太田述正コラム#5078(2011.10.27)
<中野雅至『天下りの研究』を読む(その6)>(2012.2.12公開)
 「天下りが批判される理由は・・・第一に、・・・公務員や官僚の特権性の象徴と思われていることである。・・・
 第二に、・・・天下りがさまざまな弊害を現実にもたらしていることである。政官業癒着による汚職は絶えることなく続き、ついには国家公務員倫理法まで制定されるに至ったし、天下りを維持するために非営利法人に投入される税金は膨大な財政赤字の要因の1つとなった。
 第三に、官民の労働条件の乖離である。・・・<もっとも、>バブル経済が崩壊する前までは、官民の労働条件の乖離はそれほど大きなものではなかった。<特に、>大企業の場合には終身雇用制度によって定年までの雇用が保障されていたし、会社によっては関連会社への再就職も容易であった。」(394~395頁)
→天下り制度は、基本的にヤミ恩給制度である、という根本を押さえないと話が始まらないのですが・・。(太田)
 「<他方、>天下りという制度・・・の利点に着目する・・・と、・・・政官業の情報交換や意志疎通を容易にする貴重な役割を果たしたと見ることもできる。衰退産業に関連した政官業の合体は癒着となり、さまざまな弊害をもたらすものという印象が強いが、国際的な競争にさらされている製造業の場合、官僚が退職後に関連企業あるいは業界団体に天下ることによって業界と官、業界と政治、政治と官の間をつなぐ役割を果たし、相互に情報交換がスムースに進むと見なすことができるだろう。
→天下ったOBを介することなき、「政官業の情報交換や意志疎通」が可能な体制になっていないとすれば、そのことの方が問題でしょう。(太田) 
 
 第二に、天下りは公務員の働くインセンティブを促進している優れた制度であるという研究もある。・・・他方で、天下りを受け入れる側を中心においた研究では、天下りが受け入れ先へのインセンティブに悪影響を及ぼすという、ある種当たり前の事実をモデルを用いて理論的に実証しようとした研究・・・もある。
→差引ゼロだ、というのですから、ここも笑っちゃいました。いわでもがなの話です。(太田)
 第三に、天下りが人事課長をはじめとするわずかな人数で管理されていることから、コストのかからない非常に効率的な制度であるという見方もある。・・・
→天下り制度は、再就職斡旋制度ではなく、基本的にヤミ恩給制度である、という根本を押さえれば、「再就職斡旋」などやっていないのに等しいのですから、「コストがかからない」のは当たり前です。(太田)
 第四に、これは特に営利法人への天下りに当てはまることだが、官僚がさまざまな業界・企業に天下ることで、業界・民間企業間の均衡が取れるという見方である。例えば、財閥系企業は組織の独立性を何よりも大事にし、官僚の天下りを受け入れない一方で、官僚の天下りを受け入れているのは弱い業界や企業であることが多い。官僚がそれらの組織に天下り多くの情報をもたらすことで、弱い業界・企業が財閥などの巨大な民間企業と均衡するようになっているというのがカルダー・・・の指摘である。」(400~401頁)
 恐らく、中野は気が付いていないのでしょうが、第一と第四とで、彼が言っていることは矛盾しています。
 (彼が第一で言っていたのは、弱い業界・企業に天下りすると「癒着となり、さまざまな弊害をもたらす」であったことを思い出してください。)(太田)
 「次に、公務員の能力などに着目すると、公務員の能力は高い、専門知識がある、天下りを受け入れる側にはニーズがあるというように、人的資源としての価値の高さを指摘するものもある。・・・
 他方で、民間企業のように変化の激しい世界では能力も陳腐化しやすく、公務員の画一的な能力では役立たないという意見がある一方で、状況の変化によって逆に役立つ能力を公務員は持ち合わせているという意見もある。・・・
 <なお、>公務員は民間企業での勤務経験がないため経営者としての手腕がどこまであるのかという疑問がある一方で、高級官僚出身者の場合には、日本における官僚の社会的地位の高さから権限・権威という点で大きなアドバンテージがあること、公務員の中立性や清廉潔白なイメージから中立性というイメージも強いこと、政財官界やさまざまな利害関係者との調整を行ってきたことから人脈が豊富であるといったアドバンテージがあることは事実である。」(402~403頁)
→利益の追求を旨とする民間企業と、そうではない官庁との違いは決定的であり、基本的に、高級官僚は、民間企業の役員としては使い物にならない、という認識を中野は持つべきでした。(太田)
 「早期退職優遇制度<は、>・・体のいいリストラであり、・・・天下り<は>・・・<そ>の代償<である>という視点<もある。>
 <しかし、>リストラの代償として天下りを受け入れることは、自分で自分のキャリアを決めることができず、役所に最後までキャリアを支配されるため、・・・忸怩たるものがある・・・<とする者もいる。>」(404頁)
→そういう「文句」を言う人物は、中野が本書であげるごくわずかの例や、はばかりながら私等を除き、ほとんど官僚の中にいないので、書くだけヤボというものです、(太田)
 「天下り先が個室付き、秘書付き、車付きの「楽なものだ」というイメージが強い一方で、必ずしも楽だとは限らないという説もある。・・・関連の非営利法人への天下りは、労働条件の良さ、人間関係や仕事の連続性などから、楽な再就職先という印象が強い一方で、天下り先が民間企業、特に、財閥系企業や国際競争などの激しい分野では厳しい再就職先だと言われる。・・・
→そのような企業に天下った場合でも、厳しくない役員ポストもありえますし、本来は厳しい役員ポストであっても、中野も記しているように、事実上仕事を与えられない場合もあるので、中野が、例外中の例外をわざわざ持ち出す意味はありませんでした。(太田)
 <また、>特殊法人のように注目度が高く、政府や国会の厳しい監視下に置かれる非営利法人の場合、民間企業のように数字だけの合理的世界でないだけに、さまざまな矛盾やストレスを抱えることになるし、場合によって道路公団のように汚職に巻き込まれることもある。」(405頁)
→これは、事実上、他の役所に出向したことと同じであり、かかる「出向」する前と同じ目に遭うことがあるというだけのことであり、これまた、中野は、わざわざ言及する必要はなかったと思います。(太田)
(続く)