太田述正コラム#6623(2013.12.9)
<日本の暴力団(その4)>(2014.3.26公開)
 「警察の捜査4課や組織犯罪対策課、暴力団対策室に勤める刑事は膨大な人数<ですが、>・・・暴力団組員数がゼロになれば、捜査員は直ちに失職します。彼らは暴力団組員にいてもらわなければなりません。・・・
 警察はホンネでは暴力団がなくなっては困ると思っているはずです。・・・
→溝口は公務員の生態が分かっていないようですね。
 仕事がなくなれば仕事を創り出すのが公務員というものであり、警察の場合で言えば、一般論ですが、例えば、犯罪対処の仕事が減れば、ストーカー対策等、犯罪予防に力を入れ(ると称す)ればよいだけのことであり、仕事をなくさないために暴力団を温存しよう、という発想など持ち合わせてはいないはずです。(太田)
 山口組・・・の中核組織である弘道会<(注8)>・・・は、暴力団というよりむしろ過激派に近いとさえいわれます。弘道会は厳しい内部統制により山口組全体のマフィア化を牽引<している、とされています。>・・・
 (注8)「二代目弘道会(こうどうかい)は、名古屋市中村区宿跡町に本拠を置く日本の暴力団で、指定暴力団・六代目山口組の2次団体。構成員は約4000人。・・・司忍<が>・・・弘道会を設立した。その後、司が六代目山口組組長を継承すると、2005年・・・3月に弘道会若頭・髙山清司(二代目髙山組総裁)が二代目を継承、山口組若頭にも就任した。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%98%E9%81%93%E4%BC%9A
 司忍は本名篠田建市。「1942年・・・、大分県大分市生まれ。大分県立水産高等学校(現・大分県立津久見高等学校海洋科学校)を卒業後、地元の大手水産会社に就職。その後、大阪を経て名古屋に出<た。>」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%B8%E5%BF%8D
 暴力団は世間に名前を知られてナンボの世界です。そういう暴力団が簡単にマフィアに変身できるとは思えません。
 しかし近い将来、マフィアになれば、暴力団対策法は暴力団だけを対象とする法律ですから、マフィアに対しては適用できなくなります。警察は今以上に暴力団向けの武器を失い、マフィアに対しては組織犯罪処罰法ぐらいしか用意できません。
 やはり暴力団など組織犯罪集団に対しては、まったく新しく結社そのものを立件できる法律が必要になる時代が遠からず来るはずです。
 岡っ引き時代以来の微妙な警察と暴力団の関係がようやく諸外国並みに、「警察VS.組織犯罪集団」の構図になるのです。」(142~143、147、154)
 「<暴力団>加入者の出自は暴走族、親の手に余る不良少年、番長、被差別部落の出身者、在日の韓国・朝鮮人などであるといわれていました・・・。」(166)
→よく暴力団員には部落出身者と在日が多い、と言われるのに、これだけで片付けられてはたまりません。
 部落出身者の割合を7割とした外国人「研究者」がいるようですが、これはいくら何でも高過ぎると思いつつも、そもそも、警察にもデータがなさそうなので、確たることは分かりません。
 部落(同和)差別禁止の掛け声の下で、部落問題には触れないように官民ともしている、ということなのかもしれません。
 他方、在日については、2割程度のようです。
http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daisanjuuyondai 
 ざっくり言って、暴力団員の少なくとも半分弱は、部落出身者と在日である、と見てよさそうです。(太田)
 「広域暴力団はたいてい傘下に右翼団体を抱えています。そういう右翼の街宣車を動員して社屋を囲み、大音量でがなり立てるぞ、という脅し<をする場合があります。>・・・」(192)
→これも、もう少し踏み込んで記述して欲しかったところです。
 いわゆる街宣右翼の大部分は暴力団系と見てよさそうです
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A1%97%E5%AE%A3%E5%8F%B3%E7%BF%BC
が、政治活動を装い、特定の企業の不祥事についてあることないことをその企業の本社等の前で「街宣」し、或いは「街宣」することをにおわせることで、「政治資金」を当該企業に貢がせる、というやり口は極めて巧妙です。
 これでは、容易に警察は手を出せませんからね。(太田)
 「2010年11月に発生した市川海老蔵殴打事件で有名になったのが、東京・六本木を根城にする暴走族の集まりだった関東連合<(注9)>OBでした。・・・
 (注9)「関東連合は・・・東京都世田谷区や同杉並区の暴走族の連合体として1973年に結成され、2003年に解散。ところが解散後もOB(元メンバー)同士が上下関係に基づく強い絆で結束しているとされ、・・・このOBらの結び付きを指して“関東連合”と一般に呼んでいる。・・・比較的裕福な家庭に育った者がメンバーに多い。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%96%A2%E6%9D%B1%E9%80%A3%E5%90%88
 近年は暴走族自体が存続しにくくなって<おり、>関東連合も2000年ごろ解散したと言われています。したがって関東連合に暴走族の現役はいず、いるのはOBだけとなります。・・・
 半グレ集団は、暴力団とどこがどうちがうのでしょうか。・・・
 まず、半グレ集団は暴力団に籍を置いていません。
 そのために暴力団対策法の適用を受けずにすむし、地方自治体が定める暴力団排除条例の対象外にもなります。半グレ集団は公共住宅にも住めるし、その気になれば公共工事の下請けや孫請けにも参入できます。・・・
 二番目の特色としては、半グレ集団の持つ匿名性や隠密性が挙げられます。・・・
 たとえばオレオレなどの振り込め詐欺や出会い系サイトの運営、偽造クレジットカードの使用、ネットカジノ、ネット利用のドラッグ通販、ペニーオークション・・・の運営などを考えてみれば、秘匿性や匿名性が半グレ集団の商売の必要条件であることは明らかです。
 半グレ集団のシノギはどこかに詐欺的な部分が含まれていますから、利用者からのトラブルを回避するためには自分の正体や連絡先を隠すことが不可欠です。・・・
 三番目は暴力団の構成員に比べて、半グレ集団のメンバーは20~30歳代、年長でも40歳代までと年齢層が若いことが挙げられます。・・・
 そのせいなのか、カネにはシビアでドライです。老人や社会的弱者から「命ガネ」を奪うことをためらいません。・・・
 また・・・ネットやIT技術、金融知識などを容易に身につけ、自在に使いこなす者が多いのです。そのためインターネットやIT関係で新しいシノギを見つけ、創出し、採用して活用することに優れています。・・・
 年齢層が高い暴力団はどうしてもシノギ探しで後手になりがちで、結果的に新しいシノギの分野を見つけられないでいます。・・・
 四番目はこれに関連して、新規の若手志望者は暴力団で激減、半グレ集団で増大という傾向があります。・・・
 とはいえ、半グレ集団は暴力団に取って代わることはできません。暴力団は擬制の血縁関係をもとにピラミッド型の組織をつくりあげ、全国に勢力を伸ばし、また土地ごとの有力組織と友誼関係を結んで、日本の全地域を結ぶネットワークを完成しています。暴力団は組織化の完成型であり、半グレ集団がたとえマネしたくてもマネできるものではありません。・・・
 <こういった>半グレ集団<的なもの>・・・が先進諸国における組織犯罪のあり方としてはふつうです。たとえば英、独、仏といった国には日本の暴力団やイタリア<と米国>のマフィアのような犯罪のデパートじみた組織はないとされています。・・・
 つまり「犯罪者集団=半グレ集団=半グレマフィア」だけが存在します。香港の・・・三合会は、日本の暴力団に似かよう組織と見られがちですが、実態はメンバーのそれぞれが各自得意とする犯罪で収益を上げているだけです。その事実が上層部に報告されることもありません。」(155~156、158~164、170~172)
 「よく暴力団がなくなると悪い人が世の中に拡散する、社会に悪影響を及ぼすから暴力団はあった方がよい、という意見があります。
 たぶん、この意見はまちがいです。暴力団が零落して四散し、マフィアになるとはいっても、いきなりシチリアマフィアのような組織は結成できません。検事や裁判官や証人になる人を次々と殺していくような恐ろしいマフィアが生まれるためには特有の歴史と風土が必要です。
 メキシコのコカイン・マフィアのように敵対グループを一連の抗争で100人以上殺すような凶暴性も集中性も爆発力も徹底した貧しさも日本の暴力団にはありません。
 日本のヤクザ、暴力団の歴史はさほど血腥くはありません。諸外国の組織犯罪集団と比べれば、基盤を庶民に置いて、どうしようもない、ぐうたらで横着な男たちだけど、愛嬌がないこともないと評される隣人だった時代があります。・・・
 このよう<な>・・・人たちには、退場してもらってよいのではないでしょうか。」(188~189)
→ここまで『暴力団』を読んだ限りでは、暴力団の歴史的文化的背景も、他国の犯罪集団との比較も、そして、暴力団の実態についても、更には暴力団の今後についても、隔靴掻痒の感がありました。
 以下、『続・暴力団』に期待して、読み始めたいと思います。(太田)
(続く)