太田述正コラム#3390(2009.7.12)
<皆さんとディスカッション(続x537)>
<自称御釜>
≫もちろん、中共は非自由民主主義国であり、自由民主主義的な国であった日本帝国とは違います。チベットや新疆の統治にあたって、自由民主主義的土壌の涵養など全くといってよいほどやっていないでしょう。 だからと言って、中共の少数民族支配を、場合によっては事実を歪曲までして一方的に悪と決めつけるようなことは慎むべきでしょう。≪(コラム#3388。太田)
 こんなふうに多面的に視点が及ぶところが大好きです。
 でも政治家には不必要可欠。
 やっぱり太田氏は国会へ行っても簡単につぶされそうで、想像しただけでも耐えられません。
<ぶんた>
 太田さんがおっしゃる逆差別のせいなのかどうか、よくわかりませんが、漢人によるウイグル人への心理的な「(制度的なものではない)差別」は、厳しいものがあります。
 私の住む中国東北部でも、「このへんの泥棒はみんなウイグルだから」とか、「バスにウイグル人が乗ってきたら気をつけろ」というようなことを、教養水準の高い人でも平気で口にします。
 また、市内のある大学では昨年、「ウイグル人の泥棒に気をつけましょう」という張り紙が出たと、漢人の友人が教えてくれました。
 いずれにせよ、新彊に限らず中国全土において、漢人とウイグル人の間には、かなり深い感情的な亀裂が入っているように思えます。
 どちらかというと、漢人の受ける逆差別よりも、13億の漢人に囲まれ、蔑視や警戒、敵意の目が向けられているウイグル人の心情に、同情を禁じ得ません。
 ただ、ウイグル人の「強制連行?」説は、ストンと腑に落ちません。
 そもそも、ウイグル人は少数民族として一人っ子政策から除外されているのではないでしょうか。
http://en.wikipedia.org/wiki/Human_rights_in_the_People’s_Republic_of_China
 一方では、子作りを優遇し、一方では人減らしをしたり、するのかなという気がします。
 そんな無理をしなくても、新彊地区には漢人が流入しているでしょうし、出稼ぎウイグル人の屋台や食堂は、中国全土の主立った街には、どこにでも、たくさんあるのですが。
 新華社や人民網を一方、活動家、運動家のみなさんのお話(大紀元=エポックタイムズなど法輪功系メディア含む)を他方として、両方を眺めつつ、ウルムチ入りしている英米日などの外国人記者のリポートと照らしながら、本当のところはどのあたりかと考えるほかないのかな、という気がします。
 どうなんでしょう・・?
<太田>
 中共当局のメディアや中共反体制派のメディアは、事実についてのソースとしてではなく、中共当局や中共反体制派がいかなるプロパガンダをやっているかについてのソースとしてだけ利用すべきでしょう。
 私は、海外の出来事に関する事実については、英米の主要メディアをソースとしています。
 自分自身の個人的ニュースソースは用いませんし、ユーチューブ等にアップされた「一次」ソースも用いません。
 自分がたまたまその出来事に関するニュースソースを持っていたとしても、そのようなニュースソースの質と量において、一個人に過ぎない私が、英米の主要メディアのどれであれ、その組織的な力にかなうわけはありませんし、ユーチューブ等の信頼性の評価や読み解き方についても彼等より自分が勝っているとは思わないからです。
 ではなぜ、「英米」の主要メディアか?
 英国にしても米国にしても、主要メディアの記者やコラムニストや編集者の質が日本の主要メディアよりもはるかに上であること、実質的な報道の自由度においてこの両国は日本よりも上であること、そして何よりも、この両国はかつての覇権国と現在の覇権国であり、世界のすべての地域について、日本よりもはるかに厚い専門家群を擁しており、このような専門家群の知識経験がこれらメディアの質に反映されているからです。
<θθΑΑ>(「たった一人の反乱」より)
 中国は悪だろ。
 チベットもウイグルも未だに占領してるのがおかしいんだから、侵略しといて統治が大変とか知らねえっつんだ。
 そんなら分離独立を認めろ
<θΑθΑ>(同上)
 それが前提だとしても、
≫だからと言って、中共の少数民族支配を、場合によっては事実を歪曲までして一方的に悪と決めつけるようなことは慎むべきでしょう。≪(コラム#3388。太田)
 太田が注意してるのは日本人のセンチメンタルな態度だと思うよ。
 同じくセンチメンタルだった戦前の米国民を苦々しく思ってるようだし
<θΑΑθ>(同上)
 太田にとっては占領とか侵略は別に悪じゃないっぽいが。
 中共は反自由主義だから悪、ウイグルはイスラム教だから悪、チベットは仏教だから悪ではない、ってだけじゃないの?
<太田>
 以下を読んで、更にじっくり考えよう!
 「・・・漢人としては、自分達がウイグル人のためにもよかれと思って新疆ウイグル地区の発展に尽力してきた上に、逆差別の対象ともなってきたのに、ウイグル人が少しも漢人達と融和しようとせず、不平不満ばかり唱えていることで、ウイグル人に対して悪感情を抱いているらしいことは分かります。」(コラム#3389。未公開)
 つまり、戦後日本人の少なからぬ部分に見られる在日朝鮮人差別意識の原因と私が考えるもの(コラム#961)と似通った原因によって、中共における漢人のウイグル人差別意識が引き起こされているのではないか、というのが私の考えです。
 「しかし、はたしてそれだけだろうか、というのが私の問題意識です。
 私は、「ナショナリズムの陥穽」という問題と、「女性優位時代の悲哀」という問題が背景としてある、という考えを抱くに至っています。・・・
 <前者については、>中共当局は、性懲りもなくマッチポンプを繰り返しているところ、今回、ウイグル人を標的にして漢人ナショナリズムに再び燃料をくべたけれど、再びその消火に乗り出している、というわけです。 ただし、この傳で行くと、韶関の事件の方は、漢人ナショナリズムが自然発火した、ということになりますね。・・・」(コラム#3389。未公開) 
 本件関連の本日の記事もぜひ読んで欲しいな。
 ようやく、治安部隊ウイグル人射撃説を具体的に裏付けるような記事↓がワシントンポストに出ました。
 ただし、射撃による死者が3人だけだとすれば、私の言う針小棒大説(コラム#3388)があてはまることになるところ、治安当局が、ウイグル人と漢人の死者をいずれも過小発表している可能性が大ありですね。
 ・・・Nearly all of the 150 or so police snapshots of the dead appear to be of Han Chinese. Most have gashes or cuts on their heads. Only about 10 appear to be Uighur, at least three with apparent bullet wounds near their hearts — a detail that lends credence to charges by Uighur leaders that Chinese national security forces fired into the crowd of protesters. ・・・
 Two Han men in Urumqi who were searching for relatives said they believe that the government might be hiding bodies in an effort to minimize the death count. In separate interviews, they said they went to all 23 hospitals in the area and checked the police pictures, but could not find their brothers, who were near the city’s bazaar when the rioting began. ・・・ 
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/07/11/AR2009071100464_pf.html
 ガーディアンの方はまだ懐疑的だけど、上記射撃に関する証言的なものは拾い出しているね。↓
 Independent evidence to back claims by exiled Uighurs that the authorities beat to death and shot dead peaceful protesters has not come to light, despite the presence of foreign journalists. But Uighur witnesses told one reporter they had seen police shoot dead two Uighurs.
 Many Uighurs reported gunfire and the People’s Hospital said it treated people for gunshot wounds. The government has said rioters were armed.・・・
http://www.guardian.co.uk/world/2009/jul/11/urumqi-uighur-violence-victim-story
 ユーラシアの大陸部の大部分に関しては、誰が原住民で誰が侵略者かなんて議論をすること自体がナンセンスみたいね。
 新疆ウイグル地区は、人類が最後に居住した地域の一つで、わずか3,800年前に遡ること、漢人の居住の痕跡は紀元3世紀に遡ること、ウイグル人のモンゴル高原からこの地区への移住はそれに遅れること7世紀の10世紀であったこと、漢人の王朝(ただしこの場合は清)がこの地区を直接統治し始めたのは1760年であったこと↓をよっく覚えておこう。
 ・・・Uighurs did not migrate from the Mongolian steppes to what is now Xinjiang until the 10th century.・・・
 ・・・the first people to live in the region were likely West Eurasians, some of whom seem to have worshipped cows. The oldest of those mummies date back 3,800 years.
 ・・・the Tarim Basin was one of the last parts of the earth to be occupied,・・・
 The race of first settlers, the Tocharians, herders who spoke an Indo-European language, died out long ago・・・
 ・・・As for signs of the Chinese empire, the most prominent Chinese gravesites were discovered at a place called Astana, believed to be a former military garrison. The findings there date from the 3rd to the 10th centuries, ending with the Tang Dynasty, when trade along the Silk Road was at its height. ・・・
 The Chinese empire did not exercise full political control over the territory in its current shape until the Qing Dynasty, ruled by ethnic Manchus, annexed the region in 1760 and later gave it the name Xinjiang・・・
 The Qing dynasty brought the practice to a new level, greatly expanding the region’s economy. More than 50,000 demobilized troops were offered benefits if they stayed and farmed, and free land and seeds were given to Chinese willing to move here from the interior,・・・
 It was a precursor to the policies of the Communist Party・・・
http://www.nytimes.com/2009/07/12/weekinreview/12wong.html?ref=world&pagewanted=print
 ウィグル人の成人(就業対象人口?)の半分は失業しているという推計↓があるんだって。
 漢人の方も引き続き新疆ウイグル地区から逃げ出しつつある↓ようですな。
 ウイグル人はウイグル人でウルムチから逃げ出してるから、このままだとウルムチはゴーストタウンになる?
 ・・・a leading Uighur intellectual, Ilham Tohti, an economics professor at the Central Nationalities University in Beijing, has estimated that 1.5 million Uighur workers — the equivalent of half the adult males — are unemployed.
 In an interview aired by Radio Free Asia in March, he warned that there could be “no peace without equal development between Han immigrants and native Uighurs.” Tohti has since disappeared from public view and is believed to be under house arrest.・・・
 ・・・thousands of the <Han> newcomers are trying to flee — if they can get tickets from scalpers who are charging five times the normal prices for bus and train tickets out of town.
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-china-west11-2009jul11,0,2847039,print.story
 本件以外の新聞記事の紹介です。
 米国の知識人は、まだまだ宗教に対する認識が甘いね。↓
 ・・・First, the French revolution proposed that religion itself was problematic and that societies should embrace secularism. Second, America’s founders envisioned that religious freedom and its resulting competition might foster a healthy interplay of faith and politics in public life. “God Is Back” argues that while Europe has followed the French model of secularism, the American model of religious tolerance seems to be prevailing in the world today. ・・・
 ・・・the book’s main point: that religion and modernity are not at odds, that, in the American mode, they can function together to create prosperity and individual freedom. ・・・
 ・・・religion offers people a wide range of additional social rewards beyond economic ones, including comfort, community and meaning.・・・
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/07/10/AR2009071001681_pf.html
—————————————————————————
太田述正コラム#3391(2009.7.12)
<新疆ウイグル自治区での騒乱(続々)(その2)>
→非公開