太田述正コラム#0059(2002.9.18)
<コラム執筆再開にあたって>

 一旦、擱筆を覚悟してしまうと、執筆を再開しようと思ってもそのためのエネルギーが簡単にはわいてこないものです。(この間の事情については、私のホームページ(http://www.ohtan.net)の掲示板をご覧下さい。)
 今回は、正式のコラムというより、私の雑想とお受け止め下さい。

 日朝首脳会談の結果はご承知の通りですが、金正日総書記が日本人拉致は、工作員(スパイ)向けの日本語教育係を確保し、或いは韓国向け工作員を日本人になりすませるためだった、と説明した(2002.9.17当日のNHKによる総理会見)ことは、想像されていたこととは言え、興味深いものがあります。
 皆さんは、日本が(、北朝鮮のような乱暴なやり方は論外ですが、)この種諜報活動(=スパイ活動)を全く行っていないことをどうお考えになりますか。諜報活動をやらないということは国の安全保障を顧慮しないということであり、そんな国だからこそ、北朝鮮は、(韓国と違って法的に戦争状態にあるわけでもない)日本に対し、拉致事件を平気で引き起こしたと言えますし、日本が諜報活動をおこなっておれば、拉致事件の全容がつかめていたかどうかはともかく、今回のように、拉致者多数の死亡を首脳会談の際に初めて知って日本中が衝撃を受けるようなこともなかったのではないでしょうか。
 しかし、寡聞ながらこのような論評には未だ接していません。

 現在、民主党の党首選が行われていますが、同党の岡田政調会長が、候補者四人の間で政策の違いはないと述べたと報じられた時には、思わずわが耳を疑いました。
(?)
 その後ではありますが、第九条を中心とする憲法問題について、鳩山、野田の両氏は政権をとったら憲法改正の発議を行いたい、菅氏はそこまで現時点で言明するのは重たすぎる、横路氏は憲法改正に反対と述べたと報じられたところです。
http://www.sankei.co.jp/news/020915/0915sei086.htm。2002.9.15アクセス)
 このように安保・防衛問題に係る基本的な政策で見解が真っ向から対立しているのですから、四人の間には大変な政策の違いがあるというべきでしょう。同じ党の中にこの御四方がおられること自体、改めて根本的に無理があると感じました。

 以上から総じて言えることは、依然として、日本では安保・防衛問題がないがしろにされているということであり、日本人が、未だに日本が米国の保護国であるという実態を直視しようとしていないということです。

 今回の日朝首脳会談は「成功」したと私も考えています。
しかし、その「成功」は、北朝鮮を「悪の枢軸」三カ国のうちの一国に位置づけたところの米国の軍事力を背景とする「恫喝」、に恐れおののいた金正日総書記が自らの体制の生存をかけて、日本を仲介者とした対米宥和を実現しようとしたためにもたらされたものであり、日本の外交の勝利でも、小泉首相のイニシアティブの成果でも何でもありません。
 北朝鮮が国交回復に伴う日本からの経済援助を欲しがっていることは事実です。しかし、これもまた、北朝鮮が米国の「恫喝」に屈し、イラク、イラン等への弾道ミサイル等の輸出による従来の外貨獲得方策をこれ以上継続できないと判断したからだと私は考えています。
 今後、日本による経済援助については、日朝間の国交回復交渉の中で話し合われて行くことになりますが、そのタイミングも額も米国の意向に従って決定されることになるでしょうし、そのことは北朝鮮も覚悟の上でしょう。

 このようななさけない国のあり方を今後とも放置することによって、拉致家族の涙と怒りを無にするのかどうか、日本人全員が重い課題をつきつけられています。