太田述正コラム#6436(2013.9.7)
<皆さんとディスカッション(続x2014)>
<太田>(ツイッターより)
 この週末から来週にかけ、まず2020年オリンピック開催都市決定投票がブエノスアイレスで行われ、次いで対シリア武力行使の是非に関する投票が米上下両院で行われる。
 どちらも日本の将来に大きな影響を及ぼすから目が離せない。
 前者では安倍首相のスピーチに注目、後者ではオバマの下院対策に注目。
<にしや>
 有料コラム<シリーズ>「日支戦争をどう見るか」を超初心者の私が理解するため予備知識として最低限読むべきコラムをご教示いただけませんでしょうか。
<太田>
 私はお答えするのにふさわしくないと思いますが、最低限の参照コラムは、言及されたシリーズの中で引用されていますよ。
 話は全く変わりますが、ここで、いしゐのぞむ(コラム#5697、5712、5714、5729、5735、5745、5754、5761、5825、5981)氏とのメールのやりとりを掲げておきます。
 こんなに早く同氏からレスポンスがあるとは思っていなかったため、有料読者には、急遽、先ほどコラム#6437を前倒し配信しておきました。
 (やりとりの中では、結果的にコラム#6439が登場しなかったので、同コラムは、予定通り明日、明日のディスカッション配信の後、配信します。)
 無料読者の方にとっては、殆んどチンプンカンプンのやりとりでしょうが、3か月半後にはコラム#6437、6439を公開するので、その時に改めてこのやりとりも含め、読んでください。
 
≪太田≫(2013.9.6 21:33)
 ご無沙汰しております。
 先般、大量に資料のご提供を受けながら、ただちに謝意を申し上げず、また、私のコラムでも取り上げることなく時間が経過しておりましたが、明後日から今のところ、3回にわたって、尖閣問題を、主としていしゐさんの論考を紹介しつつ、(3か月半後に一般公開される)有料読者向けコラムにすることにしました。
 つきましては、2回分のコラム(案)をお送りしておきます。
 何か、ご意見がございましたらお寄せいただければ幸いです。
 (なお、いただいたご意見につきましては、ただちに一般読者向けコラムに転載し、公開させていただく所存です。)
 遅ればせながら、資料のご提供をいただいたことに、感謝申し上げます。
                 記
 太田述正コラム#6437(2013.9.7)<改めて尖閣問題について(その1)>
 ・・・日本が抱える、尖閣問題のような領土問題に関しては、古文書を引き合いに出しての議論は基本的に意味がないのであって、条約の解釈・・尖閣問題の場合は下関条約によって日本に引き渡されたところの、旧清国領に尖閣諸島が入っていたのかどうかの解釈・・だけが問題なのです。・・・
 『學士會会報(September No.902 2013-V)』に、中野美代子北大名誉教授の「「中華民族」と国境線」というエッセイが載ってい<まし>た・・・
 日本が台湾全土が清国領であることを認めた1874年の次の年の1875年の段階で、清国人・・・の著書に、尖閣諸島中の魚釣島が清国領であるかのような記述がある・・私には、「防を設ける」は、魚釣島が、全土が清国領であるところの台湾の一部であることを前提にした表現に読めます・・以上、それが事実に反することを<いしゐさんは>具体的に指摘しなければならないのではないでしょうか。・・・
 それに、前出の「全臺圖説」において、花蓮の(項)中で釣魚臺が言及されている、ということは、花蓮が清国に帰属した(と日本が認めた)時点で釣魚臺も清国に帰属した、という解釈も成り立ちえます。・・・
≪いしゐ≫(2013.9.6 23:15)
 尖閣資料ご覽に感謝。
 勝手にお送りした資料をご覽頂き有難うございます。
 「古文書を引き合ひに出しての議論は基本的に意味がない」といふのは贊成です。
 日本は國際法で完勝のみならず、無意味な古文書の議論ですら完勝だ、といふのが私の研究目的です。
 チャイナでも西洋輿論でも、日本は古文書で負けてゐるとの誤解ばかりなので、世界の輿論に訴へるためには古文書こそ勝負の決め手と考へます。
 「設防」については、細かい話を省いたので誤解されたと思ひます。
 そもそも明國清國に於ける海上の「防」とは、領土外に設けるものです。
 領土は大明一統志など地誌に「大陸海岸まで」と明記されてゐます。
 領土外海防の制度は、大から小へ、上級から下級へ、寨・遊・哨(●<(サンズイ篇に卂(太田))>)の順です。
 哨は末端であり、普段は施設も兵員も無く、季節ごとに兵船が巡邏して來るだけです。
 言ひ換へれば哨地は、なかば倭寇の勢力圏だったわけです。
 福建の場合は「五寨」が基本で、明國晩期には「遊」が増加し、「五寨九遊」などと呼ばれます。その數にも這入らない末端が「哨」=巡邏地です。
 「設防」の第一歩は、この「哨」(巡邏地)の數に島を入れることです。
 臺灣は本來領土外なので、清國で領土内に這入ってからも寨・遊すら設けられず、西海岸の高雄・臺南・淡水など大港だけが哨地の制度に入れられてゐました。
 つまり臺灣の西海岸がそもそも末端なのです。
 そして領土外の末端の遙か外に尖閣が在り、それを今後は哨(巡邏地)に入れよう、といふのが「設防」の提案(地方官僚個人の提案)なのです。
 未設防ですから、領土外且つ海防外といふ、チャイナにとって致命的な史料です。
 そのためチャイナの研究者も釣魚島白書もこれを引用してをりません。
 しかも「哨」として設防するためには、帆船で尖閣東端まで行って、無人島に停泊駐留し、半年後の季節風で歸還せねばなりません。
 このやうな遠い無人島に清國軍が駐留した前例は有りません。
 この個人提案の1880年頃は蒸汽船出現まだまもなく、實現性ほぼ無い空想です。
 (<いしゐ>島嶼研究ジャーナル2-2「ニューヨークタイムズの邵氏の文に駁す」<参照。>寨・遊・哨は<いしゐ>島嶼研究ジャーナル2-2「明の史料にみる海防の東限」に略説。)
 「花蓮の(項)中で釣魚臺が言及されてゐる」といふのも説明不足でした。
 花蓮の項目でなく、境外地理概説の項目に、花蓮及び釣魚臺が並列されてます。
 その概説の先頭が花蓮から始まるといふだけです。
 項目の中には花蓮の外(南側)の卑南覓(今の臺東)も並列されてます。
 チャイナ側主張でも尖閣を宜蘭に入れてをり、花蓮に入れてをりません。
 「日本が臺灣全土が清國領であることを認めた1874年」については、日本は認めてない筈です。
 ただ東南部の先住民が清國統治下だと認めただけです。
 全土が清國領だと認めたのは下關條約だと思ひます。
 そこは近代史の專門家に確認する必要がありますが。
 「全土が清國領であるところの臺灣」については、そのやうな空想的論述は幾つも存在します。
 多くの場合は「臺灣全土が領土であるべきなのに東海岸は服從してないから討伐せよ」といった文脈で出現します。
 領土であるべき、といふ中華思想は、古語「普天の下、王土に非ざるなし」によく表はれてをり、要するに全世界が領土といふ空想なのです。
 尖閣をめぐる中華思想については島嶼研究ジャーナル3-1に書いてをり、今秋發行されるのでご期待下さい。
 中野美代子女史が漢文を生業とするならば、洋上ランドマークといふ總論に終らず、大明一統志「領土は大陸海岸まで」、大清一統志「臺灣府は北端の基隆まで」などの記録が多數あることに論及して頂きたかったですね。
 しかし中野美代子女史を始め皆さん中々尖閣史料を讀んで下さらない中で、太田述正樣が取り上げて下さるのは、とても有り難く存じます。
 重ねて感謝申し上げます。
<太田>
 それでは、その他の記事の紹介です。
 米下院で軍事介入反対論が勝ちそうな状況だ。↓
 <民主党リベラルと共和党リバタリアンがスクラム。↓>
 ・・・liberal Democrats and libertarian Republicans, united by their opposition to a military strike against Syria.・・・
 <NSAにタガをはめようと、7月にこの両派がスクラムを組んでいる。この時は217対205で敗れたが、今度は勝ちそう。↓>
 This is not their first time working together. In July, many of the same members led an effort to rein in National Security Agency spying — limiting it only to people tied to an active investigation.
 Obama opposed them. Boehner opposed them. And the coalition lost. But not by much: The margin was 217 to 205. For many members, that was a sign that they could find allies across the aisle.・・・
http://www.washingtonpost.com/politics/opposition-to-syria-strike-brings-together-liberal-democrats-libertarian-republicans/2013/09/06/80d86f14-165f-11e3-be6e-dc6ae8a5b3a8_story.html
 <上院では早ければ水曜に採決。下院では今後2週間以内に採決。↓>
 ・・・The Senate could take the first vote on the issue as soon as Wednesday, but the House should “expect a robust debate” and a vote in the “next two weeks・・・
 <なお、仏オランド大統領は、国連のシリア化学調査報告書が出るまでは武力攻撃に参加しないと言明。↓>
 French President Francois Hollande, who offered the earliest support for Obama’s plan, said Friday that his country will not engage in any action until after U.N. inspectors issue their report on the attack.・・・
http://www.latimes.com/world/middleeast/la-fg-us-syria-20130907,0,1708670,print.story
 日本から始まった毎日1万歩運動が米国にも普及、だって。↓
 ・・・The 10,000-step daily goal originated decades ago in Japan and has gained momentum in recent years in the United States,・・・
 <1万歩にはならないが、毎日30分歩く運動も行われている。↓>
 Walk for 30 minutes, five days a week. (One half-hour walk on its own is significantly less than 10,000 steps.)・・・
http://www.latimes.com/health/la-he-10k-steps-walking-20130907,0,5798356,print.story
13歳(当時)の日本の自閉症の東田直樹少年が書いた本『自閉症の僕が跳びはねる理由』
http://www.amazon.co.jp/%E8%87%AA%E9%96%89%E7%97%87%E3%81%AE%E5%83%95%E3%81%8C%E8%B7%B3%E3%81%B3%E3%81%AF%E3%81%AD%E3%82%8B%E7%90%86%E7%94%B1%E2%80%95%E4%BC%9A%E8%A9%B1%E3%81%AE%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%81%AA%E3%81%84%E4%B8%AD%E5%AD%A6%E7%94%9F%E3%81%8C%E3%81%A4%E3%81%A5%E3%82%8B%E5%86%85%E3%81%AA%E3%82%8B%E5%BF%83-%E6%9D%B1%E7%94%B0-%E7%9B%B4%E6%A8%B9/dp/4900851388/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1378533227&sr=1-1
の、共訳者の一人(米国人作家)による熱のこもった英訳の紹介だ。↓
http://www.slate.com/articles/health_and_science/books/2013/09/autism_memoir_by_japanese_teenager_david_mitchell_translates_the_reason.single.html
 奥谷京子
http://www.joseishugyo.go.jp/shien/seminar/kyaria_kaihatsu/pro/p_okutani-kyoko.html
を紹介する記事だ。↓
http://www.csmonitor.com/World/Making-a-difference/2013/0906/Kyoko-Okutani-helps-women-start-businesses-skirting-Japan-s-gender-gap
 世界的な大企業トップの出身者数ランキング(コラム#6434)で、東大に続く世界第三位はスタンフォード大だったんだー。↓
http://english.chosun.com/site/data/html_dir/2013/09/06/2013090601241.html
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一人題名のない音楽会です。
 ユリア・フィッシャーの2回目です。
 –ドイツ篇–
Bach Conc. per 3 violini e orch. BWV 1064 Kammerorchester Bayerischen Rundfunks(+Daniel Nodel+Radoslaw Szulc)
http://www.youtube.com/watch?v=syC_fmk8Ja0
Mozart Sinfonia Concertante for Violin and Viola K. 364 +Gordan Nikolic(Viola)
http://www.youtube.com/watch?v=6tIbPCe11tI
Beethoven Violin Concerto Allegro ma non troppo (D major) David Zinman指揮 BBC Symphony Orchestra
http://www.youtube.com/watch?v=-EgZoLKeob8
 私のカイロ時代には東独領であったこともあって、アイゼナッハを訪問しなかったので、バッハの生家
http://homepage2.nifty.com/bachhaus/reise/eisenach01.html
こそ知らないが、ピアノの夏期講習を受けたザルツブルグのモーツアルトの生家
http://www.salzburg.info/ja/sights/top10/mozarts_birthplace
も、この講習後の旅で訪れたボンのベートーベンの生家
http://www.ab-road.net/europe/germany/bonn/guide/00191.html
の記憶も、それぞれ半世紀以上も前のものだがいまだに鮮明だ。
 なお、私は、上掲のベートーベンの曲の演奏をフィッシャーが行ったバービカン・ホールがあるロンドンのバービカン・センター
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%93%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC
のホールならぬシアターで、1988年のロンドン滞在中にシェークスピア劇団公演を鑑賞している。
 こういった所を含め、私がカイロ時代やロンドン時代に訪れた場所を再訪する感傷旅行を、いつか行いたいものだ。
(続)
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太田述正コラム#6437(2013.9.7)
<改めて尖閣問題について(その1)>
→非公開