年達の面倒を見ることだけなのだ。「彼らは参加しつつある」のに対し、「あなた方は退出しつつあるのだ」とベインブリッジは言う。・・・
 超複雑な青年期の大脳の問題点は、それが鬱、精神分裂症、不安感といった人間にしかない精神疾患に罹りやすいことだ。・・・
 <ただし、>これらすべての疾患は、しばしば逆境において発症するのであって、成人によって強力な支援を受けている青年においては余り発症しない。・・・
4 ベイブリッジの様々な仮説
 以上のような、既に明らかになった科学的諸知見を踏まえ、ベインブリッジは青年に関する様々な仮説を提示します。
 ・・・<問題は、>科学者達が<動物の場合と違って、仮説を検証するための>実験を行うことができない点だ。例えば、青年達に化学物質を注射して彼らの大脳の発達過程に変更を加え、大脳の構造と反社会的行動との関係を検証するといったことはできない。
 その結果、ベインブリッジは、余りにもしばしば、わずかな証拠から結論を引き出し、科学的確実性のない諸理論を打ち出している。・・・
という理解の下で、以下をお読みください。
(続く)