太田述正コラム#7108(2014.8.9)
<中東イスラム世界の成り立ち(続)(その2)>(2014.11.24公開)
  ウ 公正発展党
 「・・・国民を二分する人物と見なされることもあるエルドアン氏について、すべてのトルコ人が<そ>れほど満足しているわけではない。最近のピュー・リサーチ・センターの<世論>調査では、国民の48%がエルドアン氏を支持する一方、48%が不支持で、調査結果はトルコを分裂した社会として描き出していた。
 エルドアン氏に批判的な向きは、昨年の大規模デモの弾圧、それに続く政府関連汚職の調査の妨害、ユーチューブとツイッターへのアクセス遮断の試みについて同氏を責めている。また彼らは、トルコの経済が短期の外国資金に依存していることと、トルコと近隣諸国および同盟諸国と関係が緊張したり敵対したりしていることを強調する。・・・
 <他方、>社会的保守の大衆は、社会生活、政治生活の大半からも締め出されていると感じていた。女性の約6割に相当するヘッドスカーフをかぶる女性は、エルドアン氏が政権を握る前は、大学に通ったり、公務員職に就いたり、議員になることを禁じられていた。
 トルコの貧困層と敬虔な信者――互いに重なり合うこの社会集団は、7700万人の人口の大部分を構成し、エルドアン氏の支持基盤の根幹を成している・・・。・・・
 ピューの<世論>調査では、1日5回以上祈りを捧げる人の74%が首相のことを良い影響を与える存在だと考えていることが分かった。一方、ほとんど祈ることがない人たちの間では、その数字は25%に落ち込んだ。・・・」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41440
 「トルコでは初めて大統領直接選挙が8月10日行われる・・・<が、>首相の・・・エルドアンがトルコ最初の選挙選出大統領になることはほぼ保証されている。・・・
 <一つには、>エルドアン政権が成立した2002年に比べ、その経済規模が3倍になっている。・・・10年間の公正発展党(AKP)の諸政策が、同国のインフラを改善し、顕著に生活諸水準を上昇させたのだ。・・・
 <また、>同首相のクルド人・・同国の15~20%を占める・・に対する微笑攻勢により、彼らの諸票が確保されることだろう。
 エルドアン政権は、クルドの言語的、文化的諸権利を増進させる諸改革を採択し、クルド労働者党(PKK)の闘士達の武装解除とトルコ社会への再統合の地均しを行ったのだ。
 PKKの投獄された指導者たるアブドゥラ・オチャラン(Abdullah Ocalan)の2013年の休戦宣言・・30年を超える間、他の諸政党には達成できなかったことだ・・は、クルド人が多数を占めるトルコ南東部における暴力を減らし、AKPが3月の地方諸選挙で勝利することを助けた。
 爾来、新しい法律がPKKとの公式の平和諸交渉のための枠組みを造り出し、エルドアンは、クルド人諸州に若干の諸権力を移譲するという更なる諸計画を明らかにした。
 3月の選挙で6.5%の票を獲得したクルド民族主義の平和民主党(Peace and Democracy Party)は、こういうわけで、決選投票になった場合にエルドアンを推すことがほぼ保証されている。・・・
 当選した暁には、エルドアンは、政府の<立法・司法・行政の>3部門すべてを統合する可能性が高い。
 そして、彼は、トルコ人達自身によって選ばれたところの、トルコの独裁者的存在(strongman)の大統領になることだろう。」
http://www.latimes.com/opinion/op-ed/la-oe-cagaptay-turkey-erdogan-reelection-20140807-story.html
 (以上の典拠は、8月8日アクセス)
 「エルドアンと彼の党は、2007年に、議会を通じて、大統領の直接選挙を推進するに十分な支持を確保する(marshal)することができたが、彼らは、大統領の現在の諸権力を変えることまでは行えなかった。・・・
 しかし、エルドアンのより強大な権力の集積を目指す道における格段に最大の障害は、来年の夏の議会選挙だ。
 この新たな大統領府に彼が欲する広範な諸権力を付与するためには、エルドアンは、憲法を変える必要があるが、それには、彼の連立勢力の議会での明確な多数が不可欠だ。
 政権を担うこの連立勢力は、議会で3分の2(367)を持てば無条件で憲法改正ができ、5分の3(330)なら改正案を可決した上で、国民投票で承認を受ける必要がある。
 トルコでの前回の議会選挙は2011年だったが、AKPは3分の2にはわずかに届かなかった。」
http://www.foreignpolicy.com/articles/2014/08/08/the_height_of_hubris
(8月9日アクセス)
⇒中東イスラム世界の世俗化の旗手であったトルコが、エルドアン率いるイスラム政党の公正発展党によって、(権威と権力が分離した)アングロサクソン由来の議院内閣制から、(権威と権力が一致した)米国ないし欧州由来の大統領制への「転落」に向けて着々と進んでいる、というわけです。
 予定通り、大統領制へと「転落」した後は、事実上の、公正発展党の一党独裁体制にトルコが移行し、トルコが急進イスラム社会たるファシズム社会へと堕して行く可能性が高い、と私は危惧しています。
 そうなることを阻止できるかどうかは、広範な世俗的トルコ国民を糾合する形での世俗諸政党の大同団結ができるかどうかがカギでしょう。(太田)
(完)