太田述正コラム#7352(2014.12.9)
<新イギリス史(その7)>(2015.3.26公開)
 「英国は、侵攻、戦争、そして革命といった、<国のかたちの>変形力のある大災害を相対的に免れてきた。
⇒これは日本にも完全にあてはまります。(太田)
 その結果が、昔からの、建築物等、文化的宝物群、及び、王室、議会、諸州(shires)、選挙区たる都市群(boroughs)、国教会(the Church)、諸大学、諸学校、慈善諸団体、任意寄付制の諸協会(voluntary associations)、その他、の存続だ。
 これは、長期にわたる文化的首尾一貫性、とりわけ、アングロサクソン時代にまで遡るところの、主流の話し言葉かつ書き言葉としての英語の使用、によって補強された。
 「国(nation)は変化するが、一定の諸構造で継続するものがある」とトゥームズは主張する。
 「イギリスは、イタリア、ドイツ、或いはフランスが有しないところの、昔からの構造的統一性を、ある種の形で(in a way)有する」と。
⇒ここも、日本にも基本的にあてはまります。(太田)
 
 同様の長期的視点をとることで、大英帝国の終焉、及び非植民地化の後、英国の力、富、及び全球的地位が典型的には失われたと見られてさえいるにもかかわらず、これらは瞠目すべきほど安定し続けてきたことが顕現してくる。
 18世紀初頭に、英国が、顕著な力として出現した時、英国は、当時の世界の半ダースの最強国家群の中で、最も小さいものの、それにもかかわらず、最も全球的な存在だった。
 その3世紀後においても、英国は、依然としてそうであり続けているのであり、米国だけを除くが、他の全ての諸国をはるかに引き離しているのだ。
 他の諸尺度(measures)は、英国の国際的な力は落ち、その政治的及び社会的組織は駄目になったという「衰亡論者(declinist)」的見解についての諸疑問を喚起している。
 例えば、20世紀央の英国は、19世紀央よりも軍事的に強力だった、とこの研究は所見を述べる。
⇒20世紀央を1950年だとすれば、その時点で、核を保有していたのは米ソだけであり、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%B8%E4%BF%9D%E6%9C%89%E5%9B%BD%E3%81%AE%E4%B8%80%E8%A6%A7
世界一の総合的軍事力を有していた19世紀央、すなわち、1850年に比べれば、その軍事力の零落ぶりは明らかです。
 トゥームズは白昼夢でも見ているのでしょうか。(太田)
 1960年代には、英国はいまだかつてないほど富んでいた。
 2008年においては、イギリスは、一人当たり租所得において、大きな諸国の中では、米国に次ぐ第2位だった、と。
⇒前にも指摘した疑問を覚えます。
 そこで、検証してみました。
 直近の2013年・・既に円安にふれていた年・・の数字でさえ、英国は23位で24位の日本こそ久しぶりに上回っていますが、その上には、フランス、ドイツ、そして米国がいます。
http://ecodb.net/ranking/imf_ngdpdpc.html#JP
 で、2008年なのですが、英国は25位で、その上にはフランスと米国しかいません。日本は円高がまだ余り進行していなかった頃なので、32位です。英国とフランスの差は微々たるもの(上掲。但し、左欄で対象年(2008年)を選択。)なので、統計によっては、英国とフランスの順位が逆のものもあったのかもしれません。
 2005年から2007年までは、英国の上には米国しかいませんでしたが、2009年~2012年は、米国、ドイツ、フランス、日本の後塵を拝しています(上掲。但し、2009~2012年を選択)。
 少なくとも2009年の数字を使えたであろうに、わざわざ2008年の数字を用いるとは、トゥームズは歴史学者の名に値しない、という誹りを受けても仕方ありますまい。
 但し、「大国」同士での比較に徹している、という点だけについては、私と同じ発想であり、トゥームズを評価します。(太田)
 <但し、>この本は、英国の行政の高度に中央集権化された状態については批判的だ。
 この本は、それは比較的最近の産物だと指摘している。」(D)
⇒ことイギリスに限定すれば、少なくとも11世紀のノルマンコンケスト以来、行政は「高度に中央集権化され」続けてきたのであり、このくだりについても、にわかに首肯はできません。(太田)
3 終わりに
 こういうわけで、トゥームズの歴史学者としての誠実性には疑問符が付きますが、それだけに、というか、だからこそ、トゥームズのお国自慢は、イギリスの指導層のホンネを吐露したもの、と受け止められる、と私は思います。
 そして、私の目から見ても、彼が開陳したお国自慢の8割がたは客観性がありそうです。
 もとより、そのイギリスよりも、日本の方が自慢すべき点は多い、と私は客観的に証明できる、と信じているわけですが・・。
(完)