太田述正コラム#6529(2013.10.23)
<大英帝国の崩壊と英諜報機関(その5)>(2014.2.7公開)
  カ 独立諸国と英諜報機関
 「類似した諸出来事が生起していたのがインド<亜大陸>だ。
 そこでは、戦前における、ナショナリスト達と共産主義者達との同盟に対する恐怖が冷戦によって高められていた。
 ここでも、諜報活動が強化され、英保安連絡官の顔がみんなに知れ渡った。
 それでも、英諜報機関員達は、生まれた印パ両国政府と役に立つ実務関係を作り上げた。
 規則を捻じ曲げたあらゆる証拠は燃やされるかアンスロープ・パークに戻され<(ママ)>た。
 このパターンは、大英帝国解体の全期間、(共産主義が真に脅威となっていた唯一の場所の)マライからアフリカに至るまで、踏襲された。
 スエズでは甚だしい諸失敗があった。
 しかし、<英国と新独立諸国との>混じり合い(mix)の中から、共有された英連邦諜報文化が出現した。
 その中でも目立ったのが、例えば、MI5の海外部門の長のアレックス・ケラー(Alex Kellar)<(注13)>や、マライでの情宣活動を監督したヒュー・カールトン・グリーン(Hugh Carleton Greene)<(注14)>だ。」(C)
 (注13)共産主義者による転覆活動を担当したF部門(Branch)の長。
http://aangirfan.blogspot.jp/2012/01/gay-zionist-spy-chief-maurice-oldfield.html
 (注14)1910~87年。作家のグラハム・グリーンの兄弟。オックスフォード大卒。マライ共産主義者蜂起の際、BBCで駐マライ英軍のための情宣活動に係る制作を行う。後にBBC会長(Director General。1960~69年)。
http://en.wikipedia.org/wiki/Hugh_Greene
 「もし、<英>諜報要員達が、彼らの政治家たる上司達よりも抑制されていて的を射ていたとすれば、彼らは、<諸植民地における>継承者たる政治家達と良い諸関係を樹立することにもより成功を収めた。
 MI5は、大英帝国中でいつも諜報官達を訓練し、諜報機関と警察諸機関(services)は分離されていなければならないということを助言し、新しく独立した諸国の関連機関(bureaux)の設立にさえ成功した。
 このことが、これらの国の大部分を欧米の軌道に止めることに資したと同時に、<これらの国への英国からの>比較的円滑な権力の諸移転を促進した。
 (もっとも、これは、土着の政治家達に自分達の諸敵を監視(check)する手段も与えた。)
 しかも、英国に対して秘密を維持することができた英連邦諸国は殆んど存在しなかった。
 というのも、英国は、彼らの暗号の解読鍵を保有していたからだ。」(D)
  キ 拷問
 「ウォルトンは、拷問の使用が、いかに、嫌悪すべきものでかつ違法であるだけでなく、非効果的であったか、についての興味深い諸論文を書いてきた。
 この主張は、最近、<独>シュピーゲル誌上で、グアンタナモ湾<米軍基地>における首席検察官・・彼は嫌悪感に基づき辞任した・・であったモリス・デーヴィス(Morris Davis)中佐<(注15)>によって繰り返された。
 (注15)1958年~。米空軍将校にして法律家。2005~2007年、グアンタナモ軍法会議(Guantanamo military commissions)の首席検察官。水責め(拷問)によって得られた証言は無効であるとの自分の主張を国防本省で却下した人物の同軍法会議統括官(Presiding Officer)就任に反対して辞任。2008年に空軍を退職。北カロライナ中央大学ロースクール卒。
http://en.wikipedia.org/wiki/Morris_Davis
 彼の懸念を増幅したのは、映画の『ゼロ・ダーク・サーティ』<(コラム#6055、6082、6084、6086、6088、6094、6096、6119、6193)>だった。 
 実際にはそうではなかったのに、あたかも、水責めがビンラディン<の隠れ家>へと導いたかのような、無謀にして戦慄的な印象をあたえるからだ。」(B)
 「ウォルトンは、第二次世界大戦において、捕虜達から情報を引き出す努力から始まったところの、拷問に対して容赦しない。
 しかし、英諜報機関がすぐに自覚したように、この慣行は良い戦略的成果を生まなかったにもかかわらず、諸資源が不足していたケニヤのような場所では続けられた。」(C)
 「・・・ウォルトンが指摘するように。拷問が起こったのは、通常、広範な所管を持っていたためにMI5がそこまで監督できなかった諸機関(agencies)の手によってだった。
 英国は、帝国全域において受け入れ可能な尋問の基準を定めなかった点で責任があるかもしれない・・MI5が関与した場所では、捕虜達の取り扱いと諜報の成果は著しく改善されたものだ・・が、資源が広く薄くばらまかれていたため、中央の諸当局が諸尋問の統制を維持することはしばしば不可能だったのだ。」(F)
→お分かりだと思いますが、ウォルトンやデーヴィスの拷問観には私は不同意です。
 英米における有事観なんてものを持ち出すまでもありません。
 卑近な例を挙げれば、本来自分と自分の家族しかいないはずの離島で、自分の子供が誘拐されるのを目撃していて、その後、島内でその犯人らしき者を自分が捕まえたとすれば、子供の安否や所在をその人物がしゃべらなかったら、拷問・・脅迫や暴行・・を加えてでも彼から情報を引き出そうとするでしょう。
 これが有事というものなのです。(太田)
(続く)