太田述正コラム#0325(2004.4.20)
<国際連合の実相(その1)>

1 始めに

 私は1980年に日本政府の推薦を得て、国際連合事務総長によって信頼醸成措置に関する会議の日本政府専門家に任命され、同年から翌年にかけてニューヨークとジュネーブで計4回行われた会議(計6週間に及んだ)に出席したことがあります(注1)。
 
 (注1)その成果が、他の15名の各国の政府専門家とともにまとめた報告書、Comprehensive Study on Confidence-building Measures, 1982, New York, United Nationsである。

 私以外の政府専門家には大使クラスの人が多く、私は地位の点でも年齢の点でも最も若輩だったのですが、この時、内側から国連の実相を垣間見ることができました。
 今でも印象に残っていることが二つあります。
 第一に、国連事務局はプロトコールには滅法うるさい(注2)けれど、仕事に係る熱意と能力はお世辞にも高いとは言えない、ということです。

 (注2)昼食会や夕食会の際の私の席次は常に最下位であり、事務局員並びだった。このことで事務局に対し、やんわり抗議したこともあったが、全く取り合ってもらえなかった。

事務局は頼りにならないわけですから例えば、国連の報告書なるものの出来不出来はもっぱら、会議に出席した専門家(政府専門家が集まる場合と単なる専門家が集まる場合がある)の中にどれだけ熱意と能力のある人間がいるかどうかで決る、ということです。
 私の出席した会議の場合、地位の高いご老体が多すぎたこともあり、会議は踊れども遅々として前に進まなかったところ、信頼醸成措置について大した専門家でもなかった若輩の私でさえ、各専門家の間を走り回ることで、報告書のとりまとめに大きな貢献ができた、という経験を踏まえて私はモノを言っているのです。
 第二に、国連は第三世界の人々の小遣い銭稼ぎ(より直截的に申さば、「たかり」)の場になっているということです。
 忘れもしない、ある日、会議が終わって書類をアタッシュケースにしまっていたところ、議場の部屋の片隅で、アフリカの某国からの政府専門家(大使)が真剣な面持ちで事務局員とやり合っているのです。
 聞き耳を立てると、国連から支給される旅費(航空運賃プラス日当。むろん私も支給されました)の額が過少に支払われていると口角泡を飛ばして抗議しているのです。延々と続きそうだったので、しばらくして議場を後にしましたが、会議の時とは打って変わったこの大使の迫力を目の当たりにし、彼らにとって国連という場がいかに貴重な収入源になっているのかがよく分かりました(注3)。

 (注3)ニューヨークの国連本部で会議が開かれていたある日、私は議場の部屋を出て10数歩歩いたところで、数日前にニューヨークで買ったばかりの自動開傘方式の折り畳み傘を忘れたことを思い出し、すぐにその部屋にとって返した。部屋には第三世界の政府専門家数名と事務局員数名が残っていたが、傘は消えており、誰も傘など知らないという。その場にいた誰かがすぐさま猫ババして、アタッシュケースの中にでも隠したとしか考えようがなく、その人物のセコさかげんにあきれかえった記憶がある。

 私はこのような経験から、爾来国連について、巨大な浪費の中からほんのわずかのアウトプウトしか生み出していない機関、という印象を拭いきれないのです。

2 国連の最近の仕事ぶり

 (1)国連人権委員会
 53カ国がメンバーになっている国連人権委員会は、4月15日、拉致問題を含む北朝鮮の人権状況を非難する決議を賛成28、反対10、棄権14で昨年に引き続き可決しました。昨年に比べて賛成票が増えています。ちなみに、中国やロシアは反対票を投じ、韓国は(一昨年は採決に至らないよう奔走してそれに成功し、そうもいかなくなった昨年も投票すらしませんでしたが、)棄権票を投じました(http://www.asahi.com/international/update/0416/002.html(4月16日アクセス)及びhttp://english.chosun.com/w21data/html/news/200304/200304240028.html(2003年4月25日)。
北朝鮮のようなひどい人権状況の国で、かつ小国であっても非難決議が可決されたのは昨年が初めてなのですから、人権状況が北朝鮮よりはマシの大国中国が相手となると、非難決議が可決されるどころではありません。天安門事件の後と同様、今年もまた、非難決議が採決に至ることはありませんでした(http://news.ft.com/servlet/ContentServer?pagename=FT.com/StoryFT/FullStory&c=StoryFT&cid=1079420389222&p=1045050946495。4月16日アクセス)。
 とにかく、中国やロシア、はたまたシリアやリビアといった人権状況に疑問符が付く国々が入っている人権委員会なんてブラックユーモア以外のなにものでもありません。
 しかし、その人権委員会で小遣い銭稼ぎをしている国が沢山いるのです。

(続く)