太田述正コラム#1790(2007.6.1)
<20世紀の14大演説>(2012.1.18公開)
1 始めに
 コラム#1786で、英ガーディアン特選、20世紀の14大演説の話をちょっとしましたが、もう少し話を続けることにしましょう。
 改めて、この14演説のリストを、演説のタイトルとその年月日、そして簡単な紹介とともに掲げておきます。
チャーチル(Winston Churchill): We shall fight on the beaches, June 4 1940
→ナチスドイツへの徹底抗戦を叫んだ。
ケネディ(John F Kennedy): Ask not what your country can do for you, January 20 1961
→国に対する貢献を呼びかけた(コラム#1756)。
マンデラ(Nelson Mandela)(南ア人): An ideal for which I am prepared to die, April 20 1964
→アパルトヘイト廃止に命をかけると宣言した。
マクミラン(Harold Macmillan): The wind of change, February 3 1960
→アフリカの黒人のナショナリズムを是認し、アパルトヘイト反対を表明した。
ローズベルト(Franklin Delano Roosevelt): The only thing we have to fear is fear itself, March 4 1933
→大不況下の米国の人々にニューディール構想を示した。
フルシチョフ(Nikita Khrushchev)(ロシア人): The cult of the individual, February 25 1956
→スターリン批判を行った。
パンクハースト(Emmeline Pankhurst)(女性): Freedom or death, November 3 1913
→女性にも参政権をと訴えた。
キング(Martin Luther King): I have a dream, August 28 1963
→黒人差別撤廃を訴えた。
ドゴール(Charles de Gaulle)(フランス人): The flame of French resistance, June 1940
→占領下にあったフランスの人々にナチスドイツに対する抵抗を促した。
サッチャー(Margaret Thatcher)(女性): The lady’s not for turning, October 10 1980
→不退転の決意をもって英国の陥っていた経済的苦境の打開にあたると宣言した。
ネール(Jawaharlal Nehru)(インド人(注)): A tryst with destiny, August 14 1947
→インド独立の世界史的意義を語った。
ウルフ(Virginia Woolf)(女性): A room of one’s own, 1928(月日不明)
→女性に自分の資産と個室を持つように勧めた。
ベバン(Aneurin Bevan): We have to act up to different standards, December 5 1956
→スエズ戦争という英国の帝国主義的行動を批判した。
スペンサー伯(Earl Spencer): The most hunted person of a modern age, September 6 1997
→ダイアナを称え、過熱報道を行ったメディアと彼女に冷たかった英王室を批判した。
 (以上、
http://commentisfree.guardian.co.uk/open_thread/2007/04/speech_and_drama.html
(4月24日アクセス)、
http://www.guardian.co.uk/greatspeeches
(5月30日アクセス)、及び
http://www.guardian.co.uk/greatspeeches/story/0,,2062495,00.html
(6月1日アクセス)による。)
 (注)パブリックスクールのハロー、ケンブリッジ大学、そして法曹としての教育を受けたインナー・テンプル(Inner Temple)法学院、という学歴からすれば、ネールはイギリス人であると言ってもよいかもしれない。
2 選定基準
 ガーディアンは、この14演説を選定した基準を、概要以下のように記しています。
 
 キケロ(Cicero。コラム#1767)は雄弁家として有名であり雄弁術の本を書いた。彼は雄弁術を高い役職に就いたり裁判で勝訴したり共和制ローマの政策の変更をもたらすために用いた。しかし、共和制ローマが帝政へと移行するという時代の大転換期において、その雄弁術は彼の身を守ることはできず、結局首をはねられてしまった。
 アントニウス(Mark Antony)の妻フルヴィア(Fulvia)は、キケロの首から雄弁でならした舌を引っ張り出して彼女のヘアピンを何度も突き立てたと伝えられる。
 そこで今回、われわれは、雄弁な演説のうち、時代と響き合うところがあるものだけを選んだ。
 (以上、http://www.guardian.co.uk/greatspeeches/story/0,,2062495,00.html上掲による。)
 しかし、あるガーディアンの読者の、「<錚々たる>お歴々の演説と並んで、スペンサーによる、王室の取るに足らない一員についての泣き言を採用した神経を疑う」という批判はあたっています(
http://www.guardian.co.uk/greatspeeches/story/0,,2063411,00.html
。6月1日アクセス)。
 ガーディアンは自ら設定した基準を厳格に適用しなかったという誹りを免れないのではないでしょうか。
3 感想
 この14演説は、英国人が英国人のために選定したものであり、アングロサクソン中心という偏りがあるだけに極めて困難なことではありますが、将来、同様の試みが為された際に、日本人の演説が一つでも選ばれることを祈念しつつ、本コラムを終えたいと思います。