太田述正コラム#7884(2015.9.1)
<米国人の黙示録的思考(その2)>(2015.12.17公開)
 (2)米国大衆
 「・・・<我々は、>大部分の米国人達は、リベラル・プロテスタント達(Liberal Protestants)<(注1)>だと思いがちだが、明らかにそうではないのだ。
 (注1)18世紀の啓蒙主義以降に出現したところの、近代的な解釈学(modern hermeneutics)が古文書を読解するのと同じやり方で聖書を読解しようとする人々をリベラル・キリスト教徒(Liberal Christian)と称する、
 リベラル・キリスト教徒の多くはプロテスタントだが、カトリックも一部いるので、リベラル・プロテスタント、と、ここでサットンらは限定的に表現している、と思われる。
https://en.wikipedia.org/wiki/Liberal_Christianity
 マシュー・サットン教授は、福音主義運動が「米国の人口の殆んど30%を占める(そして、カトリック教徒達は約23%、リベラル・プロテスタント達は約14%、となっている)」、と報じる。
 恐らくは、残りである3分の1は、種々の諸宗派(affiliations)に属しているかどの宗派にも属していない者達なのだろう。・・・」(D)
⇒福音主義キリスト教宗派に属する人々、カトリック教徒達、及び、リベラル・プロテスタント達、以外のキリスト教徒達を、ユダヤ教徒やイスラム教徒等と一括りにしているところが興味深いですね。
 リベラル・プロテスタント達が米国のキリスト教徒達に占める割合は小さいけれど、彼らの多くが米国の選良層の多くを占め、福音主義キリスト教宗派に属する人々やカトリック教徒達、更には、それ以外の人々、を事実上支配している、というのが米国の巨視的構図である、と私は見ています。(太田)
 「・・・2年前の<ある>・・・調査は、8,000万人もの米国人達が諸UFOを信じ、また、人口の実に77%が宇宙人が地球を訪れたことがあると思っていることを示した。
 また。2005年の<ある>世論調査では、20%超の米国人達が魔女達の存在を信じ、ほぼ25%が諸恒星と諸惑星の位置が我々の諸人生に影響を及ぼすという命題に同意している。
 2009年の<もう一つの世論調査は、>・・・米国人達の30%近くが、死者との邂逅(contact)があったと主張していることを発見した。・・・」(C)
⇒ざっくり言って成人全体の約3分の1が、このように無知蒙昧で迷信を信じているような米国は、到底、近代国家の名に値しない、と言っていいでしょう。(太田)
 「・・・4年前に実施された・・・世論調査では、米国人達の41%がキリストは2050年までの再臨(Second Coming)<(注2)>すると思っていることが明らかになった。・・・」(C)
 (注2)「復活<(resurrect)>し、天に昇ったとされるイエス・キリストが世界の終わりの日に、キリスト教徒を天へ導き入れるため、また、世界を義をもってさばくために、再び地上に降りてくることである(『ヨハネの黙示録』・・・)・・・キリストは十字架につけられる少し前に、オリーブ山で弟子たちに説教し、その質問に答えて「世の終わり」のしるしがどのようなものであるかを語った(マタイによる福音書24:~25:)。それによると、世の終わりのしるしは、以下のような10の現象とされている。
 偽キリストの出現 戦争や戦争の噂 民族の対立 飢饉 地震 宗教的迫害 背教・躓き 偽預言者・宗教的混乱 道徳の低下・愛の冷ややかさの増大 世界宣教の拡大」
 以上から、再臨を信じるのは、キリスト教徒たることの必要条件だ、と一応言えそうだ。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%8D%E8%87%A8
 「・・・最も最近の諸世論調査によれば、白人たる福音主義者達の58%くらいが、イエスが2050年までには再臨すると信じている。・・・」(F)
 「サットン教授によれば、「2006年の・・・世論調査は、米国のキリスト教徒達の79%がイエスの再臨を信じており、20%はそれが自分達が生きている間に起こることを予期(expect)していた」。
 約50%の米国人達は前年中に聖書の中身の若干を読んだことがあり、そのうち、3分の1超が、それを「未来について学ぶ」ために読んだと主張した。・・・」(D)
⇒以上のくだりが、この本のテーマと関わるところの、現在の米国人達の最も厭わしくかつ恐ろしい、『イエス・キリストの復活と最後の審判』がこれから近未来に起きる、という終末論(eschatology)信奉です。<(注3)>
 (注3)「終末論」の日本語ウィキペディアには、『<リベラル・キリスト教徒による(太田)>新約聖書学などの研究で明確になってきたところでは、<旧約聖書とは違って、新約聖書>では「既に神の支配が始まっている=神の国が実現されつつある=終末が来ている」という認識であり、<イエス自身は終末論を否定していると言ってよいのです。>』という趣旨のことが、直接的な典拠抜きで書かれており、傍証的に、「20世紀のスイスの神学者・カール・バルトも、主著『ロマ書』で「(終末にキリストが地上の裁きのために天国から降りてくるという)再臨が『遅延する』ということについて…その内容から言っても少しも『現れる』はずのないものが、どうして遅延などするだろうか。…再臨が『遅延』しているのではなく、我々の覚醒(めざめ)が遅延しているのである」と言い、「終末は既に神によってもたらされている」という認識である」、付け加えている。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%82%E6%9C%AB%E8%AB%96 
 しかし、バルトの言は、イエスの(将来の)「再臨」と(イエスの「初臨」の時に既に始まっていたところの)「終末」との切り離しと言うよりは、イエスの「再臨」そのものの否定に等しく、傍証として適切であるかどうか疑問だ。
 とまれ、日本語ウィキペディアの記述は魅力的ではあるところ、「Christian eschatology」の英語ウィキペディアは、微妙で難しい話題だけに、網羅的かつ平板な記述にとどまっており、日本語ウィキペディア上での記述の妥当性をただちに検証することはできなかった。
 キリスト教に詳しい人の解説を聞きたいところだ。
(続く)