太田述正コラム#7828(2015.8.4)
<戦中の英領インド(その1)>(2015.11.20公開)
1 始めに
 インド・シリーズの第二弾として、ヤスミン・カーン(Yasmin Khan)の『英領インドの戦争–インドの第二次世界大戦庶民史(The Raj at War: a People’s History of India’s Second World War )』の内容のさわりを、書評群をもとにご紹介し、私のコメントを付そうと思います。
A:http://www.ft.com/intl/cms/s/0/0b60c71e-2a34-11e5-acfb-cbd2e1c81cca.html?siteedition=intl
(7月18日アクセス)
B:http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/books/reviews/the-raj-at-war-by-yasmin-khan–book-review-frequently-illuminating-but-covers-too-much-too-quickly-10397256.html
(7月20日アクセス(以下同じ))
C:http://www.bbc.com/news/world-asia-india-33105898 (コラム#7731で既出)
D:http://www.ifeelindia.com/archives/9851
E:http://www.newstatesman.com/culture/2015/07/indias-second-world-war-history-you-dont-hear-about
(この本と、Raghu Karnad ‘Farthest Field an Indian Story of the Second World War’の書評)
F:http://www.thenational.ae/arts-lifestyle/books/book-review-the-experiences-of-everyday-indians-during-the-second-world-war#full
(同上)
 なお、カーンは、オックスフォード大卒、同大博士(大英帝国史)で、エディンバラ大、ロンドン大等を経て、現在、オックスフォード大歴史学准教授で、受賞作を含め、著書多数、という(インド系とおぼしき)女性です。
http://www.history.ox.ac.uk/faculty/staff/profile/khan.html
2 戦中の英領インド
 (1)概観
 「・・・インドは、連合国のために戦うべく、<史上>最大の志願制軍隊を作った。
 すなわち、200万人を超える人数が集まったのだ。
 もっとも、それは、(著者は言及していないが、)最初のパラドックスなのだ。
 というのは、インドの<当時の>人口は実に3億8,000万人にも達しており、そのことを考えれば、この志願制軍隊の規模はどちらかと言えば小さいからだ。・・・
 大部分のインド人達は、ひどい貧困生活を送っており、彼らの窮状は、戦時の行政的不手際によって募らされていた。
 彼らの国が日本の手に落ちることが必至であるように見えた時、多くのインド人達は、英国による保護・・植民地支配(dominion)の良い面(upside)ということになっていたところのもの・・が幻想であったと結論付けた。
 日本の侵攻をより困難にすべく、「拒否(denial)」政策が東部インドで実行に移された。
 沿岸諸地域の土地は没収され、あらゆる大きさの舟艇群は持ち去られた。
 続いて起こったベンガルにおけるひどい飢饉の諸原因についての議論は続いているが、この「拒否」による諸荒廃が明白な一つの要因だった。・・・
 <独立時のことを含めた、>帝国の終焉の際の我々の凄まじい管理の失敗に対して彼らが殆んど怒りを抱懐していないのは驚くべきことだ。
 我々はそれに全く値しないけれど、余りにしばしば、我々が客人としてあえて戻った時に、懐かしく懐旧され、母なるインドによって、最も母親のような歓迎を受ける。・・・」(B)
⇒このインド人の、旧宗主国人士に対する表見的優しさは、(改めて説明の要はないと思いますが、)人間主義的なものではありえません。
 11世紀以来、北インドから始まって、インド亜大陸はイスラム勢力が支配するところとなり、その最後のムガール帝国による支配を含め、インド亜大陸人は苛烈な統治を受け続け、この状態が英東インド会社統治下でも続いただけに、その後の英国による直轄統治時代を相対的に評価している、ということなのでしょうが、インド亜大陸を熟知している英国人自身が狐につままれたような思いでいるのですから、私も、断定的な結論を下すことは、現時点では控えることにしましょう。
 なお、支那とインド亜大陸の人口の長期的趨勢
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/8280.html
を見ると、阿片戦争/太平天国の乱、が起きる頃までの清の善政ぶりが彷彿としてきます。
 ムガール帝国や英東インド会社によるインド亜大陸統治が、相対的にかなりの悪政であったこともはっきり分かりますね。(太田)
(続く)