太田述正コラム#3547(2009.9.26)
<イランの秘密ウラン濃縮施設>(2009.10.26公開)
1 始めに
 イランの秘密ウラン濃縮施設の存在が明らかになったことで、イランの立場は一挙に悪化しました。
 どういうことか、ご説明しましょう。
2 秘密ウラン濃縮施設
 「オバマ大統領と英国、フランスの指導者達は、25日、イランが核燃料を製造するための秘密地下工場を建設していることについて、同国が国際核査察官達から隠れてこの密かな営みを行ってきたとして非難した。・・・
 ・・・この工場はテヘランの南西100マイル、聖なる都市クム(Qum)の近くにあるとされている。・・・
 オバマ氏は、アンジェラ・メルケル・ドイツ首相も、ドイツはこれら諸国と立場を同じくすると言っていただいてよい、と伝えてきたと語った。・・・
 米国の役人達は、彼等がこの密かなプロジェクトを何年も追跡してきたところ、オバマ氏は、この米国の発見を開示するのは、イランがここ数週間の間に、欧米の諜報諸機関がこの施設群に係る秘密を探知したことに気付いてからにすることを決定したと語った。
 21日に、イランは短く、要領の得ない書簡をIAEAに提出した。
 <その書簡には、>イランが、今まで開示されたことがないところの、「試験工場(pilot plant)」を建設中である、と記されていた。・・・
 ・・・欧米の役人達によって説明されたように、この施設は産業用としては小さすぎ、存在を秘匿するためのような特別な仕様で設計されている。・・・
 この新たに発見された濃縮工場はまだ稼働を開始していない、と米国の役人達は語ったが、来年にも稼働する可能性がある。・・・
 <時あたかも、>米国も入っているという意味では30年ぶりのイランとの戦略的対話が10月1日に予定されているところだ。・・・
 「イランは3回だました。そして、これでつかまえられたのも3回目だ」と諜報に通じているある米国の政権幹部は・・・語った。
 この役人が言及したのは、ナタンツ(Natanz)の地下工場の発見をもたらすこととなる、イランのある反体制派集団によって2002年に暴露された情報<が1回目であり>、そして、米国の諜報諸機関がイランのコンピューター・ネットワークに侵入して、同国が秘密裏に核弾頭を設計しようとしているという2年前に明らかになった証拠<が2回目>だ。
 後者については、米国の役人達は、2003年末に<活動が>停止したと信じている。
 ナタンツの工場<の存在>が暴露された後、イランはIAEAとの間で合意を取り交わし、顕著なる核施設を計画している時は必ずこの機関に通報する義務を負った。
 <しかし、>2007年には、イランはこの合意を撤回した。
 イランの現在のスタンスは、新しい施設に核物資が搬入される6ヶ月前に通報する義務があるだけだというものだ。
 よって、イランは、クムの施設に関し、何ら義務違反は犯していないと主張するだろう。
 とはいえ、他にこのような<イランの>スタンスを認める国はほとんど存在しないと考えられる。・・・
 ・・・この場所には、核燃料を濃縮するための3000の遠心分離器を設置できるが、<米国の関係者達>の評価によれば、これは民生用の原子力発電用には小さすぎて役に立たないが、運用開始後、一年に一核爆弾程度の核爆弾品質の物資を製造するには十分な大きさなのだ。・・・
 25日朝の声明の前に、オバマ氏は、諜報の最上級の役人達をIAEAの首席査察官のオリ・ハイノネン(Olli Heinonen)のもとに説明のために派遣した。
 他の米国の外交官達は、そのすべてがイランとの交渉における重要なプレヤーであるところの、中共、ロシア、そしてドイツに自分達が発見したことを伝達した。
 今週の前半に行われた、オバマ氏の22日の中共の胡錦涛、及び23日のロシアのドミトリ・A・メドヴェージェフとの会談の大部分はイランについてだった、と米国行政府の役人達は語った。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/09/26/world/middleeast/26nuke.html?_r=1&hp=&pagewanted=print
(9月26日アクセス。以下同じ)
→既に核を保有している北朝鮮と、核を持つ能力を持とうとしているイランは、一対の問題として対処する必要がある上に、この両国は相互に核開発(ミサイル開発を含む)で協力関係にあることからも、鳩山首相だって、オバマにとって、このように忙しく、また緊迫した状況下で開催された日米首脳会談の席上、積極的にイランの核問題を提起すべきだったし、少なくとも米国からイランに係る情報を引き出すべきだったけれど、そのような形跡はありません。(太田)
 「・・・オバマ政権は、その<欧州に係る>ミサイル盾の決定を最も適切な折に公表した。・・・
 イランの秘密<核>施設(についても、ホワイトハウスによる声明は絶妙なタイミングでなされた。)・・・」
http://www.csmonitor.com/2009/0925/p08s01-comv.html
 「・・・米国の諜報機関の役人達は、・・・この秘密の場所は、クムの北19マイルであるとし、・・・イラン革命防衛隊によって統制された、厳重に守られた区域の山の中・・・の深い地中に・・・あると語った。・・・
 CIAは、この場所は、2010年より前には稼働しないと評価している<が、>・・・この施設は完成間近であり、イランは、今年の前半・・・遠心分離器群の到着準備のための機器の設置を始めたと語った。・・・
 米国は、フランス及び英国とこの場所についての諜報活動のすりあわせを行ってきており、この2国とイスラエルに関係情報を提供してきた。
 しかし、・・・ロシアと中共は、この秘密施設のことを今週まで知らなかった・・・。
 オバマは、直接ロシア大統領のドミトリ・メドヴェージェフに、23日、・・・本件を伝えた。
 その後、メドヴェージェフは、初めて、ロシアはイランに対するより厳しい諸制裁を課すことに反対しない意向を示した。
 イラン自身もこの施設の存在がもはや秘密ではないことに気づいたと見え、通報する書簡を21日にIAEAに送った。
 オバマ政権の幹部の役人は、この書簡を「不透明な開示」であって、その内容は「要領を得ない」と形容した。
 <そして、>この書簡は、イランは「試験的」<核>燃料濃縮施設をつくっていると宣言したが、この場所について、それがどこにあるかも含め、具体的情報を提供していない、と語った。
 オバマは、この施設について、大統領に就任する前から知らされていた。
 2002年に、あるイランの反体制派集団が、イランが巨大な遠心分離施設をナタンツに建設中であることを暴露した。
 その施設には、推定54,000の遠心分離器を設置することが可能だが、専門家達は、核爆弾のために必要な高濃縮ウランを製造する機器は現在まだそこに設置されていないと信じている。・・・」
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-iran-nuclear-site26-2009sep26,0,3635629,print.story
 「・・・中共は、現在安保理の中で、イランに対する新たな諸制裁について反対していることから孤立している。
 このような状況は、主要な案件については中共が常に回避しようと試みてきたところであり、中共自身、本件についても反対を続けることは困難になったと見ている。・・・
 <イスラエルの>ネタニヤフ<首相>は、オバマに対し、<武力攻撃>ではない方策によってイランに言うことを聞かせることを追求するのは今年末まで、という締め切りを課しており、この締め切りは維持されるだろう。・・・」
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2009/sep/25/iran-secret-nuclear-plant
 「・・・商業的採算がとれる、商業的規模の濃縮施設であるためには、技術的あるいは経済的観点から、山の中でその山腹の地中に3000の遠心分離器の小さな施設を持つことは全くもって意味がない・・・。
 仮に原子炉のための核燃料を製造しようというのなら、何万もの遠心分離器が必要であるのに対し、仮に潜在的に核爆弾品質の<核>物資を製造しようとするのなら、3,000しか必要ではない・・・。」
http://www.guardian.co.uk/world/2009/sep/25/how-process-uranium-enrichment-nuclear
3 終わりに
 恐らく、来年早々には、米国等の黙認の下で、イスラエルによるイラン核施設に対する攻撃が行われることになるでしょう。
 この際、鳩山首相は、勇断をもって、2島返還でロシアと手をうち、ロシアとの友好協力関係を一挙に増進させることで、ロシアと中共との間にくさびを打ち込み、中共の安保理における中長期的孤立化を図るべきです。
 そうすれば、オバマ政権は、これを多とし、日本の「独立」への環境整備は一挙に促進されることでしょう。