太田述正コラム#6022(2013.2.11)
<湾岸諸国はどうなる?(その2)>(2013.5.29公開)
  イ 何が崩壊を食い止めているのか
 「<直>輸入された超近代性と反動的かつ時代遅れな地域的諸伝統との間の諸矛盾は、まことにもって大きい。・・・
 では、一体、彼らが生き残っている秘密は何なのだろうか?
 その理由は数多い。
 欧米諸大国の支援、石油の富、及び、効果的な秘密警察、が挙げられる。
 しかし、このとりわけ論議の的になっている本の中で、クリストファー・デーヴィッドソンは、主要な理由に集中する。
 湾岸の諸君主国は、自分達<が治めているところ>の人々からかなりの正統性を享受しているのだ。
 統治者達と市民達は、伝統的な部族的忠誠群の制度の中で互いに結び付けられているのだ。
 市民達は、彼らの統治者達を見上げ、彼らを政治的安定性、富、宗教的諸価値、そして部族的文化の警護者と見ている。
 被治者達の政治的黙諾への見返りに、統治者達は、気前のよい諸補助金、公的部門における特権的諸地位、及び物惜しみしない施し物、を湯水のように与える。
 この独裁的な統治者達は、自分達の地位を増進させ<、かつ、被治者達の>忠誠を推進するために伝統的諸制度を使うことに極めて長けてもいた。
 一つの例は、古からのカファラ制度(kafala system)<(注2)の活用>だ。
 (注2)湾岸諸国における、外国からの建設労働者や家事労働者を当該国内のスポンサーが監視する制度。スポンサーの多くは、これら労働者の賃金を預かったり、彼らが出国したり雇用主を変更したりすることを困難ならしめたりすることから、まるで奴隷制度のようだ、と批判されている。
http://en.wikipedia.org/wiki/Kafala_system
 それは、奴隷制に起源を持ち、湾岸では広範に行われている。
 それは、外国の企業が地域のスポンサーを持つことを要求する。
 勤勉な外国の事業者達に対し、湾岸の諸国民は、自分達を何もしないパートナーとして売りつけることができるのだ。
 現実に何もしていなくても、多くは恐ろしく金持ちになっている。
 親族関係も忠誠網を作り上げるために用いられてきた。
 統治者の家族は、継続的に拡大してきており、極めて大きくなってきているので、今では大きな規模の政党に似通っている。
 これら諸国家は、単一政党制度として、自己規制的なプロト制度として、運営されているのだ。
  ウ しかし崩壊は遠くない
 この微調整される<ことによって保たれている>君主的弾性は、今後それほど長くは維持できない、とデーヴィッドソンは主張する。
 巨大な内圧が高まりつつあり、この圧力鍋は爆発寸前だと。
 デーヴィッドソンは、強い印象を与える証拠の一群を勢揃いさせる。
 まず、高い出生率と傑出した医療により、急速に増大しつつある内国人人口だ。
 サウディアラビアでは、人口の47%が18歳未満であり、80%が30歳未満であり、サウディアラビアは、世界で有数の若い人口国だ。
 彼らは、スポンサーと補助金群の制度の下で成長してきた。
 若い市民達は、意味のある資格を取ったり、競争的な仕事市場に身を投じたりする意欲が殆んどない。
 だから、彼らは恒常的に「自発的失業」状態にある。
 <湾岸の>諸国家は、安い光熱水料、低価格の燃料や食品・・<これらは>補助金の三つの基本的な類型・・を維持し続ける立場にない。
 石油諸収入は、縮小しつつあるか完全に消滅したかのいずれかだ。
 <ア首連中の>ドバイ、バーレーン、<ア首連中の>シャルジャ(Sharjah)は、今では石油の純輸入国となった。
 <ア首連中の>アビダビでは、何10年か分の埋蔵量しか残っていない。
 クウェートとサウディアラビアは、はるかに強い立場だが、この両国の輸出は、国内需要が急速に増大するにつれて減少することだろう。
 既に、計画停電や、給油所での長い行列をシャルジャとドバイで見て取ることができる。
 これら君主諸国の伝統的なふるまいや確立した諸政策が、これら諸国の不安定性を募らせている。
 こうして、富の浪費、国が後ろ盾となっているところの対少数派差別、イランに対する敵意、イスラエルとの秘密同盟、そして、欧米諸国による安全の保証の次第に問題となりつつある本質、の全てが独裁的諸政体の弾性を掘り崩す、とデーヴィドソンは示唆する。
 <湾岸諸国の>大規模な崩壊は、こういうわけで、不可避であり、それは、時間の問題だ。
 これら諸体制の強さはその最も弱い輪の強さで決まる。
 だからこそ、バーレーンが蜂起を抑圧するのを、サウディアラビアが速やかに動いて助けたのだ。」
http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/books/reviews/after-the-sheikhs-the-coming-collapse-of-the-gulf-monarchies-by-christopher-m-davidson-8456206.html
(2月8日アクセス。以下同じ)
(続く)