太田述正コラム#6210(2013.5.16)
<米孤立主義とリンドバーグ(その4)>(2013.8.31公開)
 (3)人種主義者リンドバーグ
 「リンドバーグと彼の妻は1937年にナチスドイツに行ったが、彼はナチスの体制に感銘を受け、ヘルマン・ゲーリングから勲章を受け取った。
 彼は受け取ったこの勲章を一度も身に付けはしなかったけれど、それは彼の評判にとって永続的な汚点となった。
 次いで、1941年7月に米国第一<(前掲)>の集会で講演した彼は、「ユダヤ人達」を名指しして、忠誠心が疑わしい戦争挑発者達(warmongers)であると批判した。
 実際には、オルソンが指摘するように、米国のユダヤ人達は、反ユダヤ的反発をくらうことを恐れて、軍事介入に向けた言あげをすることに極めて消去的だったのだというのに・・。」(C)
 「彼は、悪名高い演説の中で、ユダヤ人は「この国にとって危険だ」と呼ばわった。
 やがて、これにより、彼は、社会的不可触選民とされただけでなく、「孤立主義の大義に測り知れない害悪」を与えた者とされた」とオルソンは記す。」(B)
 「リンドバーグ・・・は人種主義者であり、白色人種は他の全ての人種より優位にあるのであり、白色人種同士の他国の戦争に参戦すべきではない、と感じていた。」(A)
 「欧州系の、すなわち、白人種の人々は、白人種でない人々に対してはあらゆる意味で本来的に優位にあると彼が考えていたという意味で、彼は間違いなく人種主義者だった。
 そして、ドイツ人達は、明らかにこの見解を<彼と>共有していた」とオルソンは言う。」(E)
 「彼は、1930年代にそこに行った時にドイツに極めて感銘を受け、ドイツを敗北させることはできない、と感じた。
 彼は真のテクノクラートであり、ドイツ人達を技術的専門家達と見<て敬意を抱いてい>た。」(A)
 「<駐英>米国大使のジョセフ・ケネディに促されて、リンドバーグは、英国<政府>宛ての秘密備忘録を書き、もし英国とフランスがドイツの独裁者のアドルフ・ヒットラーによる1938年のミュンヘン協定違反に対して軍事的に対応するならば、それは自殺的行為である、と警告した。
 リンドバーグは、フランスの軍事力は不十分(inadequate)であり、英国は、時代遅れの海軍力への過度の軍事的依存をしている、と陳述した。
 彼は、両国が緊急に空軍兵力を強化してヒットラーをしてその野望を東に向けさせ、「アジア的共産主義」と戦争させることを推奨した。
 物議をかもした1939年のリーダース・ダイジェスト(Reader’s Digest)掲載記事の中で、リンドバーグは、「我々の文明は、欧米諸国間の平和…すなわち、統一された力、に依存している。
 何となれば、平和は処女であって、力、すなわち彼女の父親、が守ってくれない限り、その顔を見せようなどとは決してしないからだ。」と述べた。
 リンドバーグは、ドイツと英国の間の競争意識を嘆き、ドイツとロシアの間の戦争を好んだのだ。」
http://en.wikipedia.org/wiki/Charles_Lindbergh
 「<リンドバーグが、米国は第二次世界大戦に軍事介入すべきではないと考えたのは、>基本的に、ドイツ人達は強すぎるので残りの欧州諸国はドイツと和を講じるべきであり、基本的に交渉によって和平に到達しなければならず、米国は欧州における紛糾の埒外にとどまるべきだ、と考えたからだ。
 それは、彼の人種主義的な白人種イデオロギー的信条とある程度手を携えて進行したのであって、彼は、米国が戦争に赴くのであれば、白人種諸国たる欧州諸国の側に立ってそうすべきである、と思っていたのだ。
 米国は、欧州諸国が互いに戦っているような戦争に参戦すべきではない、と。
 米国は埒外にとどまらなければならない、と。
 <もとより、>いかなる侵攻者に対しても我々自身を守ることができるよう、米国は自らを防衛すべきであり、十分武装すべきである、とも。」(E)
→私が何度も申し上げてきたように、米国は、アングロサクソン文明と欧州文明のキメラなのであり、欧州文明由来のキリスト教原理主義と人種主義にいわば汚染されている国です。
 キリスト教原理主義からは、選民思想と終末論思想が、人種主義からは白人種優位思想が導かれます。
 選民思想は、米国は選民が集まってできている国であるが故に、他国における「愚劣な」紛争への非介入主義がとれるし、また、とるべきだという発想も出てくれば、かかる国であるが故に、他国における「愚劣な」紛争の調停者ないし「正しい」側への支援者となるべきだという発想も出てきます。
 リンドバーグは前者の発想をとったわけです。
 終末論思想からは、最後の審判的に、物事を常に善玉と悪玉とに単純に仕分けする発想が出てきますが、リンドバーグは、共産主義を悪玉と見、非共産主義国は、ナチスドイツを含め、ことごとく善玉であると見たわけです。
 また、ユダヤ人の位置づけについては、キリスト教原理主義とも関連し、イエスの殺害者であった面を重視するのか、イエスの再来の条件を充たす役割面(先祖の地へのユダヤ人の帰還)を重視するのかで、反ユダヤ主義か親ユダヤ主義かに分かれます。
 リンドバーグは前者の立場をとったわけです。
 そして、人種主義からは、インディアン、黒人、及びその他の有色人種に対する差別意識が導かれるところ、リンドバーグのように、有色人種と混血・混淆したロシア人を有色人種と見れば、反ロシア、就中反キリスト教たる赤露、への差別意識が更に導かれるわけです。
 最後に、米国は先ほど記したように、アングロサクソン文明と欧州文明とのキメラであることから、欧州の国、その中で最も強力なドイツに親近感を抱くリンドバーグのような人物も出てくれば、アングロサクソンの国、すなわち英国(ないし拡大英国)に親近感を抱く人物も出てくる、というわけです。
 とにかく、先の大戦が始まってから米国がこの大戦に参戦するまでの、米国における非介入主義陣営の総帥的人物であったリンドバーグが、ひどい人種主義者であった、ということを、我々は銘記すべきでしょう。(太田)
(続く)