太田述正コラム#4901(2011.7.31)
<皆さんとディスカッション(続x1279)>
<太田>(ツイッターより)
 念のため。
 原発推進が仕事の経産省が、(痕跡を残さない形で)うまくやらせを仕組むことは当然だけど、そんな経産省に保安院を置いていた、というのは無茶苦茶だって趣旨だからね。
 海江田経産相は、泣いてるヒマがあったら、保安院等の不始末をオープンにし、関係者の処分を行った上で辞職すべきだ。
「佐賀県の古川康知事と<九電>幹部が会談…やらせメールのきっかけ」
http://www.asahi.com/national/update/0730/SEB201107300011.html
「九州電力:幹部が個人献金 佐賀県知事に年3万円、歴代「継承」」、「古川の父は<元>九州電力の社員で、玄海原子力発電所のPR館の館長」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%A4%E5%B7%9D%E5%BA%B7
<太田>
 補足だけど、これら↓
http://www.asahi.com/national/update/0731/SEB201107300061.html
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110730-OYT1T00789.htm
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110731-OYT1T00001.htm
を読むと、何で九電が、こんな時期に危ない橋をわたって正式に動いたのか、分かるねえ。
 経産省、とりわけ保安院、さすがに今回は動かなかったと信じたいね。
 その経産省だが、監察室ってのがあることにはあったんだね。
 原発事故が起こってから今まで寝てて、やらせ問題でようやく動き出したフリをしたってわけだ。
 それにしても、海江田、大臣の席に座ってるだけなのは明らかだね。↓
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110730-OYT1T00677.htm
<ιιΖΖ>(「たった一人の反乱」より)
 「外務省が1984年、日本国内の原発が攻撃を受けた場合の被害予測を極秘に研究していたことがわかった。原子炉や格納容器が破壊された場合に加え、東京電力福島第一原発の事故と同じ全電源喪失も想定。大量の放射性物質が流出して最大1万8千人が急性死亡するという報告書を作成したが、反原発運動の拡大を恐れて公表しなかった。
欧米諸国は原発テロを想定した研究や訓練を実施しているが、日本政府による原発攻撃シナリオの研究が判明したのは初めて。」
http://www.asahi.com/politics/update/0730/TKY201107300615.html
 何で外務省が研究したの?
<太田>
 私の推定:宗主国から日本も研究しろという示唆が外務省にあった+外務省の外郭団体の(財)日本国際問題研究所への補助金を消化する必要があった+防衛庁(当時)は例によってつんぼ桟敷に置かれた。
 さて、別件です。
 本日昼前、TV朝日の番組で金子みすずを紹介していた。
 この際、遅ればせながら、彼女(1903~30年)を、ほぼ同時代人であった宮沢賢治(1896~1933年)と並ぶ、日本の人間主義の代表的詩人であると認定したい。(エラそうに、なんて言わないでくれー。)
 この二つのサイト↓にざっと目を通してくれれば、私の言わんとすることが分かるよ。
 彼女の詩作も、結婚も、自殺も、つまりは彼女の人生のすべてが人間主義の発露だったんだな。(彼女の定番の肖像写真は、自殺の前日に写真館で撮ったものだって。)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%91%E5%AD%90%E3%81%BF%E3%81%99%E3%82%9E
http://www.owari.ne.jp/~fukuzawa/misuzu0,.htm
 蛇足だけど、このうち後の方のサイトの「みすヾが26歳の若さでこの世を去ったあと、日本は戦争の暗い時代を迎える。」ってくだりはデタラメだからね。
 も一つ、これらサイトには出てこないが、上記番組で、みすずが自分の全詩作を書き記した手帳を西條八十に、その写しを実弟に、託したというのに、(番組ではそこまで示唆はしていないが、)西條は、結局、握りつぶしちゃったんだね。
 西條という「大詩人」の正体が透けて見えたように思ったよ。
 彼の人生を振り返ってみる
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E6%A2%9D%E5%85%AB%E5%8D%81
と、(申し訳ないが、)うまく立ち回り過ぎだよ。
<川にゃ>(2009.8.18)http://kawanya62.iza.ne.jp/blog/entry/1180592/
 ・・・脅威に備えるためにアメリカの強大な核の傘をも利用することは基本的に有益でしょう。
 しかし、英仏並みどころか核実験の意思表明さえも日本がしないことによって、日本国の堕落という大きな問題を生じています。
 すなわち、国家にとって最重要な核抑止力並びに通常兵器による防衛及び外交政策を、吉田首相以後同盟国へ丸投げしてきたのが我が国日本なのです。
 そうすることによって、ひいては、重要度においてそれらに次ぐ・財政・経済その他の政策に対しても不作為に近い態度を、政治家と国民にとらせてしまっていると思います。(参考:元防衛庁局長太田述正氏のブログ
http://blog.ohtan.net/archives/50955674.html )
 太田述正氏によれば、戦後の日本は家畜になってしまったそうです。
 また、あまりにもアメリカの核の傘に頼りきることでアメリカへの依存心が肥大化し、日本の名誉を汚すことにもなりました。
 たとえば、イラク戦争というアメリカによる不戦条約違反の侵略戦争にも賛成せざるをえなかったのは、北朝鮮・中国・ロシアからの核の脅威に対抗する術を日本が有しておらずアメリカの核に全面的に依存せざるを得なかったことも理由の一つです。
 つまり、「アメリカに逆らったら北朝鮮等の核から日本を守れなくなるから、アメリカのやることに反対しないでおきましょう」ということです。
 これでは、外交・安全保障を他国に委ねる事実上の保護国です。
 小国ならば、超大国や大国の意思に従わざるをえないでしょう。
 しかし、日本はGDP2位の大国なのです。
 このままアメリカの保護国でいることは、かつて遣唐使を廃止して中国への朝貢国から脱して以後どの国へも朝貢していなかった日本の名誉ある歴史にも反します。
 したがって日本の核武装とは、対北朝鮮・中国・ロシアと対米との二重の意味を持つと考えます。
 ・・・永世中立国のスウェーデンとスイスは戦後において極秘で核開発を行っていました。
 ソ連の脅威とドイツの再軍備に備えるためでした。
 両国は時には協力しながら独自の核戦力構築を目指し、核実験こそ行いませんでしたがその一歩手前まで到達したのです(参考文献『黒いスイス』福原 直樹 (著):新潮新書)。
 冷戦終結によって最終的に計画は中止されましたが、もしも核でスウェーデン又はスイスを恫喝する国が出現した場合には、速やかに核実験を行い核弾頭を配備することができる体制と考えても間違いではないでしょう。
 スウェーデンとスイスは、MDよりも遥かに有効な核シェルターをも早くから構築して自国民の安全を守る政策を実施してきました。
 そんな両国を保護国・朝貢国と呼ぶ人はいないでしょう。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%87%E3%83%B3%E3%81%AE%E5%8E%9F%E5%AD%90%E7%88%86%E5%BC%BE%E9%96%8B%E7%99%BA
<太田>
 私は、対イラク戦の国際法的根拠は一応あった、また、戦後日本の「原発推進/核燃料サイクル確立/宇宙開発」は、事実上の核抑止力として機能してきた
http://www.foreignpolicy.com/articles/2011/07/29/the_post_fukushima_arms_race?page=full
と言ってよい、と考えていますが、その他の点については、おっしゃる通りです。
<キジッシー>(2011.6.24)http://blog.zige.jp/atohiko/kiji/260658.html
 ・・・国益とは「(その時点における)国民の生命幸福自由」の「最大化」」ではなく、「(その時点において)国民の大多数が共通に抱いている価値観の擁護」(太田述正氏)ということであれば、国民投票をすれば、よりはっきりすることですが、「脱原発」こそが国益に沿うものであり、たとえそれがイバラの道であっても、進むべき道です。
 まずは、最初の一歩から。     
 それぞれが、それぞれのやりかたで。・・・
<太田>
 ちょっと違うんですねえ。
 「(<現>時点において)国民の大多数が共通に抱いている価値観」と「現時点における特定の案件についての世論(国民投票の結果明らかになったものを含む)」とは似て非なるものです。
 前者は、人間主義(その系として、反北朝鮮、反中共、反宗教原理主義、親欧米、等がある)と経済的厚生の維持向上と吉田ドクトリンといったところでしょうね。
 ここからは、「脱原発」か否か、といった単純な結論は出てきそうもありません。
 (「川にゃ」さんとの上記やりとりも参照。)
 じゃ、どうして私は菅首相の「脱原発」を支持しているのか。
 国民世論の「脱原発」ムードを背景に、これまでの原発推進の政産官学の癒着腐敗体制を突き崩し、原発に係るまともな議論と安全対策の確保を実現するための方便としてです。
 恐らく、菅首相自身、私と同じ考えだと思いますよ。
 もっとも、
http://www.foreignpolicy.com/articles/2011/07/29/the_post_fukushima_arms_race?page=full 前掲
の筆者は、菅首相が文字通り「脱原発」の方向を打ち出した、だからこそ、日本の行政府が、以下のようにこれまでの原発政策の軌道修正を打ち出し始めた、ととらえていますが・・。↓
 ・・・ On July 14, Tokyo announced that it will suspend civilian nuclear cooperation talks with Brazil, India, South Africa, Turkey, and the United Arab Emirates. If Japan is set to impose stricter nuclear export rules, it will be a boon to efforts to foster tighter international rules as well.
 Japan’s science minister, Yoshiaki Takaki, also declaredthat Japan might terminate its development of fast-breeder reactors, which are fueled with plutonium.・・・
 それでは、その他の記事の紹介です。
 「7月23日に起きた中国高速鉄道事故<が>・・・初七日を迎えた29日に中国共産党中央宣伝部が全国内メディアに「独自取材、独自報道」を禁止する命令を出していたことがわかった。
 この報道規制に香港記者協会は大反発。命令には断固拒否、即時撤回を要求する声明を30日に発表した。・・・」
http://news.livedoor.com/article/detail/5748504/
 茶会が米国をデフォルトの瀬戸際にまで追いつめている。↓
 The organisers of the original Boston Tea Party objected to paying UK taxes. Their descendants object to paying taxes to the US government as well.・・・
http://www.guardian.co.uk/business/2011/jul/31/tea-party-economics-could-get-the-whole-world-in-a-stew 
 ・・・Although much of the blame for the scale of debt rests with George W Bush’s wars in Iraq and Afghanistan and his tax cuts for the wealthy, Obama gets the blame too for spending billions trying to stimulate the economy.・・・
 <その中核はわずか約20人の共和党下院議員。↓>
 The debt ceiling crisis is pure Tea Party. About 50 Republican members of the House are part of the Tea Party caucus but only about 20 make up the hardcore, many having arrived in Congress for the first time only in January.・・・
 <一切増税なし、というところまでオバマ政権/民主党は降りてるのに、今回の措置はいつまで、という点だけをめぐってまだ茶会は頑張っている。↓>
 What puzzles many Democrats about the intransigence of the Republican hardcore is that the Republicans have already won the argument. After the collapse of the Boehner-Obama negotiations, the Democrats in Congress dropped demands that the reduction in the national debt had to be secured through not only spending cuts but by taxes too. There are no tax rises in any of the compromise plans being circulated.
 The only major division now is over timing. The Democrats want the debt ceiling raised until after the 2012 White House election while the Republicans want a return match early next year, as election campaigning gets under way.・・・
http://www.guardian.co.uk/world/2011/jul/31/us-debt-congress-tea-party
 <最後の瞬間まで、デフォルトが回避されるかどうか予想がつかない。↓>
 ・・・Maybe there will be a bargain at one minute to midnight, but until the Tea Party Republicans are exposed as dangerous charlatans and their support recedes, the threat to the US is ever-present.
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2011/jul/31/observer-editorial-us-economy
 「開発主義福祉モデル」だなんて、「日本型政治経済体制」と呼んで欲しいね。↓
 「・・・日本の社会的セーフティーネットは、よく「開発主義福祉モデル」と呼ばれる。要点は「政府がすべきことを企業が受け持つ」という部分だ。高度成長期に、企業は終身雇用・年功序列を通じ労働者を正社員として抱え、生活の保障の中心となった。大学卒業後に新入社員として入社すれば、生涯にわたり、結婚・育児などの福祉需要が企業の内部で解決された。これに含まれない地方経済の従事者については、中央政府の公共投資需要で雇用を保障した。政府の福祉システムは、女性・高齢労働者など、企業がカバーできない一部の階層に限って稼働した。しかし1990年以降、福祉の縮小・規制緩和・市場開放など新自由主義的な運営論理が移植され、企業の福祉セーフティーネットが崩壊し、はしごから滑り落ちた中産層以下の生活が揺らぎ始めた。・・・」
http://www.chosunonline.com/news/20110731000004
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太田述正コラム#4902(2011.7.31)
<終末論・太平天国・白蓮教(その3)>
→非公開