太田述正コラム#7960(2015.10.9)
<中共が目指しているもの(その8)>(2016.1.24公開)
 もちろん、東シナ海や南シナ海等での制空権は、中共が空母を保有し、常時係争海域に空母を遊弋させることができるようになれば、少なくとも、地上にしか航空基地を持たない日本に対しては優位に立てる可能性が出てくる。
 しかし、下掲からも推測できるように、現在のところ、空母に関する、中共当局の整備計画は地道でささやかなものだ。↓
 「<中共>が、「空母対空母」で米軍と正面から渡り合おうとしているとの見方は少ない。・・・
 <中共>政府はインド洋に面した友好国を積極的に援助して港を建設している。パキスタン、スリランカ、バングラデシュ、ミャンマー(ビルマ)……。インド亜大陸の南縁に沿ってシーレーンを包み込むように設けられている。・・・
 港湾計画は「“真珠の列”戦略」と呼ばれ、「軍事転用の可能性が高い」(インド外交筋)と見られている。」 」
http://globe.asahi.com/feature/091005/02_1.html
 「・・・<中共>国防大学教授で海軍少将の張召忠・・・は「広大な海域を守り、軍事的に劣勢な東南アジア諸国を威圧するためにも、空母は不可欠だ」と訴えた。
 最長で沿岸から約2000キロある南シナ海の海域を守るには「浮かぶ航空基地」が有用だ。・・・
 国連安全保障理事会の常任理事国で空母を持っていないのは<中共>だけだ。・・・
 エネルギー需要の急増で、96年に原油は輸入が輸出を上回る「純輸入国」に転じた。対外依存度は48%(08年度)。うち8割は、中東やアフリカからインド洋・マラッカ海峡を通って運ばれる。
 「テロリストや海賊にシーレーンを破壊されたら、経済損失は計り知れない。その点、空母は核兵器並みの強い抑止力を持つ」。昨年、海軍司令部の内部会議で空母建造の意義についてこう進言したのは、上海政法学院教授の倪楽雄だ。・・・
 倪は「11隻の空母を保有する米軍に対抗するつもりはない」と強調した。「あくまで海外の経済利益を守るための『防御兵器』だ」・・・」
http://globe.asahi.com/feature/091005/01_2.html
 果して、以上が煙幕に過ぎないのかどうかは、もう少し具体的に見ればはっきりする。↓
 「・・・<中共>が現在保有する空母の「遼寧」は、固定翼機発艦のためのカタパルトがないため、固定翼哨戒機の発艦は「難事」・・・。また、<艦載用の>固定翼哨戒機を開発している形跡もない・・・」
http://news.searchina.net/id/1588867?page=1
 「・・・「遼寧」について、空母の活動を成立させる艦上戦闘機の開発はできたと言っても、その他の「支援機種」はなく、J-15の数も不足している・・・。遼寧は現在のところ、艦上戦闘機パイロットの訓練用<であり>、電子戦攻撃機や早期警戒機は存在しないので、訓練すらできない・・・」
http://news.searchina.net/id/1589626?page=1
 それもそのはずであり、前述したように、対潜哨戒機の能力において、米日にはるかに劣る中共は、当然、SOSUSの能力においても格段に米(日)より劣っているはずであるところ、東シナ海及南シナ海より外の太平洋、及び、インド洋には、(軍事同盟を結んでいない限り、地上局など設けられないことから、)中共は一切SOSUS網を持っていないと考えられるので、米国(や日本)に対して敵対的な形で空母をこれら海域に展開させることなど(、たとえ近傍に米空母がおらず、基本的に航空機による攻撃に晒されない場合においても、)何かことあらば、潜水艦によって撃沈してくれと言っているようなもので論外だからであり、その事情は、東シナ海及び南シナ海においてさえ大同小異だからだ。
 結局、少なくとも日本を米国から「独立」させ、日本と事実上の同盟関係を取り結ぶようなことがない限り、中共が米国に張り合う空母大国になることなど、夢のまた夢に過ぎない、ということだ。
 さて、話が若干前後するが、習近平は、(その時点を調べられなかったけれど、)恐らくは、中共の将来の指導者候補として嘱望されるようになってから、中央軍事委員会弁公庁秘書を務めており、また、2010年10月には、今度は、党中央軍事委員会副主席に就いている。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BF%92%E8%BF%91%E5%B9%B3
 習の先任者たる2人であるところの、トウ以降の、歴代軍事委主席/中共主席/国家主席であった、江沢民にも胡錦濤にも、この種の広義の軍歴はなさそうである
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%9F%E6%B2%A2%E6%B0%91
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%83%A1%E9%8C%A6%E6%BF%A4
ことからすると、習に、長年の懸案であった軍の改革・強化を実行させようとの、習の先輩達の強い思いが感じられる。
 その習は、「2012年11月に中国共産党総書記に就任してすぐ、・・・最初のスピーチで、かつて<中共>の指導者が公式の演説で述べたことのない「強中国夢(qiang zhongguo meng)」という言葉を口にした」(A)のだが、これは、常識的に考えて、経済強国というよりは、経済強国になることは所与として、軍事強国になることを宣言したものと言えるだろう。
 そんな習が、尖閣問題で、対日軍事攻勢を軍にかけさせたのだから、中共軍、更には自衛隊等の実力を熟知していると考えられる彼が、相当細部まで関与し指示する形で、周到に練り上げた計画に従って攻勢をかけさせたもの、と考えるべきだろう。
(続く)