太田述正コラム#6879(2014.4.16)
<フランス革命再考(その2)>(2014.8.1公開)
 (2)これまでのフランス革命観
 「フランス革命の歴史学者達は、同時代の観察者達にとっても明白であったところのもの・・すなわち、この革命は、啓蒙主義に関する急進的諸観念によって引き起こされた・・を当然視していたものだ。
 しかし、ここ数十年、学者達は、フランス革命は、社会的諸勢力、政治、経済、あるいは文化・・自由平等といった抽象的諸観念(notions)以外の殆んどあらゆるもの・・によってもたらされた、と主張してきた。」(B)
 「<つまり、>諸食糧不足、公的債務諸危機、及び、パリからヴァンデ(Vendee)<(注1)>にかけての社会的諸不満と、報道の自由、絶対的平等、政治的自由、そして急進的民主主義に関する、多過ぎるほどの種類の急進的諸観念(ideas)、とが組み合わされた<というのだ。>」(A)
 (注1)フランス西部の大西洋岸の県。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%83%87%E7%9C%8C
 フランス革命期の1793~94年にかけて、カトリック王党派がヴァンデ地方を中心に革命政府に対して起こした反乱であるヴァンデ戦争で知られる。犠牲者は30~40万ともいわれる。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%83%87%E3%81%AE%E5%8F%8D%E4%B9%B1
 「<しかし、>ある歴史学者が適切にも論述したように、「<このような>修正主義的諸説明の主要な欠陥は、彼らがマルクス主義的ヴァージョンに対するもっともらしい代替物を提供することに失敗してきたことなのだ。」(B)
 「イスラエル<自身、>フランス革命の歴史学者達は、「一つ問題を抱えている」と記している。
 それは、彼らが、その勃発に関して、単一の主要な原因について合意に達したことが一度もないことだ、と。
 彼は、<この本>を終えるにあたって、彼が何をそうでなくてはならないものとして信じているかについて響き渡るような断言を行っている。
 「<この本>のみが、理性、思想の自由、及び民主主義に立脚した、広範にして一般的な解放の諸力を起動させたところの、十分に普遍的にして、世俗的にして、かつ平等主義的な諸価値を一括したもの、を提供している」と。」(A)
 「<要するに、この本>の中で、啓蒙主義の世界で指導的な歴史学者達の一人<である著者>が、知的歴史をその正当な中心的役割へと復帰させているのだ。」(B)
 (3)スピノザの急進的啓蒙主義
 「イスラエルは、スピノザ(Spinoza)<(コラム#1364、6449、6520)(注2)>の形而上学的・政治的諸著作の中に、急進的啓蒙主義の政治的・道徳的核心(kernel)を同定する。
 (注2)バールーフ・デ・スピノザ(Baruch De Spinoza。1632~77年)。「オランダの哲学者、神学者。・・・スピノザの汎神論は唯物論的な一元論でもあり、後世の無神論・・・や唯物論・・・に強い影響を与え<た。>・・・ユダヤ人の貿易商の家庭に生まれる。両親はポルトガルでのユダヤ人迫害から逃れオランダへ移住してきたセファルディム。・・・<彼は、>家業を手伝うために高等教育は受けなかった。伝統から自由な宗教観・・<すなわち、>神即自然 (deus sive natura) の概念・・・に代表される非人格的な神概念と、伝統的な自由意志の概念を退ける徹底した決定論・・を持ち・・・、当時のユダヤ教の信仰のありかたや聖典の扱いに対して批判的な態度をと<る。>。恐らくそのため1656年・・・にアムステルダムのユダヤ人共同体からヘーレム(破門・追放)にされる。・・・この<彼の>考えはキリスト教神学者からも非難され、スピノザは無神論者として攻撃された。・・・<彼の>著作は全てラテン語で書かれている。・・・スピノザは日常会話にはポルトガル語を使いオランダ語には堪能ではなかった。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%95%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%94%E3%83%8E%E3%82%B6
 スピノザと彼の急進的啓蒙主義の追従者達によれば、民主主義は、最も自由で最も絶対的な状態であって、しかるがゆえに、国家の最適形態なのだ。
 しかし、我々は、この政治的自由を達成するするには、人間の本性ないし摂理(Providence)だけを頼りにするわけにはいかないのであって、啓蒙主義を達成するためには行動することが求められる、と。」(C)
(続く)