太田述正コラム#0367(2004.6.1)
<アブグレイブ虐待問題をめぐって(その5)>

 (コラム#363の冒頭部分に微修正を加え、コラム#366の注4を注5に変更し、新たな注4を挿入して、ホームページに再掲載してあります。このシリーズ、話題が話題だけに、だんだん気が滅入ってきました。)

 これでは虐待が起こっても当然だ、という気がしてきますね。
 どうしてそんな体たらくなのか?
 このうちの多くが予備役兵であることが原因だ、との指摘があります。
アブグレイブ収容所の管理にあたっていた第320憲兵大隊そのものがペンシルバニア州スクラントン所在の予備役部隊ですし、この部隊を監督する立場にあった第800憲兵旅団長たる准将(女性(前出)。http://home.att.net/~professorboris/SPECTRE/janice_karpinski.htmに彼女のプロファイルが載っている)も予備役であり、イラクに来るまでは企業コンサルタントをしていましたし、上記大隊の大隊長である中佐も予備役、その部下の中隊長である大尉も予備役でセールスマンでした。
 上記大隊の一般兵士の多くは西バージニア州の田舎の最も貧しい地方の出身であり、医療費無料という魅力に誘われ、あるいは大学の学資を得るために予備役として軍隊に入った人々が少なくありませんでした。
 これら予備役の人々は、一ヶ月に一回の週末と夏の二週間だけしか訓練を受けておらず、20年から30年、実際の軍役に就いたことのない者ばかりでした。
 つまりシロウトばかりで、規律ももともと弛緩していた、というわけです。
(以上、http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,2763,1226638,00.html(5月28日アクセス)による。)

(6)米国の監獄の状況
 米国では現在、実に国民140人に一人が監獄(ないし拘置所。以下同じ)に入っており(典拠失念)、どこの監獄も収容者で溢れかえっており、管理の目が行き届かず、規律の乱れている監獄が少なくありません。アブグレイブで見られたような虐待、あるいはそれ以上の拷問、リンチが横行している監獄は決してめずらしくないのです。
 その様子は、翻訳するのもおぞましいので、そのままご紹介しますが、’In recent years, U.S. prison inmates have been beaten with fists and batons, stomped on, kicked, shot, stunned with electronic devices, doused with chemical sprays, choked, and slammed face first onto concrete floors by the officers whose job it is to guard them. Inmates have ended up with broken jaws, smashed ribs, perforated eardrums, missing teeth, burn scars not to mention psychological scars and emotional pain. Some have died. Both men and women prisoners but especially women face staff rape and sexual abuse. Correctional officers will bribe, coerce, or violently force inmates into granting sexual favors, including oral sex or intercourse. Prison staff have laughed at and ignored the pleas of male prisoners seeking protection from rape by other inmates.’という次第です。
 アブグレイブ虐待事件で告発された兵士のうちの二人の予備役兵は、本職がそもそも看守(一人は、過去収容者虐待の監督責任を問われた経歴がある。)であり、本職当時に行っていたことをそのまま(というよりも、むしろ多少マシな形で)イラクのアブグレイブに持ち込んだだけなのではないかと噂されています。
(以上、http://www.hrw.org/english/docs/2004/05/14/usdom8583.htm(6月1日アクセス)による。)
ところで、アブグレイブでは虐待を受けた収容者に賠償をする方針を米国は打ち出しましたが、これは実は米国内では認められていないことなのです。
クリントン政権下で1996年、虐待が多すぎることに伴う濫訴を抑制するため、The Prison Litigation Reform Actができ、監獄の収容者または収容者であった者が、「物理的傷害を負ったと証明できなければ、収容中、心理的(mental)精神的(emotional)な傷害を受けたことを理由に」賠償請求を行うことが禁じられたからです。
 (以上、http://www.nytimes.com/2004/05/31/opinion/31HERB.html(6月1日)による。)
国連人権委員会で、先般、中国の代表が、中国の人権状況を非難する米国に対して、「米国は人種差別や警察による暴力、囚人虐待で世界にその名を馳せて」いる、少しは自らを省みてものを言え、と揶揄しました(http://fpj.peopledaily.com.cn/2004/03/26/jp20040326_37966.html。6月1日アクセス)が、「囚人虐待」はアブグレイブと米国内の監獄の両方をにらんだ発言であると考えられ、米国が一本とられた形です。

以上で、「集団文化」の観点からのアプローチを終え、「リーダーシップ」の観点からのアプローチに移りましょう。

(続く)

主犯(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A16832-2004Jun4.html。6月5日アクセス)