太田述正コラム#0224(2004.1.6)
<現代日本の越し方行く末(その7)>

 (前回のコラムに「ア 収斂」という小見出しを入れました。また、一部のメーリングリストの方に送った前回のコラムで用いた「コンバージョン」という言葉を「収斂」に改めました。私のホームページ(http://www.ohtan.net)の時事コラム欄でお確かめください。)

イ 覇権連合の形成
  
 仏独が牛耳るEUは、米国の向こうを張って独自のGPS整備計画であるガリレオ計画を打ち出しましたが、米国は2001年12月に、米国のGPSが電波干渉を受ける懼れ等をあげ、この計画に反対する意思表示を行いました。
 しかし、EUは米国に配慮して一部計画内容を手直ししつつも、この計画を推進しています。
 2003年に入って、中国とインドがガリレオ計画への参加を決め、ロシアも参加する可能性が出てきています。更に、カナダ、韓国、そしてイスラエルまでもが参加の意向を明らかにしているといいます。
 他方、日本は、1998年9月のクリントン大統領と小淵首相との首脳会談での合意以降、完全に米国のGPSにコミットしてきており、いまさら離脱することなどできない状況にあります
(以上、園田 義明「ガリレオという名のスペース・パワー」メルマガ『萬晩報』2003年12月21日、による。)
また、ITER(International Thermonuclear Experimental Reactor project)が推進している核融合実験炉の設置場所について、メンバー国中、フランスのカダラッシュを推すEU、ロシア、中国と、日本の六ヶ所村を押す日本、米国、韓国が対立(カナダは中立)して、昨年中に決定できず、決定が本年に先送りされたことも記憶に新しいところです(http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/3336701.stm(12月21日アクセス))。
イラクの復興支援についても、ほぼ同じ対立の図式が見られます。

 これは、保護国日本が米国の命ずるところに唯々諾々と従っているだけだと見ることもできますが、私はむしろ、(英国を除く)EU・ロシア・中国・インド等からなるユーラシア連合に対する、アングロサクソンと日本の覇権連合が形成されつつある、と理解すべきだと考えています。
 (カナダと韓国は旗幟鮮明になっていません。いずれ、そのことについても本コラムで取り上げます。)

 一体、その背景は何なのでしょうか。
米フォーリン・アフェアーズ誌の2004年1/2月号(2003.12.23発行)にパウエル米国務長官が’A Strategy of Partnerships’という、ブッシュ政権の対外政策全般を弁護した論文を寄稿していますが、この論文の中で、項を起こしてロシア、インド、中国、北朝鮮の四カ国を取り上げていることが注目されます。行間からにじみ出ているのは、これら諸国が米国の潜在敵国だ、というニュアンスです。他方、NATOや欧州という言葉は出てきても、EUやEU加盟国には全く言及がありません。(http://www.nytimes.com/cfr/international/20031101faessay_v83n1_powell.html。12月26日アクセス)。 
私に言わせれば、仏独が牛耳るEUは米国の最大の潜在敵「国」となっており、上記四カ国はそのEUと陰に陽に連携行動をとっているからけしからん、とブッシュ政権が受け止めているからこそこれら四カ国が名指しで取り上げられたのであり、パウエルとしては本来EUこそ真っ先に項を起こして批判したかったはずです(さすがにEUと北朝鮮が連携行動をとっているとまでは言えませんが、EU加盟の主要国が北朝鮮と国交を結んでいることが思い起こされます。)パウエルがそうせず、単にEUを無視するだけにとどめたのは、外交的配慮以外のなにものでもありません。
いくら何でもそんなことはないだろう、という声があがりそうですね。
それではもう少し説明しましょう。
米国は今、国をあげて対テロ全面戦争の真っ最中であり、この戦争に面従腹背のEUは、NATOの下で米国と固く結ばれてきた同盟「国」としてはもってのほかだ、と米国は内心怒り心頭に発しているのです。
 事実、仏独等はイラク戦開戦に強硬に反対したばかりでなく、仏独が牛耳るEUは形の上ではテロリストのカネとヒトの動きを遮断するための(国連決議にのっとった)厳格な規制を導入しつつも、その実施にあたっては徹底的に手抜きしている、と国連事務当局からさえ批判されています(http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A62515-2003Dec13?language=printer。12月14日アクセス)。
 私がこのコラムで繰り返し指摘してきたように、世界の近現代史を貫く最大のテーマは、全く対蹠的なアングロサクソン文明と欧州文明との対立であり、この対立の構図が2001年の9.11同時多発テロを契機に再び鮮明になったということです。
 そうなると、文明の親縁性といい、保有するパワー(経済力及び文化力)といい、米英両国を中心とするアングロサクソンにとって、日本は最大かつ最良の同盟国ということにならざるを得ないわけです。

ウ 米国の「求愛」

そのことを、昨年末にこれ以上もないほど明確に述べたのが、米国務副長官のリチャード・アーミテージです。 
 「<米国には>日本が必要だ。日本のようにわれわれを助け、導いてくれるパートナーが必要だ。われわれは日本と米英関係のような関係を築きたいと考えている。意見が合わないときには日本のしっかりした忠告を受けたい。・・私は個人的には20数年間にわたり日本が再び偉大な国になることを目指して動いてきたが、いま、そうなったと思う。・・小泉首相が<自衛隊のイラク派遣の>基本計画決定の際に語った非常に強い言葉には涙が出そうになった。日本の歴史にとって素晴らしい瞬間だった」(日本経済新聞2003年12月25日朝刊7面掲載の12月23日付けインタビューより)

(続く)