太田述正コラム#6383(2013.8.11)
<日支戦争をどう見るか(その21)>(2013.11.26公開)
五 非介入主義
米国に非介入主義(non-interventionism)の伝統があることは良く知られています。
 とにかく、米独立戦争の時に、緊急避難的にフランスと同盟関係を結んで以来、先の大戦に参戦するまで、米国は同盟関係をいかなる国とも結ばなかったのですからね。
http://en.wikipedia.org/wiki/United_States_non-interventionism
 この米国の非介入主義について、下掲のコラムは、斜に構えた説明をしています。
 「マサチューセッツ州選出上院議員のヘンリー・キャボット・ロッジ(Henry Cabot Lodge)<(コラム#3972、3976、4020、4486、4522、5776)>が、第一次世界大戦後のヴェルサイユ条約への反対派を率いたことで、共和党は、最初に孤立主義者(isolationist)というレッテルを貼られた。
 しかし、この誤り導かれた戦争に引き続く、一つのおバカ条約への彼の反対は、必ずしも孤立主義的感情に立脚したものではなかった。
 ロッジは、第一次世界大戦にも米西戦争にも介入主義者的(interventionist)タカ派だった。
 ロッジは、批准されておればフランスがドイツによって攻撃された場合に米国がフランスを防衛することを約束することになっていた、ウィルソンのもう一つの条約の批准に同意さえした。
 或いは、(テキサス州選出の共和党の)元下院議員のロン・ポール(Ron Paul)<(注40)>の役割モデル(role model)である、有名な孤立主義者の(オハイオ州選出の共和党の)ロバート・タフト(Robert Taft)<(コラム#6206)>上院議員のことを考えても見よ。
 (注40)1935年~。ゲティスバーグ大卒、デューク薬科総合大学で医師の資格を取る。信仰:バプティスト。「1988年<米>大統領選挙へ リバタリアン党から出馬するが、3位に終わる。・・・2008年<米>大統領選挙において、共和党の予備選挙に出馬したが、同党の大統領候補には指名されなかった。2012年<米>大統領選挙でも予備選挙に出馬している。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%AB
 大統領候補として、ポールは、タフトが米国がNATOに加盟するのに反対したことを、共和党の孤立主義的ルーツとしてほめちぎった。
 しかし、しぶしぶではあったものの、タフトはトルーマン・ドクトリンとマーシャルプランを支持した。
 彼は、「台湾における支那の国民党政府を100%支持する」ことを約束し、欧州に6個師団を駐留させたいと思った。
 何という孤立主義者だろうか。
 他方、1930年代と実に第二次世界大戦後も、無数の指導的なリベラルや民主党員達も名目上は(by name)孤立主義を抱懐した。
 例えば、米国第一委員会(America First Committee)<(注41)(コラム#6206)>の最大のスポークスマンであったJ・T・フリン(J.T. Flynn)<(注42)>は、その前は長い間、リベラルのニューレパブリック(New Republic)誌のコラムニストだった。
 (注41)米国史における最大の反戦・非介入主義団体。1940年に始まり、1941年の真珠湾攻撃の後に解散。最大時には、会費負担会員数80万人、全米450支部を誇った。
http://en.wikipedia.org/wiki/America_First_Committee
 (注42)John T. Flynn(1882~1964年)。伝統的保守主義の米ジャーナリスト。ジョージタウン・ロースクール卒。もともとはローズベルトの支持者だったが、ニューディールをファシズムへの序章であるとして、ローズベルトと袂を分かった。
http://en.wikipedia.org/wiki/John_T._Flynn
 自認孤立主義者達の運動は第二次世界大戦の灰の中で死んだ。
 しかし、介入主義がそうであるように、それが生きていた時には孤立主義は超党派の大義だった。
 同様、世界と関わったり世界から引き揚げたりという、互いに競争し合う衝動(impulse)は、単一の政党にもっぱら起源を持つものではない。
 そのどちらも、米国人の心の中から直、出てきたものなのだ。
 そして、このどちらの衝動も、常に、あらゆる<外国からの>挑戦に対して正しい、というものではない。
 大部分のタカ派でさえ、ソ連との熱戦よりは冷戦を好んだし、9.11後は、大部分のハト派は、アルカーイダに反撃することを支持した<ことを想起せよ>。」
http://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-goldberg-gop-isolationism-20130806,0,5075026.column
(8月8日アクセス)
⇒米国における孤立主義と非介入主義とは微妙に異なっていますが、外国人たる我々としては、同一のものと見てよいとして、要するに、米国は、建国時のフランスとの緊急避難的同盟を除けば、第二次世界大戦参戦前まで、どこの国とも同盟関係に入らなかったのに、第二次世界大戦参戦後、同盟網を全球的に構築して現在に至っているわけであり、米国は、比較的最近に、対外政策において、劇的な180度転換をやってのけた、ということです。
 その理由は、私が説明するまでもなく、上掲コラムを注意深く読めば明らかです。
 すなわち、共和党内の孤立主義者の割合は、一貫して余り変わっていないのに、日本の真珠湾攻撃・・米国が攻撃させたものですよ!・・が起こった途端、民主党内の孤立主義者が殆んどいなくなり、現在に至っているのです。
 これは、いつなんどき、どんなバカバカしい理由で、逆転現象が民主党内で起きるか、分かったものではない、ということを意味します。(太田) 
(続く)