太田述正コラム#7851(2015.8.16)
<皆さんとディスカッション(続x2721)>
<太田>(ツイッターより)
英国で女王主催の対日戦勝記念行事。
http://www.theguardian.com/world/2015/aug/15/vj-day-queen-commemoration-service-70th-anniversary-war-end
 エッそんなの1988年に英留してた時にはなかったぞと思ったら、対独戦勝記念行事しかないことにアジア戦域復員兵達がずっと文句を言ってきていて初めて実施したんだね。
 実質敗戦記念日だから偉いね、と言っとこ。
 「 「大戦 深い反省」 天皇陛下 踏み込んだ「お言葉」…」
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015081690071147.html
 <10:00>現在、このお言葉だけの見出しの記事を載せているのは主要6紙電子版中東京のみ。
 他方、英米主要メディアは多くがそうしている。
 天皇は、日本だけじゃ元首じゃないようだね。
<太田>
 上掲記事からだが、「陛下はこうしたお言葉や記者会見の回答は、基本的には自ら書いているという。行事の主催者から原案が届いても、側近を通じて資料を調べたりして、直前まで推敲(すいこう)を重ねる。今回の「深い反省」も、検討を尽くした上に加えられたとみられる。」ちゅうんだから、私がかねてから指摘してるように、歴代天皇は、仕事のオニなのだ。
 なお、本件に関し、「英米主要メディア」を代表させるとすれば、やっぱりFT様でしょ。↓
 Japan’s emperor — unlike Prime Minister Abe — apologizes for WWII・・・
http://www.csmonitor.com/World/Asia-Pacific/2015/0815/Japan-s-emperor-unlike-Prime-Minister-Abe-apologizes-for-WWII
 関連記事だ。
 日本の主要紙電子版が、談話に対する「右」の反応を余り取り上げてないのも怠慢だな。
 その数少ない例外が下掲記事だ。↓
 「・・・『植民地支配』『侵略』<等の>・・・キーワードを盛り込まずに村山談話の事実上の「上書き」を期待していた首相支持層に不満がくすぶる。
 「首相は我々の期待に応えてくれると思っていたが……」。「英霊にこたえる会」の寺島泰三会長は15日、靖国神社内で開いた集会で「首相が熟慮の上に熟慮を重ねた結果だろう」としながら不満をにじませた。
 首相を新人議員時代から支持する評論家の金美齢氏も「首相の本来の原点である『戦後レジームからの脱却』を目指すという気持ちがあまり見えない」と指摘する。・・・
 保守系の首相支持層から<も、>「閣議決定する以上、何らかの形で<キーワードを>盛り込まざるを得なかったのだろう」(首相側近議員)と落胆の声も出た。
 <田久保サン個人についても、日本会議についても、正体見たり枯尾花、だな。↓>
 首相を支持する保守層が不満を抱きつつも留飲を下げたのは「先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない」とのくだりだ。
 保守系団体、日本会議の田久保忠衛会長は「村山談話から大きく前進した」と強調。高市早苗総務相も15日、記者団に「日本人に生まれただけで未来永劫謝罪を続けなければいけないという議論から解放された」と評価した。・・・」
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS15H1T_V10C15A8PE8000/?dg=1
 一人気を吐く小林よしのり、と言いたいところだが・・。↓
 <もともと、自民党「タカ」派に期待をかけるのがおかしいんだよ。↓>
 「・・・小林<よしのり>氏<は>「安倍晋三はこんな人間じゃないんですよ」と切り出し、「だいたい、保守派(自民党右派)は全員、村山談話が大嫌いなんですよ!」と声を荒らげたのだ。・・・
 <いつでも、連中は言い訳を予め用意してるってこと、気付こうとしないアンタがバカなのさ。↓>
 小林氏は不満げに「ところが、いざ出してみると、(安倍談話は)村山談話が、ただ冗長になっただけ」と談話の意義を否定し、今回の安倍談話は安保法制の整備に追い込まれた、安倍首相の妥協の産物であるかのように語ってみせた。
 <自分がその教祖格のくせによー言うよ。↓>
 さらに、小林氏は過去の戦争に「反省とお詫び」を訴える安倍談話について「本当だったら、保守派も相当怒らなければいけないんだけれども」と分析し、「今、保守派は『安倍真理教』にハマってしまっているから」と、安倍首相への支持をカルト宗教に例えて笑いを誘ったのだった。・・・」
http://news.livedoor.com/article/detail/10473024/
<MH>
 日本経済新聞 8月13日(木) 紙版朝刊第一面掲載
 「戦後70年」
 緒方貞子氏「ODA超えた貢献を」 (これからの世界)
 国際協力機構特別フェロー
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B7%92%E6%96%B9%E8%B2%9E%E5%AD%90
――その中国との関係でも日本は戦後、試行錯誤を繰り返してきました。領土や歴史問題の対立が深まり、関係は一向に安定しません。
 「経済的には中国との協力なしにはやっていけない。そのことは政府より、むしろ経済界がよく分かっている。日本側の一部の層に安易なナショナリズムがある一方、中国側の一部にも傲慢な傾向がみられる。どうすればよいか、答えは簡単に見つからない。だが、日米関係を強めれば、日中関係も安定するというほど状況は単純ではない」
――治安維持のため、自衛隊が海外での活動を増やすなら賛成だ、と。
 「国際的に期待される治安維持の役割があるときには、自衛隊も出ていけばよい。その大前提は、必要な訓練がきちんとされていて、国際的な活動の一部として出て行くことだ。ただ、それを国際貢献の看板とするには無理がある。自衛隊を出すにしても物理的な限界がある。日本はもっと紛争国間の調停に入り、和平を仲介する役割をめざすべきだ。それには国際政治をよく理解し、交渉力がある人材を育てなければならない」
――世論調査では安全保障関連法案への反対が多いです。押し切ってでも、成立させるべきだと思いますか。
 「法案によって何ができるようになるのか、どのように世界に役立てるのか。その見取り図を、政府がもっとしっかり、出せるようにならなければならない。そこをはっきりさせないと、世論の理解は得られない。以前私は、日本だけが『繁栄の孤島』となることはできないと言ったことがあるが、日本人だけが危ないところに行かず、自分たちだけの幸せを守っていけるような時代は、もう終わった」
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO89931290Q5A730C1I10000/
 緒方さんの曽祖父は5.15事件で暗殺された犬養毅なんですね。それは知りませんでした。
 緒方さん自身は安保体制に賛成みたいですが、太田さんはいかが思いますでしょうか、やはり当然?
⇒当たり障りのないことを言ってるだけですよ。
 まあ、大変な時代だったというのに、犬養もそういう人物だったから殺されちゃったわけですが・・。
 そもそも、2代にわたる外交官の家に生まれた御用学者で外務省のポチときていて、しかもカトリック教徒なんですから、そんな彼女の言に耳を傾けるなんて、時間の無駄というものです。(太田)
PART2
 日本経済新聞 8月10日付け 紙版朝刊第一面掲載
 「戦後70年」
 (4)強大ドイツにきしむ欧州
 仏国立人口学研究所研究員 エマニュエル・トッド氏
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%9E%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%89
 太田さんが「やはりフランス人だナ」と評していたトッド氏。
 過去にこんな発言をしたり。
 「日本は非核国なのに対して中国は核保有国です。経済でも日本は高い技術力を持つ先進国なのに比べて、中国は輸出や生産の規模は大きいが技術力は低い。日中両国は、均衡が取れていません。不均衡な関係は危険です。実際、中国は国内の不満をそらすために反日ナショナリズムを利用しています。中国をけん制するには、地政学的に見てロシアとの関係強化が有効なのです。」
⇒典拠付けましょう。
 「不均衡な関係は危険です」以下は、全てナンセンスです。(太田)
 こんな事も言ってますがね
 「日本は戦争への贖罪意識が強く、技術・経済的にもリーダー国なのに世界に責任を果たせないでいる。過去を引き合いに出しての”道徳的”立場は、真に道徳的とはいいがたい。」として日本の態度を批判した」
⇒典拠付けましょう。
 ここはまぐれあたりにあたっています。(太田)
 さて日経の記事。
――欧州では独の存在感が突出しています。
 「欧州は2度の大戦の前のような文化の分裂に直面する。1871年に成立した強大な独帝国の出現に周辺国は動揺し、地域情勢は不安定になった。今も似た構図だ」
 「北欧やポーランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟は、本来は対ロけん制と米の影響力強化が目的だったが、結果的に独の経済圏を広げた。独は武器を持たずエリート主義の過去に戻った。独経済の強さは続くだろうが、あの国は外交で成功した例がない」
 「欧州が向かうのは均質化ではなく階級化だ。独が頂点に立ち、民主主義が終幕に近づく。ギリシャに課そうとする官僚支配はまるでファシズムで、欧州連合(EU)崩壊への第一歩にみえる」
⇒欧州は、カトリック系のキリスト教民主同盟・・「欧州連合憲章に記されている神に関する事項の定着、保証に尽力する。そのためにキリスト教の象徴を公共空間に目に見える形で保持すること、ならびにキリスト教の祝祭日を保持することに尽力すると<し>ている」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%82%A4%E3%83%84%E3%82%AD%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88%E6%95%99%E6%B0%91%E4%B8%BB%E5%90%8C%E7%9B%9F
・・率いるドイツが、事実上統治するところの、単一国家への道を着々と歩んでいます。
 私の言う、プロト欧州文明回帰・・神聖ローマ帝国の復活拡大と言い換えてもよい・・の歩みです。
 トッドのこのくだりの発言は、負け犬のフランス・・欧州文明の旗手だった・・を代弁した遠吠えでしかありません。(太田)
――日本の存在と役割をどう評価しますか。
 「日本は米に次ぐ世界2位の経済大国にのし上がった。今は(中国に抜かれ)3位だが、技術革新力ではなお2番目の位置にいる。世界の価値観を創れる国の一つだ。日本の再軍備を懸念する人がいるが、中国との関係が緊張する中、もし私が安倍晋三首相なら、自国の過去の軍事行為を厳しく自己批判したうえで防衛力を一段と強化する」
⇒「世界の価値観を創れる国の一つ」、「中国との関係が緊張する中」、「自国の過去の軍事行為を厳しく自己批判」、は、それぞれ、「世界の価値観を創れる唯一の国」、「中国が日本の再軍備を強く求めている中」、「自国の過去の歴史の見方を抜本的に改め」、の間違えだが、結論だけは正しい、と言うべきでしょう。(太田)
――人口減の日本は移民を受け入れるかどうか議論しています。
 「移民受け入れは不可欠だが、複雑な問題だ。朝鮮半島出身者が日本社会に溶け込む難しさは誰もが知っている。2度目の明治維新さながらの国民意識の転換が必要だ」
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO90347200Q5A810C1MM8000/
⇒「朝鮮半島出身者が日本社会に溶け込む難しさは誰でも知っている」を「朝鮮半島出身者が日本社会に溶け込む難しさの原因である永住権制度を廃止すべきだ」に改めれば、OKですね。(太田)
 移民が必要だが、日本には在日問題があるので国民意識転換が必要と明確に書いていますね。
 私個人はトッドの「防衛力強化」とはどういう意味なのか。日米安保を放擲した上での話なのか、現状で行うのかがハッキリしませんけれど。
 上記の緒方さんの案の方が受け入れやすいです。
 日本は赤字財政でこれ以上の防衛費の増加は国民の理解が得られないでしょう。
⇒先ほど指摘したように緒方のおばちゃまは何も言ってないに等しいですし、赤字財政じゃなかった頃も防衛費の増加は国民の理解は得られませんでしたし、防衛力強化と防衛費の増加は必ずしも同じではありません。(太田)
<Ej9NFjsw>(「たった一人の反乱(避難所)」より)
 「中国の軍事パレードは台湾への威嚇(遠藤誉)・・・
中国にとっては、台湾ほどウェイトの高い問題はない。
それに比べれば、日本の存在など、二の次、三の次なのである。
軍事パレードを日本への威嚇と受け止めて、過剰に反応しない方がいい。
習近平政権の反腐敗運動を権力闘争とみなす一部メディアや中国研究者がまだいるが、その勘違いが実に危険であるのと同様に、中国に潜んでいる深い内部情勢を見誤ると、日本国民にとって利をもたらさない。
 注意を喚起したい。」
http://bylines.news.yahoo.co.jp/endohomare/20150813-00048450/
<太田>
 自分の言葉も付け加えて欲しいねえ。
 さてと、遠藤おばちゃまが、軍事/安全保障について話した時は、聞き流した方がいいよ。
 正しくは、こうだ。
 「中国の軍事パレードは日本を「独立」させるための策略(太田述正)・・・
中国にとっては、日本ほどウェイトの高い問題はない。
それに比べれば、台湾の存在など、二の次、三の次なのである。
軍事パレードを台湾への威嚇と受け止めたりした文章を垂れ流さない方がいい。
習近平政権の反腐敗運動を権力闘争とみなす一部メディアや中国研究者がまだいるが、その勘違いが実に危険であるのと同様に、遠藤誉のような、中国に潜んでいる深い内部情勢を見誤る中国研究者も、日本国民にとって利をもたらさない。
 注意を喚起したい。」
<太田> 
 それでは、その他の記事の紹介です。
 疑惑のデパート、我らが佐野研二郎アニイ。↓
 「佐野氏デザインのトートバッグ、その後の展開・・・」
http://blogos.com/article/128453/
 英領だったナイジェリアから募集された兵士がビルマで日本軍と戦ってたんだね。↓
 ・・・ in Nigeria・・・Official western accounts long played down the contribution of Africans in the Asian campaign — allied commander General Slim never thanked the 14th Army, of which they were part — and few young Nigerians know of it.・・・
http://www.theguardian.com/world/2015/aug/16/from-nigeria-to-burma-jungle-courage-and-compassion-in-war-with-japan-vj-day
 米国が難民を受け入れてるなんておこがましい。
 国内に黒人難民をかかえてるじゃないか、とさ。↓
 ・・・The United States claims to be a country that protects refugees, not produces them; a country that chastises nations with poor human rights records. But what of our own human rights record, which shows how far we still have to go in eradicating racial injustice and violence? ・・・
 <現在、収監されてるか、犯罪を犯したとして監視下に置かれている黒人の数は、南北戦争前の黒人奴隷数を上回っている。↓>
 In the United States, there are 1.6 million black men in prison, on probation or on parole, double the number who were enslaved in 1850. ・・・
 <白人家計の中位財産は14万ドル超、黒人家計は1万ドル超。↓>
 ・・・in 2013, the median wealth for white households was about $141,900, whereas for black households it was about $11,000. ・・・
https://www.washingtonpost.com/opinions/could-black-people-in-the-us-qualify-as-refugees/2015/08/14/b97a628a-406c-11e5-bfe3-ff1d8549bfd2_story.html
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太田述正コラム#7852(2015.8.16)
<資本主義とポスト資本主義(続)(その2)>
→非公開