太田述正コラム#5377(2012.3.24)
<皆さんとディスカッション(続x1501)>
<太田>(ツイッターより)
 蒼井空(そら)の「本格」中共映画主演作品のスチル写真集だ。
http://j.people.com.cn/94638/94657/7766989.html
 拍手。
 オバマが次期世銀トップに韓国生まれで5才の時に米国にやってきて、WHOでエイズ担当として辣腕を振るった現在ダートマス大学学長のキム氏を指名した。
 名人事だが、こうでもしなければ米国の指定席を維持できなかったということ。
 米国の衰退を象徴してる。
http://www.slate.com/blogs/moneybox/2012/03/23/dartmouth_president_jim_yong_kim_will_lead_the_world_bank.html
 就業年齢のフィンランド人を対象とする研究で、お一人様は同居者がいる人に比べて抗鬱剤を80%多く服用していることが分かった。
 つまり、お一人様は鬱状態に陥り易いってこと。
 お一人様は先進諸国じゃ増える一方ってことは…。
http://www.bbc.co.uk/news/health-17475240
<松井千尋>(同上)
 世界中が軽い鬱病に包まれることになりそうです。
 インド人はカレーを貪るので鬱病が少なく、人口も増えていくので、頼もしいかもしれません。
<太田>(同上)
 カレー云々はジョークでしょうが、万一ホントなら典拠は?
<松井千尋>(同上)
 辛い物を食べれば元気になると予測したまでです。香辛料は薬ですし。
 ところで、典拠に値するものと言えば何が挙げられるのでしょうか。
 「全ての意見は思い付きに過ぎない。取材しても確かさにおいて完璧はあり得ない」と言われた場合、「典拠の価値は~~で、その価値を有する典拠はこういうものでなければならない」と。
 典拠がどのようなものであっても、「典拠に価値は無い」と言う気はさすがにありませんが、私の心の根っこの部分に、考え方がイカれているのでしょうか、典拠どころか学問そのもの、あるいは太田さん言うところの「人間主義」に衝突するものがある気がするのです。
 先ず何となく思い付く。思い付いたら、その思い付きを支持するものだけを拾ってくる。無い場合は捏造する。逆に、反対意見は焚書にする。反対者は皆殺しにする。そうすれば、私の思い付きは永遠に正しく、思い付けば付く程、私はいよいよ正しくなっていきます。
 私の言い方は確かに極端ですが、「最初に言葉ありき」の文明の本質に宿っている感覚では無いでしょうか。やはり人間主義とは対立する何かでしょうか。・・・
 私はよく「日本は女性的な国だ」と言います。
 典拠としては河合隼雄などの心理学者や脳研究関係、あるいは風土論の本を挙げれば、「それは典拠である」とお墨付きを頂けるかもしれません(怪しげな物も多いですが)。
 ただ「日本は女性的な国だ」という私の言い分は、日常的な経験、芸術を見て感じたこと、先に挙げた読書などが渾然一体となって出てきたものです。
 その時に、典拠として挙げるものが「本や論文」だけでは、私の中の拙い経験や儚い妄想に申し訳ない気持ちもあるのです。
 典拠とは「説得的根拠あり」とされ、且つ「基本的に誰にでもアクセスできるもの」でないとダメだと思いますので、「私の経験だ。私の感想だ」では典拠として不十分だとは思います。
 しかし、世の中の意見の大半は典拠不充分ながら、十分な影響力を持っていると思われます。
 そうすると、益々典拠を挙げることへの乗り気の無さが私の中で膨らん来ます。
 そういう場合は、どのように考えれば「典拠を付けたい」と思えるのでしょうか。
 私としては、例えば「客観的資料の名前を、いくつかビシッと挙げておけば本棚の整理にもなるし、他の人も読んでくれるかも」などの考えがあります。
 追記:「本だけではなく経験や妄想にも、実は、その意見の正統性や妥当性を証明する力があるのでは?」という何とない期待があるからです。   
 典拠として挙げるものが「本や論文」だけでは、私の中の拙い経験や儚い妄想に申し訳ない気持ちもある。
 太田さんが「典拠を付けることの魅力を世に語り広げよ」という御題が与えられたら、どのような講演をなさいますか。
<太田>
>私の言い分は、日常的な経験、芸術を見て感じたこと、先に挙げた読書などが渾然一体となって出てきたもの
 それをばらけて説明してください。
 その一つ一つはご自分の体験であり、典拠たり得ます。
 典拠がない、或いはつけられない「言い分」については、「可能性がある」(下掲のやりとりの冒頭の引用部分参照)といった言葉を付けて、それが仮説であることが分かるようにしてください。
 このような努力を議論の当事者が行うと、次第に「真実」に近づいていくことができます。
 下掲のやりとりを読んで、そのあたりのことをご理解いただければ、と思います。 
<在中6年>
 –安徽省高公鎮 女子学生遺棄事件–
≫被害者の女性を1回目に発見した村人は、彼女と同一村内の知り合いだった可能性があるし、2回目に発見した村人だって、彼女の村と婚姻圏内かなんかの村の人であって、彼女の知り合いだった可能性がある。≪(コラム#5375。太田)
 確かに可能性はありますが、この「村」が「安徽省毫州市渦陽県高公鎮」のことだとすると、人口は37651人もいるようです。
http://www.diqudaima.com/info/341621106000.html
 百度百科だとこの「鎮」は人口4.2万人、面積66平方km
http://baike.baidu.com/view/2450351.htm
 毎日新聞には「別の村」に捨てたとありますが、中国語記事をみると、これは「鎮」になっています。
http://news.sina.com.cn/c/2012-03-20/040624141208.shtml
 (写真あり。1枚目は発見された場所。2枚目は遺棄された場所)
 ただし、この鎮の下にまだ「村」(百度百科によると、この鎮には97の自然村がある)があります。
 中国語記事によれば「前李村」というところが彼女のいえのある村です。
 地図をみるとバス停から「前李村」までいくつか村があります。
 発見された場所は「高公鎮と前李村の間」(鎮の下に村があるので、「間」という表現はやや不思議ですが、鎮中心部を指しているかと思います)とありますので、どこの「村」民が発見したのかやや不明です。
 ちなみに高公鎮の上の渦陽県は人口138.78万人、面積2107平方km、25の鎮からなっています。
http://baike.baidu.com/view/457753.htm
 あと、鎮クラスの下っ端公務員はほとんど地元出身で「広域異動」がないんじゃないかと思います(典拠なし)。
 そうじゃないと方言わからなくて仕事できないし。
 ま、鎮の人口が万をこえているので、知り合いじゃなかったでしょうが・・・。
<太田>
>毎日新聞には「別の村」に捨てたとありますが、中国語記事をみると、これは「鎮」になっています。
 それは何という「鎮」ですか?
>バス停から「前李村」までいくつか村があります。発見された場所は「高公鎮と前李村の間」(鎮の下に村があるので、「間」という表現はやや不思議ですが、鎮中心部を指しているかと思います
 ということは、件の女性、高校への行き帰りに同じ道を通って毎日自宅とバス停の間を歩いていたはずですね。
 倒れていた彼女が最初に発見されたのはこの道の近くだと推察されますが、発見した人は彼女と同じ村民ではなかったとしても、顔の面識はあった可能性はありますよね。
 遺棄されていた彼女を2回目に発見した人については、その場所と彼女が(最初に)倒れていた場所との位置関係がよく分からないのですが、分かりませんか?
>あと、鎮クラスの下っ端公務員はほとんど地元出身で「広域異動」がないんじゃないかと思います(典拠なし)。そうじゃないと方言わからなくて仕事できないし。
 鎮ごとに方言があるとも思えません。
 いずれにせよ、「下っ端」であっても、少なくとも県の範囲内くらいでの広域異動は行われているんじゃないんですか。
 さもないと、治安機関の場合、地元関係者との癒着が生じてよろしくない、というのは国際常識ですからね。
<太田>
 それにしても、上記事件の被害者、かわいそうに。↓
 「溝に捨てられた女子高生、凍傷で手足切断の恐れ・・・」
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20120322-OYT1T01036.htm
<globalyst>
 –OECD肥満度ランキング–
 アングロサクソンが上位を占めているように見える。
http://tg.tripadvisor.jp/overweight/
 日本は「太り気味」はいても「肥満」はいない(数値にならないだけだと思うけど)。
<太田>
 それでは、その他の記事の紹介です。
 日本の電子産業の不振の理由が説明されているが、イマイチだーね。
 より説得力ある論考を誰か紹介してくりゃれ。↓
http://online.wsj.com/article/SB10001424052702304724404577297102672086074.html
 フランスの反ユダヤ主義は沈静化(コラム#5375)なんてしとらんというコラムがさっそく出てたよ。↓
 <フランスの原理主義的世俗主義は、宗教原理主義的なユダヤ人、イスラム教徒に対する非フランス人としての差別をもたらすっちゅうわけ。↓>
 ・・・while Americans value freedom of religion, the French value freedom from religion.
 In practice, French secularism, or laicite, means that you don’t express your religious beliefs in public: That means in public schools, Muslim girls can’t wear their veils, Jewish boys can’t wear their kippot, and Christians can’t draw attention to their crosses. It also means that when a state exam falls on your religious holiday, well, tant pis, because laicite means you’re supposed to be French before anything else.・・・
 <そもそも、フランスの宗教別人口についての統計すらない。↓>
 Interestingly, no one knows with certainty how many people in France practice different faiths: The Republique doesn’t keep official stats. It is only by approximation that we estimate that largely atheist France is also home to the largest Jewish and Muslim populations of Europe, with roughly 600,000 Jews and 5 million Muslims.・・・
 ・・・the country’s nearly religious devotion to secularism is at least a partial explanation for the country’s latent racism and anti-Semitism.・・・
 <量的には反ユダヤ主義的事件は減ってきているが、悪質なものはむしろ増えてきている。↓>
 True, the number of anti-Semitic acts in France has decreased recently–there were 466 in 2010 and 389 last year–but the number of violent attacks have increased over the same time.・・・
http://www.slate.com/articles/news_and_politics/foreigners/2012/03/french_anti_semitism_must_share_the_blame_for_the_murders_in_toulouse_.single.html
 今次マリでのクーデターは、カダフィ側に立って戦ったツアレグ族<(コラム#5021、5024、5075、5283、5318)>・・当然武器弾薬が潤沢・・が独立に向けてマリ北部で起こした叛乱へのマリ政府の対応に不満を抱いた国軍兵士達が起こしたもの。↓
 ・・・The Tuareg rebels launched raids on a number of fronts in January, apparently helped by weaponry some had brought back from Libya, where they had been fighting on the side of Muammar Gaddafi. They are seeking independence for the Tuareg homelands, ・・・
 Mali’s poorly equipped army of just 7,000 men has been no match for the rebels, who hold several key towns in the north・・・
http://www.guardian.co.uk/world/2012/mar/23/mali-suspended-african-union-coup
 <北部マリは、ヤク密輸者、アルカーイダ系戦士の巣窟でもある。↓>
 ・・・Northern Mali has long become a rear base for drug traffickers, al-Qaeda fighters and other Islamist combatants sharing ground with Tuareg rebels.・・・
http://www.bbc.co.uk/news/world-africa-17481114
 以前にも取り上げたことがあるが、英国の俳優はどうして優れているかが説明されている。↓
 <シェークスピアの伝統。↓>
 ・・・Why are there so many great British theatre actors? I have a few theories. First, Shakespeare is the DNA of our theatre and we have a living relationship to his work — it’s not just part of heritage Britain. Thanks to Shakespeare, British actors tend to have a sense of history as well as great verbal dexterity and literacy.
 <劇場型日常、議会と司法における対立構造、微妙な階層間格差、実際主義的伝統・・。↓>
 And then so many of the characteristics of theatre coincide with the features of our nation: dressing up, processions, ceremonies and social rituals. Adversarial conflict is the stuff of our parliamentary and legal system, and theatre depends on it. British actors, like British politicians, are entirely pragmatic, with a genius for adapting to all conditions and resources. And theatre is concerned with role-playing, which is second nature to a nation obsessed with class distinction and inured to the necessity of pretending to be what you aren’t.
 <そして、演劇への公的支援。↓>
 Third, our publicly funded not-for-profit theatre has nurtured our great actors.・・・
 We produce great actors because we’re repressed as a nation. We’re introverted and need to be licensed to express ourselves publicly. ・・・
http://www.guardian.co.uk/stage/2012/mar/23/why-best-actors-are-british
 米国では、家計における女性優位の時代が目前となっているんだねえ。↓
 ・・・Today, wives in dual-earner families contribute, on average, 47 percent of family earnings. In 2009, nearly 38 percent of employed wives outearned their husbands.・・・
http://www.washingtonpost.com/entertainment/books/book-review-the-richer-sex-on-contemporary-women-by-liza-mundy/2012/02/29/gIQA8IqMWS_print.html
 コラム#5373で紹介した、1万フィート上空から落下して助かった少女についての記事が後追いで出てた。↓
http://www.bbc.co.uk/news/magazine-17476615
 クリントンとオバマのそれぞれの半生を対照させたスライドショーだ。
 かなりオモロイよ。↓
http://www.washingtonpost.com/opinions/the-parallel-lives-of-bill-clinton-and-barack-obama/2012/03/21/gIQANb7QWS_gallery.html?hpid=z1#photo=1
 モーツアルトの10歳の時のピアノ曲が発見された。聴けるよ。↓
http://www.bbc.co.uk/news/entertainment-arts-17490070
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 一人題名のない音楽会です。
 ハメリンの第30回目をお送りします。
 –フレデリック・ジェフスキー(1938年~。米。マルクス主義者)–
North American Ballade No.3 “Down By the Riverside”
http://www.youtube.com/watch?v=0L5vWLSAGXc&feature=related
 –サルヴァトーレ・シャリーノ(1947年~。伊)–
Anamorfosi Ravel Jeux d’eau と Singin in the rain を混ぜこぜにしたもの。
http://www.youtube.com/watch?v=Xhkt3GJpg5E&feature=related
 [二つの原曲]
 Ravel Jeux d’eau ピアノ:リヒテル
http://www.youtube.com/watch?v=cumoVX7x3Zo
 Singin in the rain 歌唱+ダンス:Gene Kelly
http://www.youtube.com/watch?v=D1ZYhVpdXbQ
 今度は、ハメリンのアンコール特集です。(全25曲)
01. Heitor Villa-Lobos – As Tres Marias No. 2 “Alnilam” 0:00
02. Max Reger – Humoresque No. 2 1:27
03. Nikolai Medtner – Sonata-Skazka in C minor, op. 25 No. 1 (3rd mvt) 4:15
04. Georgy Catoire – Cinq morceaux op. 10 No. 2 “Prelude” 07:45
05. Alexander Scriabin – Deux poemes op. 71 No. 1 “Fantastique” 10:27
06. Marc-Andre Hamelin – Music Box from “Con Intimissimo Sentimento” 11:39
07. John Vallier – Toccatina 13:27
http://www.youtube.com/watch?v=XsrEwrhCkKs&feature=related
08. Jules Massenet – Valse folle 0:00
09. Heitor-Villa Lobos – O Policinello 02.33
10. Percy Grainger – Spoon River from “American Folk Music Settings” 03:51
11. Isaac Albeniz – Yvonne en visite! (1st mvt, La reverence!) 06:12
12. Sophie-Carmen Eckhardt-Gramatte – Piano Sonata No. 2 (4th mvt, El Puerto)08:06
13. Karol Szymanowski – Krakowiak from “Four polish dances” 11:21
14. William Bolcom – Rag Infernal from “12 New Etudes” 12:36
http://www.youtube.com/watch?v=axpbm3Hi-Co&feature=related
15. Friedrich Gulda – Play piano play No. 4 0:00
16. Jakob Gimpel – Concert paraphrase on “The Marine’s Hymn” by Offenbach 3:56
17. Leopold Godowsky – Terpsichorean Vindobona from “Triakontameron” 7:50
18. Johannes Brahms – Piano Piece op. 119 No. 3 “Intermezzo” 9:55
19. Robert Schumann – Piano Sonata No. 2 (3rd mvt, Scherzo) 11:18
20. Franz Liszt – Paganini Etude No. 4 “Arpeggio” 12:54
http://www.youtube.com/watch?v=rI8SRUaQjV0&feature=related
21. Franz Liszt – En Reve “Nocturne” 0:00
22. Joseph Haydn – Piano Sonata No. 37 in D (2nd mvt, Largo) 02:31
23. Johann Sebastian Bach – Samuel Feinberg – Choral Transcription No. 6 05:35
24. Alexander Glazunov – Marc-Andre Hamelin – Autumn from “The Seasons”, op. 67 09:05
25. Frederic Chopin – Piano Sonata No. 2 in B-flat minor (4th mvt) 12:49
http://www.youtube.com/watch?v=bNkJQDb10zo&feature=related
(続く)
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太田述正コラム#5378(2012.3.24)
<松尾匡『商人道ノススメ』を読む(その14)>
→非公開