太田述正コラム#6897(2014.4.25)
<フランス革命再考(その11)/戦争の意義?(その1)>(2014.8.10公開)
         –フランス革命再考(その11)–
3 終わりに
 言い訳で恐縮ですが、比較的土地勘のある分野ではあるものの、書評等の原文が難解で、かなり要訳に苦労させられたこと、障害を抱えるパソコンをだましだまし書き綴ったこと、オフ会「講演」準備もしなければならなかったこと、から疲れた上、オフ会を控えて時間もあまりないこと、各書評を通じ、(ご紹介したような形で、)比較的的確な著者批判が部分的になされていたこと、等から、以下、ざっくりとした感想を記すにとどめ、(過去のコラムを参照することも省き、)このシリーズを閉じたいと思います。
 イスラエルの最大の問題点は、イギリスには、啓蒙主義が(イギリスが元から啓蒙主義的な社会だったことから)存在しなかったという事実を直視していないことです。
 啓蒙主義とは、イギリス以外の社会が、イギリスを崇拝し、イギリス社会を理念型化したり、理念型化した上で、自分達の社会における、イギリス化の実現、ないしはイギリスの将来の先取り、を図ったりする、営みであるというのがかねてよりの私の考えです。
 イギリスと合併したスコットランドに18世紀に起こった啓蒙主義は、イギリス的なものを内側から理念型化しようとし、それに概ね成功したと言ってよいでしょう。
 それに対し、欧州における啓蒙主義は、イギリス的なものを外側から理念型化しようとしたけれど、イギリス社会の人間主義的側面や理論化が困難なコモンローを無視したり、民主主義を絶対視したり、等、歪んだ形で理念型化をしてしまった、と私は見ています。
 イスラエルが、欧州の啓蒙主義の起源をスピノザに求めたのは、恐らく、正しいのだと思います。
 その上で、私は、スピノザは、17世紀という早い時期において、欧州人としてはほぼ最初に、イギリス社会を・・但し歪んだ形で・・理念型化した人物であるのに対し、ルソーは、スピノザらが(歪んだ形で)理念型化したものを自分達の社会において実現するためのプログラムを18世紀において提起した、フランス系の人物群中の中心的存在である、と見るわけです。
 更に、フランスにおいて、ルソーらのプログラムを実践した論理的帰結が恐怖時代であった、とも見ているのです。
 すなわち、人間主義的拮抗力を整備しないまま、封建制を破壊して社会を個人主義化/資本主義化した結果、利己主義が噴出して社会が空中分解しそうになった上に、致命的にも、(男性に係る普通選挙に立脚した)民主主義を一挙に導入した結果、空中分解を食い止めようと集権化を追求する最も権力志向的にして暴力的な集団が主導権を握る形でフランス社会が全体主義化し、必然的に恐怖時代がもたらされた、と考えます。
 なお、恐怖時代をもたらした要因として、国内での諸叛乱や外国諸国の軍事介入があげられる、という指摘は、必ずしも間違ってはいないものの、(後のロシア革命の際にもほぼ同じことが起こりましたが、)このような革命の進展に対して警戒感を募らせ、国内の各種集団が反発して叛乱を起こしたり、関係諸外国が軍事介入を試みたりするのは当然であり、この当然の反応の下、革命を起こした社会の全体主義化は一層進む、ということも含め、必然的に恐怖時代がもたらされる、ということなのです。
 (米独立革命の評価については、立ち入りません。)
 
(完)
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            –戦争の意義?(その1)
 イアン・モリス(Ian Morris)の『戦争!–一体何の役に立つ?(War! What Is It Good For?)』のさわりを書評類をもとにご紹介し、私のコメントを付そうと思います。
A:http://online.wsj.com/news/articles/SB10001424052702303325204579463552011272012?mg=reno64-wsj&url=http%3A%2F%2Fonline.wsj.com%2Farticle%2FSB10001424052702303325204579463552011272012.html (但し、有料記事なので、出だし部分のみ。)
(4月12日アクセス)
B:http://www.theguardian.com/books/2014/apr/20/war-what-is-it-good-for-ian-morris
(4月23日アクセス)
C:http://www.spectator.co.uk/books/books-feature/9173241/war-by-ian-morris-review/
(4月24日アクセス(以下同じ)。書評(以下同じ))
D:http://theamericanscholar.org/once-and-future-warfare/#.U1i3EZVZqUk
E:http://www.cleveland.com/books/index.ssf/2014/04/historian_ian_morris_discerns.html
F:http://www.theatlantic.com/international/archive/2014/04/the-slaughter-bench-of-history/360534/
 (著者による解説)
G:http://www.thenational.ae/arts-culture/books/war-is-a-friend-only-to-the-undertaker-historian-ian-morris-thinks-war-has-been-good-for-humanity#full
 (書評(以下同じ))
H:http://tweedsmag.org/war-what-is-it-good-for-by-ian-morris/ 
I:http://escholarship.org/uc/item/8jr9v920#page-1
 (この本のもとになった著者による2012年の論文)
J:https://chronicle.com/article/In-Ian-Morriss-Big-History/137415/ 
 (執筆前における著書のインタビュー)
K:http://www.washingtonpost.com/opinions/in-the-long-run-wars-make-us-safer-and-richer/2014/04/25/a4207660-c965-11e3-a75e-463587891b57_story.html?hpid=z1
 (4月29日アクセス。書評)
 なお、モリス(1960年~)については、かつて、「東と西」シリーズ(コラム#4446~)で、彼の『なぜ西側が・・現在のところ・・<東側を>支配しているのか–歴史の諸パターンとどそれらが将来について何を明らかにしているか(Why the West Rules – For Now: The Patterns of History and What They Reveal About the Future)』を取り上げているところですが、改めてご紹介すれば、英バーミンガム大卒、ケンブリッジ大博士で、米シカゴ大を経て、現在スタンフォード大古典学教授、という人物です。
http://en.wikipedia.org/wiki/Ian_Morris_(historian)
(続く)