太田述正コラム#4635(2011.3.21)
<サルコジがカダフィ打倒に動いた理由>(2011.6.11公開)
1 始めに
 「ロシア革命と日本」シリーズの続きを書くつもりだったのですが、時間がないので、急遽予定を変更し、先ほど配信した「ディスカッション」中の表記部分の翻訳プラスアルファのコラムでもって代替することにしました。
2 サルコジがカダフィ打倒に動いた理由
 (1)記事の紹介
 <つい最近まで、サルコジはカダフィと懇ろだったと皮肉ってる。↓>
 「・・・わずか三年前、サルコジはカダフィをパリで歓待し、懇ろに、かつエリゼ宮の近くでベドウィン式天幕を張ることを認める、という大歓迎をした。
 ところが、今や、このフランスの大統領は、彼の軍用機をカダフィを爆撃するために<リビアに>送り込んでいる。・・・
 <ここが、時事<(コラム#4634。εΗεΗクン引用)>と同じくだり。↓>
 ・・・フランスのアラブ世界における民主主義的蜂起に対する沈黙は批判されてきた。
 フランスは、チュニジアの前政府と親密な関係にあったが、そこでのデモへの支持表明が遅れたことについて、とりわけ批判は大きかった。
 実際、その首都チュニスへの3年前の訪問時に、サルコジは、同国のテロに対する闘いを賞賛し、市民的自由が拡大していると宣言したものだ。
 チュニジアでドジり、エジプトでも遅れをとったことから、サルコジはリビアでは脇役に甘んじないぞという決意を固めていたのだ。・・・
 <サルコジがフライング気味にリビアの反体制派を承認した話が書かれている。↓>
 10日前に、欧州の首脳達と外相達は、リビア危機について<EU>サミットで議論するちょうど24時間前に、サルコジが、欧州諸国の中で最初に、フランスはリビアの反体制派を承認するとの声明を発した時、激怒したと報じられている。・・・
 <リビアのフランスにとっての重要性・・西と南で旧仏領4カ国と接している+フランスが石油権益を持つ・・を指摘している。↓>
 フランスにとって、リビアは重用だ。
 それは、一つには、フランスにとって戦略的に重要なフランス語国であるところの、チュニジア、アルジェリア、チャド、そしてニジェールという4カ国に隣接しているからだ。
 また、フランスは、リビアから石油を輸入しており、フランスの巨大石油会社のトタール(Total)がリビアの油田の相当部分を支配下に置いている。
 <ここから先が、時事よりも特に踏み込んでいる部分だ。すなわち、フランスの偉大さ、特別さをアッピールすることで、大統領再選を果たしたいということだ、と指摘している。↓>
 しかし、サルコジにとっては、リビアは、それ以外のものを提供してくれる。機会を・・。
 彼は、2012年に<大統領に>再選されることを狙っているが、フランス人は、大統領が、世界の舞台で活躍し、シャルル・ドゴールが特別な使命を帯びている国であるという「フランスの特定の観念」と名高くも呼んだところのものを体現することを何よりも高く評価する。・・・」
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-libya-sarkozy-20110320,0,3508135,print.story
 上記の最後の点を詳述しているのが下掲記事だ。↓
 <サルコジは、このままだと、来年の仏大統領選で2位はおろか、3位になってしまって決選投票に残れないかも、という情勢だった。↓>
 「・・・一週間前、彼はいくつかの世論調査を凝視した。この極めて不吉な諸世論調査を踏まえ、<サルコジが>来年の大統領選で2位になることにすら疑問符をつける分析者が現れている。
 世論調査うちの一つでは、サルコジが、彼が<戦う>可能性が最もあるところの、<左翼の>社会党の競争相手と<右翼の>マリー・ルペンの後塵を拝した。・・・
 <原因1:失業率は10%弱、フランス経済は停滞している。↓>
 フランス経済は失速しており、失業率は9.6%で高止まりしている。
 ・・・各国を比較した世論調査によると、フランス人は、欧州<諸国民>中で最も悲観的であり、何と信じがたいことに、その大部分は、自分達の将来について、イラク人やアフガニスタン人よりも心配しているのだ。・・・
 <彼が当選したときの、フランスのサッチャー化ないしはブレア化の公約は、金融危機の勃発でパーになった。↓>
 ・・・彼が大統領に選出された時の計画は完全に挫折してしまっている。
 初期の、息をのむような、サッチャー化ないしはブレア化についての能書き・・いまだに国家主義的なフランス経済にネオ・リベラル的なアングロサクソン主義を一服注射する・・はどこかに行ってしまった。
 このメッセージがかつて持っていたかもしれないアピール性は、レーマン・ブラザーズの瓦礫の中に消えてしまった。・・・
 <原因2:そして、彼は、現在、左右からの挟撃にあっている。↓>
 彼の抱える問題は、彼が左翼と右翼の両方をにらまなければならないことで一層募っている。・・・
 <原因3:決定的なのは、彼の、君主的大統領制の主にふさわしからぬところの、短躯、細かいことにまで嘴を挟む、等々がフランス国民の鼻につきだしていること。↓>
 サルコジのふるまいと気質は、フランス共和国の大統領の職位の荘厳さ(grandeur)にとにかくそぐわないのだ。
 ・・・シラク、ミッテラン、そしてジスカールというお歴々の後、フランスの選挙民は、自分達の大統領が、背が高くて、父親のようで、貴族的で、大理石でつくられる塑像に即なりうるような容貌、といった感じであることを期待している。
 ところが、サルコジは、短躯で、厚かましくて(nervy)ちょいと成り上がり者的(arriviste)なので、どうにもそうは見えないわけだ。・・・」
http://www.guardian.co.uk/world/2011/mar/20/libya-crisis-nicolas-sarkozy-electoral
 (2)コメント
 フランスは、いつまで経っても変わらないとつくづく思います。
 いつも英国にやられてばかりなので、せめて、見てくれだけでも英国に張り合おうとする。
 その一つの現れが、フランスの元首に時々見られるところの、派手なパーフォーマンスに打って出て、高転びに転ぶ、というタイプです。
 大ナポレオンとその甥のナポレオンがそうだったわけです。
 サルコジもその衣鉢を受け継いでいるということです。
 彼らが、いずれもフランスにおける異邦人であったこと・・ナポレオン家はコルシカ出身ですし、サルコジはユダヤ系でハンガリー移民2世です・・もあずかっているのでしょう。
 ああ失礼。
 サルコジはまだ高転びに転びきってはいませんでしたね。