太田述正コラム#7888(2015.9.3)
<米国人の黙示録的思考(その4)>(2015.12.19公開)
 「・・・サットンのこの本の中心的なパラドックスは、彼が気は付いているけれど、十分解決していないところの、ハルマゲドン(Armageddon)<(注9)>を予期している者が一体どうして政治に時間を無断に費消するか、だ。・・・
 (注9)最終戦争。「ヘブライ語で「メギドの丘」を意味すると考えられている。・・・アブラハム<系>宗教における、世界の終末における最終的な決戦の地を表す言葉」ヨハネの黙示録16章
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%AB%E3%83%9E%E3%82%B2%E3%83%89%E3%83%B3
 なお、ハルマゲドンとの関連で、キリスト教各宗派「によってあげられているヨハネの黙示録のキリスト教終末論の解釈の違い」が下掲に纏められている。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88%E6%95%99%E7%B5%82%E6%9C%AB%E8%AB%96%E3%81%AE%E7%9B%B8%E9%81%95%E7%82%B9
 しかし、もしも世界の運命が定まっているのだとすれば、どうして、<彼らは、>米国政府を乗っ取ろうなどいうことを試みようとするのだろうか。
 <この本>は一渡りの諸解答を示唆している。
 名高い福音主義者たるウィリアム・ブラックストーン(William Blackstone)<(注10)>は、1920年代に、「何が起ころうと、」神の大義を前進させよとの「行進諸命令の下に我々はある」、と記した。
 (注10)1841~1935年。福音主義者にして、ユダヤ人ならぬキリスト教徒であるところのシオニスト。学歴なし。1878年に書いた『イエスはやってきつつある(Jesus is Coming)』は何百万部も売れ、48か国語に翻訳された。
https://en.wikipedia.org/wiki/William_E._Blackstone
 ビリー・グラハム(Billy Graham)<(注11)(コラム#2388、6361、7712)>は、米国における宗教の復興(revival)<(注12)>は黙示を遅らせ、イエスのために生者達(souls)を獲得する時間の余裕を生み出すかもしれないことを匂わせた。
 (注11)1918年~。「現代<米国>の最も著名なキリスト教(南部バプテスト教会)の福音伝道師、牧師、神学校教師、福音派キリスト者。<米国>の伝道師と呼ばれる。」米ホイートン大(人類学)卒、同大修士(神学)。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%8F%E3%83%A0 
 (注12)「国民のほとんどがキリスト教徒と言われてはいるが、全員が信仰を持っているとはいえなかった18世紀の<米国>において、信仰的熱心さと教会成長を伴う信仰運動が勃発・拡散した歴史的事象は、「信仰復興」の意でリバイバルと呼ばれてきた。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%90%E3%82%A4%E3%83%90%E3%83%AB_(%E3%82%AD%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88%E6%95%99)
 サットンによれば、20世紀央の若干の福音主義者達は、米国の例外主義の一種の宗教ヴァージョンだが、自分達が米国を神の最も過酷な諸裁断から遮断することができるのではないかと想像することさえした。・・・」(A)
 「・・・サットンは、どのように福音主義的キリスト教が自由市場経済と結び付けられるに至ったかを説明する。
 この結び付き(association)は、今や米国で非常に確固たるものになっているので、そうでなかったことがありうると想像することが困難になっている、と。
 彼は、金持ちの事業家たる人々からの資金提供への依存がこのことと大いに関係があったこと、及び、この神学がどのようにそれへと導いたか、の双方をはっきりさせる。・・・
 彼によってしばしば使用される短縮された一節は、キリスト教徒達は、キリストが再臨するのを待っている間に「この世をキリストのために占拠する」よう呼びかけられている、というものだ。・・・」(B)
 「・・・<米国の福音主義キリスト教徒達の神学>は、天才的神学だ。
 というのも、それは、非常に多様で、非常に心を騒がせる(troubling)、非常に暗い、現代の諸出来事、を人々に眺めさせて、それらを一つの文脈の中に位置付けることを可能にするからだ。
 「私は、なぜこれが起こりつつあるのか、そして、その結果は大丈夫(OK)であろうこと、を知っている・・・」、と。
 それは、彼らに平安、慰安、及び希望、を与えるのだ。
 しばしば、これらのどれも提供してくれることのないこの世において・・。・・・」(G)
 「・・・イスラエル国家に対する支援は、ユダヤ人の人々のイスラエルへの帰還が携挙(rapture)<(注13)>の必要前提条件であるとする信条から、<彼らにとって>常に中心的であり続けてきた。
 (注13)「プロテスタントにおけるキリスト教終末論<において>、・・・イエス・・・の再臨<の際に>起こると信じられていること・・・。<すなわち、>まず神の<もとにある>すべての聖徒の霊が、復活の体を与えられ、霊と体が結び合わされ、最初のよみがえりを経験し、主と会う。次に地上にあるすべての真の<キリスト教徒>が空中で主と会い、不死の体を与えられ、体のよみがえりを経験する。」(テサロニケの信徒への手紙一 4:16-17、新改訳聖書)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%90%BA%E6%8C%99
 これが、イエスを彼らの救世主(Messiah)であると認めないユダヤ人達全員がイエスの再臨時に身の毛がよだつ最期を迎えるだろうという信条<(注14)>を伴っているという事実は、ユダヤ人の指導者達が前千年期主義者(Premillennialist)<(注15)>との間に<彼らが>戦略的な政治的諸同盟を構築することを妨げてはこなかった。・・・」(B)
 (注14)ディスペンセーショナリズム(Despensationalism)「では、患難時代前にクリスチャンは携挙され、ノン・クリスチャンとユダヤ人が患難にあうとする。患難前携挙説と言われる。」プレテリスト(preterist)「はこれが、ユダヤ人がイエスを拒絶したため、ユダヤ人に下った裁きであり、70年にローマ帝国軍がエルサレムとその神殿を破壊した時すでに起こったとする。これは、マタイ24、マルコ13、ルカ21を根拠とする。」ヒストリシスト(historicist)「は、患難をユダヤ人に限定することにおいて、プレテリストに似ている。ハルマゲドンはすべての人類に対する神の怒りであるが、患難時代はユダヤの民に限定される」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%82%A3%E9%9B%A3%E6%99%82%E4%BB%A3 前掲
 (注15)キリスト教終末論そのものであり、イエスの再臨後、1000年間にわたって平和な黄金時代が続くとする。
https://en.wikipedia.org/wiki/Premillennialism
 
 <彼らは、>米国が、悪魔的諸勢力・・共産主義と世俗主義、家族の崩壊、及び、政府による蚕食(encroachment)・・によって包囲されていると感じ<ている。>・・・
 サットンは、(Pentecostalism)がこの物語に及ぼした影響についても触れており、この世紀における「ペンテコスト派とキリスト教原理主義者の同盟」の歴史と影響を示している。・・・」(H)
⇒キリスト教の基本的教義や基本用語を一般教養として知っておいて損はないわけですが、こうしてキリスト教について復習すればするほど、(キリスト教には教義の細部に違いがある諸宗派が存在しているわけですが、押しなべて申し上げて、)こんな、統一教会やオウム真理教並の馬鹿馬鹿しい教義を持つカルトの「敬虔な」信者が、21世紀の現在、いまだにこの世の中に多数いることに信じられない思いがするとともに、よりにもよって、世界最富、最強の米国の国民の3分の1がかかる「敬虔な」信者であること、その米国を率いているリベラル・キリスト教徒達が、「敬虔な」信者よりも更に危険な、極端から極端へとブレまくる連中であること、そして、日本がそんな米国の属国であり続けていること、に改めて戦慄を覚えさせられます。(太田)
(続く)