太田述正コラム#7040(2014.7.6)
<皆さんとディスカッション(続x2316)>
<太田>(ツイッターより)
 「韓国の朴槿恵<大統領は、>…中国の習近平国家主席との昼食会で、日本の憲法解釈見直しについて…「平和憲法が守られなくなるのでは。さまざまな国が憂慮を表明している」と共に…憂慮を表明したのだ。集団的自衛権の行使容認は、朝鮮半島有事で日本が米国を支援するためには不可欠。韓国がこれに反対することは「韓国を守る米軍に助けは不要」と言っているのに等しい自殺行為だ。<…>」
http://news.livedoor.com/article/detail/9012474/
 この産経の見解は正しいでしょうか?
 明日のコラムに答えを載せるからね。
 それにしても、日本では、「集団的自衛権」の議論がきちんとできる人が殆んどいないねえ。
<太田>
 コラム#7036でuKWJGDqsクンが紹介していたこれ↓
http://blog.livedoor.jp/hosoyayuichi/archives/1865199.html
、私のコラムじゃなかったんだね。
 で、読んでみたら、全然「よくまとまって<なんか>い」ないでー。
「最高裁は一度も集団的自衛権を禁ずる判決を出していません。1959年の砂川判決は、周知の通り、日本の自衛権行使を認める判決を出しました。そこでは、集団と個別とを分けていません。集団的自衛権の行使を容認したわけではありませんが、禁止したわけでもありません。・・・内閣法制局は過去一度も、政府が憲法解釈の変更をできないと語ったことはありませんし、実際に何度も政府の憲法解釈は変更されてきました。」
はその通りであり、常識として知っているべきことだな。
 しかし、後は、おかしな箇所ばかりだ。
 要点を抜き出してみた。
「今回の解釈変更で試みている最も重要な課題は、朝鮮半島情勢が不安定化する中で、北朝鮮が韓国に攻撃をした場合に、在日米軍が韓国を防衛するために出動する際に日本が米軍に後方支援をすることにあると理解しています。」
 ここ↑で、筆者の細谷センセが、北朝鮮の韓国攻撃の際の在日米軍への日本の支援が「最も重要な課題」だと言ってるけど、それだけでも、「北朝鮮」、「在日米軍」なんて言葉を使ってるところを見ると、ご本人が「安全保障については多少勉強してきました」と言ってるの、ウソじゃないかってことになっちゃいまっせ。
 「在日米軍」は、日本の領域外に出た瞬間に、単なる「米軍」になっちゃう上、日本を経由せずに出撃する米軍だっているんだし、それに、「北朝鮮」と限定しちゃうと上掲ツィートで紹介した朴さんの発言は正しいってことになっちゃうんだな。
 どうしてか?
 1950~53年の朝鮮戦争のことを思い出して欲しい。
 北朝鮮が侵攻してきた時、韓国は米国と同盟関係にはなく、当然、米軍も韓国に駐留していなかったというのに、来援した米軍等のおかげで韓国は持ちこたえ、その後の中共の北側に立っての参戦もまた持ちこたえている。
 いくら現在の韓国軍が欠陥だらけだと言っても、当時に比べりゃ、北朝鮮軍に比べて数等強力だし、米韓同盟がある・・これだけで、北朝鮮の核は相殺された上オツリがくる・・上、在韓米軍だっている。
 しかも、韓国から見れば、中共が現在北朝鮮に比べて韓国に対してより傾いている以上、北朝鮮が侵攻してきたって大して怖かあない。
 だから、朴さん、日本の解釈変更なんて全く必要性を感じてないのさ。
 だけど、米国は違う。
 中期的な、しかも、最悪ケースを想定している。
 中共が支援する形で北朝鮮が侵攻してくる事態、いや、更にこれにロシアが一枚噛む事態すら想定しているはずだ。
 となると、現在はともかく、中期的な先を考えると、今のうちに、日本が集団的自衛権を行使できるようしてくれることは(朝鮮戦争勃発時と違って自衛隊が、しかも「強力な」自衛隊を日本が持っている以上、)望ましい、ということになる。
 私は、(中共が脅威じゃない理由こそ彼女とは全く異なるが、)朴さん乗りであることは想像がつくだろうけどね。
 だから、朴さんや私からすれば、今回の解釈改変は、朝鮮有事のためなんぞではありえない、ということになるら。
 
「通常は、国連憲章第51条に書かれている集団的自衛権の解釈とは、武力行使を意味します。PKOの武器使用や、後方支援などは国際法上の常識として、集団的自衛権の行使には含まれません。つまりは、今回の政府の憲法解釈変更の主眼は、国連憲章51条が想定する集団的自衛権に基づく武力行使をするためではなく、本来は集団的自衛権のカテゴリーに入らないはずのPKOでの武器使用や後方支援に関するものです。」 
 さて、この↑くだり、「PKOでの」が「武器使用」と「後方支援」にかかるのなら、それが「主眼」とセンセは言ってるところ、先ほどの「最も重要な課題」と丸っきり中身が違うのは何じゃいってことになるので、「後方支援」は「後方支援」一般のことなんだろうが、それが「集団的自衛権の行使には含まれません」ちゅうのは、細谷センセが「安全保障について」全く「勉強して」こなかったことを意味しとるで。
 (閣議決定に「いわゆる後方支援と言われる支援活動それ自体は、「武力の行使」に当たらない活動である。・・・我が国の支援対象となる他国軍隊が「現に戦闘行為を行っている現場」では、支援活動は実施しない。」
http://www.asahi.com/articles/ASG713DQGG71UTFK00J.html
とあることについては後述。)
 いいかい、それが「集団的自衛権の行使」に「含まれ」ないのであれば、後方支援は「個別的自衛権の行使」にも「含まれ」ないことになるはずであるところ、後方支援の英語は、logistic(s) support(兵站支援)であるところ、その意味は、「作戦の適切な実施、計画、企画を行うために不可欠な、装備、施設、部品、技術情報、訓練された人員の調達と分配」
http://www.businessdictionary.com/definition/logistics-support.html
であって、米軍に関しては、「米国本体及び世界中に配備されている諸部隊の兵站上の諸役務、物資、及び輸送<の確保>」
http://www.thefreedictionary.com/logistic+support
だし、「武力行使」ってのは「use of (military) force」 、すなわち、「(軍事)部隊を用いること」
http://ejje.weblio.jp/content/%E6%AD%A6%E5%8A%9B%E8%A1%8C%E4%BD%BF
だから、ドンパチやることだけじゃあないのよ。
 つまり、軍隊が行う「後方支援」は、集団的自衛権の行使として行われようが個別的自衛権の行使として行われようが、「武力の行使」なんだわさ。
 で、「古今東西のほとんどの国で、歩兵をはじめとして、戦車や砲兵なども含めた前線で戦う部隊の軍全体に占める割合は、5割程度と言うのが常識です。では残りの5割は何をしている部隊なのか? と言いますと、彼らが担当するのがいわゆる「後方支援」と呼ばれる分野です」
http://plaza.rakuten.co.jp/kurukku2004/diary/200701260000/
というわけだから、・・「5割」という腰だめの数字の当否はともかくとして、・・下↓のくだりもまたオカシイってことが分かるだろ。
「今回の政府の決定は、・・・本来の集団的自衛権の行使が想定する範囲の1割程度の範囲での行使容認にしか過ぎません。」
 後方支援ができるのなら、それだけでも、5割の範囲の行使容認になるはずだからさ。
 ここで、軍隊(日本の場合は自衛隊)以外が行う後方支援だってあんじゃないか、という「反論」に答えておこう。
 そりゃそうだ。
 だけど、そんなん、今まででも、日本、やってたよ。
 米軍を日本に駐留させ、その在日米軍に後方支援してる、ホスト・ネーション・サポートってのがそれだ。
 じゃ、米軍一般・・公海上だろうが他国の領域内だろうが・・に対する後方支援は?
 それだって、武器輸出に該当するケース以外は認められていた。
 (武器輸出が解禁になったんだから、武器輸出に該当するケースだって既に認められてるってことになる。)
 今回は、これに加えて、自衛隊による米軍等への後方支援を解禁したってこと。
 当然、民間業者や自衛隊以外の政府機関が後方支援できない「危険地域」における後方支援が念頭にあるわけ。
 さてと、「内閣法制局が集団的自衛権を禁ずる解釈を確立していくのは、1972年からです。」
は、いいとして、
「内閣法制局は安全保障の常識について無知のあまりにそれらを・・・1997年の・・・「武力行使との一体化」などという、国際的に存在しない奇妙な論理を構築して、集団的自衛権の一部に含めてそれらの活動を禁止してしまったのです。内閣法制局は、本来は異なる領域の安全保障上の活動を、集団的自衛権というラベルを貼って、それを「禁止」してしまったので、日本の安全保障活動に深刻な支障が生じているのです。」
は話が逆だと言わなければならない。
 上述したことを踏まえれば、「武力行使との一体化」論は、まさに、「安全保障の常識に」合致しているからだ。
 今回、「安全保障の常識」に反する閣議決定を行わなきゃならない必要性から、「いわゆる後方支援と言われる支援活動それ自体は、「武力の行使」に当たらない活動である。」なんちゅー「非常識」なことを言い出さなければならなかった、そこで、事務方たる外務省/防衛省が細谷センセ等をだまくらかしちゃったんだろ。
 そんなことを言い出した結果、「我が国の支援対象となる他国軍隊が「現に戦闘行為を行っている現場」では、支援活動は実施しない。」という訳の分からない・・「現場」って何?・・言い訳をした挙句、「仮に、状況変化により、我が国が支援活動を実施している場所が「現に戦闘行為を行っている現場」となる場合には、直ちにそこで実施している支援活動を休止又は中断する。」なんて、到底実行不可能なことまで書き連ねる羽目に陥ったってこと。
 話は変わって、
「日本の自衛隊のPKOに参加する隊員は、助けを求めに来た目の前でレイプされている現地の少女を助けてることも、武装集団に襲われて助けを求めるNGOボランティアの人を助けることも、現行の内閣法制局が判断した憲法解釈ではできません」
だけど、自衛権/正当防衛権は、法の一般原理上、あらゆる個人、団体に認められてて、それには「個別的」も「集団的」も区別なんかない・・国連憲章上「個別的自衛権」「集団的自衛権」が出てくるのは、武力行使の一般的禁止の下での注意規定に過ぎない・・んだから、今まで、「部隊としては」正当防衛件の行使はできないとしてきた政府憲法解釈が誤ってたってだけのことさ。
 ところで、
「集団的自衛権の行使を容認すべき<こと>・・・に反対する意見が多いこと<は承知>していますが、それが全面容認ということであれば、おそらくは私も反対します。」
には絶句したな。
 後方支援は武力行使じゃないってウソを完全に信じ込んじゃってるからこういう言が出てくるんだろうね。
 それにしても、「おそらく」だなんて、自信なげなこと言っててどーすんのよ。
 最後に、
「9.11テロの後にNATOが北大西洋条約第5条の集団的自衛権の行使を発動しても、アメリカはそれに対してNATOからの協力を受けることを拒否して、アメリカ上空の警戒監視活動のみをNATO加盟国に協力を要請しました。せっかくヨーロッパのNATO加盟国が、集団的自衛権の行使を申し出ているのに、アメリカ政府はそれを邪魔だとして、拒否したのです。それゆえヨーロッパ諸国には、一種の屈辱感や感情的な反発が生まれています。」
だけど、「それゆえ」以下はありえねーって叫びたいね。
 「ヨーロッパのNATO加盟国」は多くが、(米国に比べりゃ殆んどものの役に立たない軍事能力しかないのに、)アフガニスタン派兵という「集団的自衛権の行使」をやった上、「アメリカ上空の警戒監視活動」・・こりゃ私も知らなかった。カナダ軍かしらん。・・というところまで踏み込んで、やはり「集団的自衛権の行使」をやったんだからね。
 なお、このほか、今回の解釈変更じゃあ、自衛隊による、いわゆるマイナー自衛権の行使を認めた、というもう一つのブレークスルーがあったわけだが、センセがこれに触れてないので、言及していないことをお断りしておく。
 関連記事だ。
 諮問をしたセンセ(の少なくとも約1人)すら分かってないことを世論調査で聞くなってんの。↓
 「集団的自衛権容認「よくなかった」50% 朝日新聞調査・・・」
http://digital.asahi.com/articles/ASG7541JBG75UZPS001.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASG7541JBG75UZPS001
 公海上で、自衛官/自衛隊部隊、に国際法で違法とされている事案を取り締まる権限を一般的に付与すべきだ。↓
 「自衛官、多国籍部隊司令官に…ソマリア海賊対処・・・司令官は約3か月ごとの持ち回りで、参加国の連絡・調整を行う。日本は早ければ来春以降に司令官を担う予定だ。海賊対処法では、海賊対処行動は警察権に基づく活動と定めている。このため、多国籍部隊の司令官を務めても、集団的自衛権など憲法上の問題は生じない。」
http://www.yomiuri.co.jp/politics/20140705-OYT1T50015.html?from=ytop_ylist
<BjRiG8jY>(「たった一人の反乱(避難所)」より)
 「あらためて集団的自衛権について」
 これでコラム書いてください。
<p9BvMaEw>(同上)
 気持ちはわかるが、それは言ってはいけないと思っとるよ。
 ウィキペディアの集団的自衛権の、これこれこういうところがわからないから教えて欲しい、みたいに聞くべきだよ。
 「皆さんとディスカッション」というタイトルである意味を考えてみては?
<太田>
 BjRiG8jYクン、上の方で書いたことで、さしあたりご勘弁を。
 質問あったらどーぞ。
 (マイナー自衛権って?・・なーんて質問はダメよ。)
<UFc4UnxM>(「たった一人の反乱(避難所)」より)
 ハマスは、シリアの混乱やISISなどによるイラクの混乱等に乗じるつもりなのでしょうか?
http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPKBN0F80AY20140703
 シェールガスがなければ、<石油市場に>もっといろいろ影響が大きそうなことですが。
<太田>
 イスラエルの唱えるハマス犯人説の当否を含め、僕にも分からん。
 ただ、ファタと「和解」したばかりの現在、ハマス当局がそんなことをやらかした、とはちーと考えにくいけどね。
<ZOzixgNU>(「たった一人の反乱(避難所)」より)
 【東大が防衛省に協力拒否】輸送機の不具合究明「軍事研究」と
http://www.47news.jp/CN/201407/CN2014070501001492.html
 防衛省が次期輸送機C2の配備を再度延期、開発費800億円増
http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPKBN0F90HH20140704
 防衛省も踏んだり蹴ったりだな。やはり他国との共同開発をより進めるべき。
<太田>
 関連記事だ。
 当ったり前だろ。
 実戦的な訓練しなきゃ死傷者は出ないが、それこそ税金ドロボーだぜ。↓
 「自衛隊の訓練 死亡事故率 消防の3倍・・・」
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2014070690070308.html
 ZOzixgNUクンが取り上げた件だが、こんな逆境の中で、黙々と訓練に励んできた自衛隊員はエライと思わないか。↓
 「防衛省が今年5月、強度試験中に不具合が起きた航空自衛隊輸送機の原因究明のため東大大学院教授に協力要請したところ、大学側が「軍事研究」を禁じた東大方針に反すると判断し拒否した・・・
 一方、教授は大学側に届けず防衛省の分析チームに個人の立場で参加しており、大学方針の実効性が問われる可能性もある。・・・」
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2014070501001492.html
 それでは、その他の記事の紹介です。
 へー、そういうことなの。↓
 「・・・黄禹錫(ファンウソク)・元ソウル大教授は04年、世界で初めてヒトのクローン胚(はい)からES細胞(胚性幹細胞)を作ったとする論文を、米科学誌サイエンスに発表。その後、捏造(ねつぞう)だったと判明、論文が撤回された。
 ところが今年2月、米国で黄・元教授の論文に登場したES細胞の特許が成立。撤回された論文も審査で引用されたが、問題にならなかった。3年前には、カナダでも特許が成立している。
 しかし、黄・元教授の研究は科学界に広く受け入れられていないのが現状だ。理研は「論文と特許は別だ」(幹部)としてきたが、特許が成立しても、理研や論文著者の科学的な信頼が回復するわけではない。出願取り下げは可能だが、理研広報は「方針は決まっていない」とする。」
http://digital.asahi.com/articles/ASG733DBSG73PLBJ006.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASG733DBSG73PLBJ006
 柳の下にドジョウが果たしているか?
 ま、STAP細胞研究/検証実験、よりかははるかにスジはイイけどね。↓
 「世界初「重力波」望遠鏡、地下空間が完成 岐阜・神岡・・・」
http://digital.asahi.com/articles/ASG745D28G74OIPE010.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASG745D28G74OIPE010
 「・・・米国を「超大国」と思っている<米国>人の割合は二〇一一年の38%から一四年は28%に急落したことが分かった。・・・」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2014070602000101.html
 米国国歌についての詳細な議論が載ってるコラムだ。
 だけど、内容よりは、URLが貼ってある5つの国歌歌唱/演奏動画を鑑賞する方が面白い。↓
http://www.slate.com/articles/arts/music_box/2014/07/the_star_spangled_banner_four_reasons_it_shouldn_t_be_the_national_anthem.html
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太田述正コラム#7041(2014.7.6)
<キリスト教と資本主義の両立可能性(その3)>
→非公開