太田述正コラム#6955(2014.5.24)
<ピケティv.FTの大論争(その1)>(2014.9.8公開)
1 始めに
 ファイナンシャルタイムスが、既に畏敬の対象となりつつあるところの、ピケティ(Piketty)のベストセラーに正面から噛み付き、英米で大きな話題になり始めています。
 そこで、2本のシリーズの連載中ではあるけれど、急遽、この話題をご紹介することにしました。
2 FTの宣戦布告 
 「ピケティが<提供している>第一次(original)諸典拠には、極少数者である最富裕層の富の富全体に占める割合の増大、というテーゼを裏付けるものは無きに等しい。
 43歳のピケティ教授は、過去200年間にわたる、欧州と米国での富の不平等に係る諸推計の詳細な典拠を提供している。
 しかし、彼の表計算群の中には、第一次諸典拠からの転記ミス群と不適当な(incorrect)処理方策(formula)群が存在する。
 また、そのデータの幾何かは、いいとこ取り(cherry-pick)がなされたり、第一次典拠なしに作成(construct)されたりしている。
 例えば、弊社がデータを整理し単純化してみると、欧州の諸係数は、1970年より後における亢進する富の不平等に向けてのいかなる趨勢も示さなかった。・・・
 「資本主義の中心的矛盾」を発見したとの彼の主張(contention)は、この数か月というもの、彼を左翼の英雄にした。
 彼の諸結論については議論が引き起こされてきたことは確かだが、今日に至るまで、彼の統計的作業の質については<彼の諸結論に反対する側を含め、みんなから>一致した称賛が与えられてきた。
 <だからこそ、>先月米国を訪問した際、ピケティ教授は、米財務長官のジェイコブ・ルー(Jacob Lew)<(注1)>に面会することができ、ホワイトハウスの経済諮問委員会でプレゼンテーションを行い、IMFと国連で講義を行うことができた<わけだが・・>。」
http://www.ft.com/intl/cms/s/2/e1f343ca-e281-11e3-89fd-00144feabdc0.html#axzz32bGgCtpl
 (注1)1955年~。ハーヴァード大卒、ジョージタウン大ロースクール卒。「父親がポーランドからの移民のユダヤ系」。弁護士、大学教授、米行政管理予算局長2回、米国務副長官、米大統領首席補佐官等を経て現職。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%82%B3%E3%83%96%E3%83%BB%E3%83%AB%E3%83%BC
 「単純な転記の際のタイプミスのほか、最適ならぬ(suboptimal)平均化諸テクニック、諸係数へ<加えられたところ>の複数の説明抜きの諸調整、典拠なしのデータ諸入力・異なった諸時点の説明抜きの使用・典拠データの一貫性のない諸使用、があげられる。
 こういった一切合財から、欠陥あるデータが、典拠データが<本来>物語るものを超えるように見えるところの、一般化された富の不平等に係る長期的な歴史的諸趨勢を生み出し、「資本主義の中心的矛盾」は最富裕の諸個人の間における容赦なき富の集中である、とのピケティ教授の結論に対して、紛い物の(spurious)支えを提供しているのだ。・・・
 <例えば、>欧州における富を推計する際に、異なった諸国の平均値を計算するにあたって、ピケティ教授は、スウェーデンに対し、<それぞれの>7分の1の人口しかないにもかかわらず、フランスと英国と同じウェートを与えている。」
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/c9ce1a54-e281-11e3-89fd-00144feabdc0.html?siteedition=intl#axzz32bGgCtpl
3 ピケティの反論
 「私は、自分の歴史的データ系列群が、改善され、将来改善されるであろうことについて、疑いの念を持っていない。
 (だからこそ、私は、それらの全てをネット上に<正々堂々と>アップしているのだ。)・・・
 しかし、長期的な富の諸配分に係る実質的結論のうちの一つですら、これらの諸改善によって影響を受けるようなことがあれば、私は、非常に驚くことだろう。
 例えば、私の米国の系列群は、既に、・・・バークレー<と>・・・LSE<の2人による>重要な新しい研究論文によって、拡張され改善されている。
 この業績は、私の本が書かれた後になされたものであり、残念ながら、私は、それを自分の本のために用いることができなかった。
 <この2人は、>とりわけ最近に関し、私が自分の本の中で用いたデータよりももっと体系的なデータを用いている。
 彼らの系列群は、全く異なったデータ典拠と方法論・・・を用いて作成された。
 その主要な諸結果は、下掲で見ることができる。
http://gabriel-zucman.eu/files/SaezZucman2014Slides.pdf.
 自身でご覧いただきたいが、彼らの諸結果は、私自身の諸発見を裏付け、補強するものだ。
 すなわち、この数十年における米国の最富裕層の興隆は、私が自分の本の中で示したものよりも更に大きかったのだ。・・・
 最後に一言。 
 富の集中に関する私の諸推計は、海外における富を十分勘定に入れていないところ、このことは、<この諸推計が、>低く誤っている可能性が高い、ということだ。」
http://blogs.ft.com/money-supply/2014/05/23/piketty-response-to-ft-data-concerns/
(続く)