太田述正コラム#2989(2008.12.22)
<「桜」出演準備(続x3)>(2009.6.28公開)
<MS>
 ・・・視聴者をあおる効果を考えると、・・・「右」派の人たちが自民党「タカ」派という利権団体に期待を捨て切れいないことに対する皮肉をこめて・・・「奴隷化」という刺激的な単語をいれた方が良いと思・・・います。・・・
<US>
 ・・・奴隷化という言葉もインパクトがあり、よいなぁと思っているのですが、奴隷化というと、国民は被害者で悪いのは政府というイメージを持ってしまうかもしれないと感じています。
 私は、日本が属国という状況になったのは、日本人自身のせいであることをもっと直感的に表現するキーワードがよいような気がします。
 これもベストフィットというキーワードではないのですが、私は、日本政府が今まで行ってきた政策は、愚民化政策といえるような気がします。
 ただ、このキーワードを使うと、米国陰謀説が好きな人たちが話を横道にそらしてしまう気がするので使いたくないです。・・・
<US>
 エコノミック・アニマル、<という>・・・言葉、私が子どもの頃、自国を揶揄する言葉として、結構、頻繁に使われていました。
 当時は、安かろう、悪かろうというのが日本製品のイメージであり、それでも日本は一生懸命働いて品質をあげ、コストをさげ、ここまできました。
 と、言うような、日本人にとっては、郷愁めいた思いがこもる言葉ですね。
 <この言葉を使うことも考えてみたらどうでしょうか。>
<SM>
「エコノミック・アニマル」という言葉は、・・・時代背景によっては、ちょっと受取方が違うかもしれませんね。
私の場合、最近、Victor D. Cha, 「米日韓 反目を超えた提携」という本を読んだ時に、韓国人が日本人をさして、「安全保障をすらカネで解決しようとする人たち」と意味で使われていたのを思い出し<まし>た・・・。
 <何を守るべきか、で日本文明については、次のようなフリップでどうでしょうか。>
 一枚目
——————————————————-
 <日本文明>
天皇制(=権威と権力の分離)を核として、
自然との共生思想、  
人間(じんかん)主義、
人民のための政治/行政(聖徳太子の十七条憲法)
  を生みだした文明
——————————————————–
 二枚目以降(日本文明と自由民主主義の親和性、五カ条の御誓文についてなど)
<US>
 <この>フリップ、とても好きです。
 何を守べきの深堀の議論のとき、このフリップを用いると、このときだけは、水島さん、他パネリストから賛辞が送られるかもしれません。
<MS>
 <自衛隊(日本軍)は、>国の主権をまもるのか、日本文明を守るのか?・・・
 日本文明を守ると言ってしまえば、自ずと国の主権も含まれ<るのではないでしょうか。
逆に、国の主権を守るというのならば、日本以外の領域に派兵することにさらに説明が必要になり<そうで>す。
<太田>
 「国の主権=国家ガバナンス」ということなんですがね。
 だから、「国の主権を守る=他国は守れないand/or海外派兵できない」ではないわけです。
<MS>
 ・・・国の主権、自由民主主義、日本文明を、どのように関連付けて理解すべきか、がわかりませんので、<再度>確認させてください。
国の主権=国のガバナンスを守る上で、国の土台となっている自由民主主義、日本文明を守ることが、日本の場合必要だ、という理解でよいのでしょうか?
守るべき対象としては、国の主権の方が、 自由民主主義、日本文明より、広い対象だということでしょうか?
<太田>
 「軍隊は国の主権(ガバナンス)を守る」は、万国共通の軍隊の定義みたいなものです。
 これに対し、
 「人民解放軍は主権を守ることで中国共産党による支那支配を守る」、
あるいは
 「日本軍は国の主権を守ることで、日本文明を守る」
は、特定の国の軍隊が何を守るべき価値としているか(とすべきか)についての説明、といったところです。
 こういう基本の基本のような問題については、フツーの国では当たり前過ぎて、典拠はほとんどありません。
 私自身、お二人のとの対話を通じて、アタマの整理をさせていただいています。
<SM>
・・・国の主権(ガバナンス)という概念は、価値、文明といったものより、一段階抽象度が高くて、その国の状況ごとにいかようにも、その具体的内容は変わりうるということは、理解できたような気がします。
<US>
 <以下のようなフリップもあった方がよいのではないでしょうか。>
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー<何>から守るのか - 中国軍の実態
・人民解放軍は、限定的作戦を遂行することは能力的に厳しく、着上陸作成を遂行することに至っては能力的に無理
     (典拠:「中華人民共和国の軍事力(Military Power of the People’s Republic of China)」)
・「漏れ聞こえてくる」軍人の不祥事情報
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 <不祥事情報の典拠は次のとおり。>
 「2006年4月10日に、中共の5人の海軍副司令官(一説には海軍副参謀長)の一人で全人代議員(一説には中央軍事委員会委員)で海軍中将の王守業(Wang Shouye。62歳)は、彼が陸軍将官として、軍全体の後勤部(兵站部)副部長であった1997~2001年の間に1億2,000万元(1,500万米ドル)の賄賂を業者から受け取った(一説には公金を横領した)として軍法会議で死刑を宣告されました。(刑の執行は免除された。)」(コラム#1301)
<MS>
 核保有の問題に関する<フリップ>は作らなくてもよいのでしょうか?
たぶん、核兵器ぐらいもたないと独立国にはなれない、という意見の人が、他の出演者にいるのでは、ないかと思っています。
たとえば、素人の思いつきで恐縮ですが、国の主権(ガバナンス)ということに絡めれば、「中国のように文革で自国民が何千万人死んでも、国の主権(ガバナンス)の根幹が揺るがない国にとっては、自国の核保有が引き金になって、近隣諸国で核保有国の急増が起こっても問題ないが、日本のように原爆を首都圏に一個落とされたら、皇室の滅亡をはじめとして、一気に国の主権(ガバナンス)が崩壊してしまうような国において、極力核の拡散を抑えることが最も重要で、保有するにしても、多国間の集団的安全保障体制の下、核兵器を共同管理するのが望ましい」
というような言い方はできないものでしょうか?
<太田>
 核の問題についてのフリップは、今回は止めておきましょう。
 これまでの3人の議論を踏まえて、次のようなフリップ案をつくりました。
1.ダイジェスト
<1枚目>
–経緯と現状の認識–
経緯
日本は自らの意思で属国(外交、防衛を米国に依存)となり、
経済に専念することを選択=吉田ドクトリン
        |
エゴイズムの奨励(集団的自衛権行使の禁止)と
国家ガバナンスの放棄 
        ↓                 
     
退廃・腐敗の政官業癒着構造
 (外務省・防衛省・厚労省・国交省・農水省・・・)
現状
             
 日本:米国に隷属      
日本人:政官業癒着構造に隷属 
<2枚目>
–何をなすべきか–
   日本人に、国と個人の隷属状態を直視させる !!!(変更点)
      ↓    
政権交替により政官業癒着構造を粉砕する
    ↓
   政界再編により日本を独立させる
       |
   政府解釈変更により集団的自衛権行使等
最も望ましいのは、憲法第9条第2項の削除
<3枚目>
–何を守るのか(総論)–
・軍隊は、警察とは違って、国民の生命・財産を守る組織ではない
・軍隊は、国、すなわち国の主権を守る
・守るべき価値は、自由主義陣営の一員として、自由民主主義
・また、日本として、自由民主主義と親和性のある日本文明
・よって、守るべきは、
 日本>韓国、台湾>左以外の自由主義陣営・勢力>その他
<4枚目>
–直接侵略の脅威はない–
 四囲が海
 在日米軍と在韓米軍、それに韓国軍が存在
 よって、核を除き、直接侵略の脅威などない
 (冷戦時でさえ実はなかった)
2.個別論議
<5枚目>
–脅威でない人民解放軍–
・人民解放軍の能力
台湾の海上封鎖も台湾への侵攻も不可能
   (典拠:米国防省「中華人民共和国の軍事力
(Military Power of the People’s Republic of China)」)
・人民解放軍の性格
   中国共産党の私兵   
<6枚目>
–存在意義がない自衛隊–
 法治主義(ポジリストによる規制)
  政府憲法解釈により、
  交戦権、軍法会議など、軍隊の基本的な機能を欠如したまま、
  ポジリストにより管理されている
          |
V
 国内法上、単なる一行政機関=今でも「警察」予備隊
 しかも政府憲法解釈により、集団的自衛権行使が禁じられている
⇒存在意義がない組織
⇒必然的に退廃、腐敗
<7枚目>
–英米の軍隊との比較–
米国、日本、英国の共通点
 - 近隣に差し迫った脅威がない。
 - 世界有数の経済大国
日本
 防衛費(対GDP比<1%)、しかも米国民への見せ金
            (日米安保を保つため)
英米
 防衛費(対GDP比>2~3%)、ほとんど全て国際貢献のため
自衛隊も、真の独立国の国軍として、
国際貢献を行うことで、日本の平和と繁栄を支えるべき
<8枚目>
—守るべき価値(日本文明)—
天皇制(=権威と権力の分離)を核として、
自然との共生思想、  
人間(じんかん)主義、
人民のための政治(聖徳太子の十七条憲法)
  を生みだした文明
<9枚目>
—守るべき価値(自由民主主義)—
  日本固有の言語(つまり、思想)で書かれた五箇条の御誓文
(1868年4月6日)に表現
一 広ク会議ヲ興シ万機公論ニ決スヘシ
一 上下心ヲ一ニシテ盛ニ経綸ヲ行フヘシ
一 官武一途庶民ニ至ル迄各其志ヲ遂ケ人心ヲシテ倦マサラシメン事ヲ要ス
一 旧来ノ陋習ヲ破リ天地ノ公道ニ基クヘシ
一 智識ヲ世界ニ求メ大ニ皇基ヲ振起スヘシ
 この意味でも戦前と戦後は連続