太田述正コラム#6038(2013.2.19)
<湾岸諸国はどうなる?(その4)>(2013.6.6公開)
 (3)コメント
 サウディアラビアとア首連については、現在は、まだカネがうなるほどあり、そのカネを以下のようなメガプロジェクトに積極的に投じていることは注目されます。
 この点では後発のサウディアラビアの方のプロジェクト・・ただし、ドバイ(ア首連)も参加している・・の方が、「独立」性の弱さや教育・研究の重視等、「母国」に及ぼすプラスかつ長期的影響が大きそうであり、このプロジェクトが起爆剤となって同国が首長制を維持したまま(同国固有のことですが、世俗化や)自由民主主義化に成功する可能性も皆無ではなさそうに思えてきます。
 「ドバイの国際金融センター(Dubai International Financial Centre=DIFC)<(注3)>は、ペルシャ湾岸における全球的銀行取引(banking)エリートの異種文化圏(enclave)となったところ、この地域の全ての国に対し、彼らがアクセスし、サービスを提供することが可能になった。
 (注3)2002年に設立され、2004年に運営を開始したところの、ア首連憲法の下における独立管轄地区であり、英語で書かれ、イギリス法に拠ったところの、独特の民事法群・商事法群を持つ。それは、イギリス、シンガポール、及び香港等のコモンローの指導的法域出身の裁判官による、独自の裁判所も持つ。また、そのDIFC-LCIA(London Centre of International Arbitration=ロンドン国際仲裁裁判所)仲裁センター(Arbitration Centre)は、ロンドン国際仲裁裁判所をモデルにした諸ルールを用いるところの、独立した国際仲裁センターだ。外国企業の100%出資が認められており、外貨、資本/利益回収等に係る規制がなく、所得税も法人税もゼロ。1軒の大ホテルとアートギャラリ群、レストラン/カフェ群がある。
http://en.wikipedia.org/wiki/Dubai_International_Financial_Centre
 2011年時点では、DIFCの仲裁裁判所の管轄は、ア首連の諸企業等、DIFC内に所在する者以外の原告に係る事案にも拡大されるに至っている。
 国際商法の複雑性を踏まえれば、ア首連の諸裁判所が自発的に<国際商事法に係る>管轄を返上してより有能で効果的な外国の諸機関(entities)にそれを委ねたのは驚くべきことではない。
 外国の才能と諸基準を、特別経済諸区域に惹きつける<このような>必要性が、国内の変化に予期せぬ影響を与えることがある。
 例えば、サウディアラビアのアブダラ王経済都市(King Abdullah Economic City)<(注4)>の特色は、低廃棄物ビル群計画、男女共学大学群、そして女性による自動車運転認可・・その全てが同王国のそれ以外の場所ではタブーとなっている・・だ。
 (注4)2005年に現国王によって表明されたメガプロジェクト。同国とドバイがカネを出している。面積173平方キロ、位置は紅海沿岸で同国の商業の中心であるジェッダ(Jeddah)の約100キロ北で、聖都市であるメッカとメディナから車で、同様約1時間。2010年に一部完成し、2020年に全部完成する予定。産業地区、港、住宅地区、海洋リゾート、教育地区、中央ビジネス地区からなる。
http://en.wikipedia.org/wiki/King_Abdullah_Economic_City
 なお、既に2009年に大学院教育と研究のための大学、King Abdullah University of Science and Technologyが開校している。使用言語は英語。構内では、道徳警察が活動せず、女性はヴェールをつける必要もない。
http://en.wikipedia.org/wiki/King_Abdullah_University_of_Science_and_Technology
 すなわち、最も硬直した諸体制下においても、国際資本とテクノロジーの力は、現状を強化するのではなく変化させる。
 新しいテクノロジーは、革新的な個人や企業群が、やっかいな政府法令による諸規制を超えて物理的に動くことも可能にした。・・・
 <以下、湾岸地域とは直接関係のない話だが、>シリコンバレーの億万長者のピーター・ティール(Peter Thiel)<(注5)>が後援しているところの、計画中の、沖合に設置される、シーステディング(SeaSteading)<(注6)>・・・超巨大浮体構造物(Very Large Floating Structures=VLFS)・・・は、ヴィザ諸規制によって煩わされない、豊饒なテクノロジー環境において事業の諸アイディアを開発しようとするあらゆる国籍の選ばれた住民達のための拠点(platform)を提供することだろう。」
http://www.foreignpolicy.com/articles/2013/02/08/startup_sovereigns_technology_nonstate_actors?page=full
(2月9日アクセス)
 (注5)1967年~。ドイツ生まれの米国の企業家、ヴェンチャーキャピタリスト、ヘッジファンドマネジャー。PayPalの共同創立者。スタンフォード卒(20世紀哲学専攻)、スタンフォード・ロースクール卒。
http://en.wikipedia.org/wiki/Peter_Thiel
 (注6)いかなる国の経済水域にも属さないところの、公海上に超巨大浮体構造物を浮かべる構想。カリフォルニア州のシリコンバレーの沖合の太平洋上にこれを浮かべる具体的計画が存在する。
http://en.wikipedia.org/wiki/Seasteading
 私は、20年以上前の1991年にサウディアラビア(ジェッダ、リヤド)とア首連(アブダビ、ドバイ)を訪問しているところ、既に、当時、両国のインフラの超近代性には目を驚かせるものがあっただけに、機会があれば、両国をもう一度訪問し、両国が石油/ガスの後に時代にどう備えようとしているのか、その成功の可能性はどうなのか、また、自由民主主義化の可能性はあるのか、等をこの目で確認してみたいものです。
(続く)