太田述正コラム#0371(2004.6.5)
<イラク終戦処理の「完了」>

 (野暮用がめっぽう忙しく、相当バテ気味です。そこで、今回はかなり肩の力を抜いて書かせていただきました。ご理解のほどを。)

 私が常にイラク情勢について楽観論を唱えてきたことはご存じの方が多いと思います。
 先月、マイヤーズ米統合参謀本部議長が米議会証言で、イラクの状況は順調に進展しており何の懸念も持っていない旨発言して、議員達、特に民主党の議員達の失笑をかったことがあります。(この記事をどうしても再発見できません。私のインターネット検索能力が問われています。)
 私は、マイヤーズが米国の制服組のトップとして、米軍の士気を維持しなければならない立場から、心にもない発言をしたとはその折も全く考えませんでした。彼がホンネで語っていると受け止め、さもあらんと大いに頷いたものです。
 その後、6月1日に、どちらも米国が任命したイラク統治評議会メンバーであるところの、シーア派のアラウィ(Iyad Allawi)首相とスンニ派のヤワル(Ghazi Mashal Ajil al-Yawer)大統領を中核とするイラク暫定政府(Iraq interim government)が発足し(http://www.msnbc.msn.com/id/5084420/。6月6日アクセス)(注1)、米国はその直後、ファルージャで叛乱を起こしたスンニ派ゲリラとナジャフ等を占拠したサドル派民兵に対する勝利宣言を高らかに(ただし非公式に)発しました(http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/3771525.stm。6月3日アクセス)。

 (注1)国連の「権威」を借りつつ、その実、米国の思惑通りに事が運んだということだ。

 この米国政府による勝利宣言を追いかける形で、イラクのシーア派穏健派の総帥シスタニ師が、発足したイラク暫定政府に対し、祝福を与えましたhttp://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A11774-2004Jun3?language=printer。6月5日アクセス)。
 シーア派の穏健派勢力が間に入ってまとめた米軍との休戦協定をなかなかサドル派民兵側が遵守せず、楽観論の私もいささか心配をしていたところ、その民兵も、ついにナジャフ及びクファから本格的な撤退を開始しました(http://www.cnn.com/2004/WORLD/meast/06/05/iraq.main/index.html。6月6日アクセス)。
ファルージャでも、またナジャフ等においても、米軍は柔軟な対応によって事態を見事に収束させたわけです。このところのブッシュ政権のイラクでの采配は、イラク占領後、あれだけ失敗を繰り返したのと同じ政権かと思うくらい冴えわたっています。改めて、失敗から素早く学ぶ米国のプラグマティズムの健在ぶりを見せつけられた感があります。
 予定通り今月末にイラク暫定政府が主権を行使するに至れば、ゲリラ活動は米軍等による占領の永続化という目標とイラク国民の「支持」とを失い、一挙に沈静化に向かうことでしょう。
 イラク戦争後にイラクに入ってきた約1,000名のアルカーイダ系テロリスト(注2)の方はどうなるのでしょうか。
彼らは(同じスンニ派の)ゲリラと提携している(Strategic Survey)ことから、このゲリラ活動の沈静化によって大きな成約を受けることとなり、時間はかかるでしょうが、次第にこちらの方も沈静化していくと私は考えています。

(注2)アフガニスタンのキャンプで訓練を受けたテロリストは約20,000名、内幹部30名中半分を含む約2,000名が殺害されたかつかまっており、残りは18,000名。ただし、その後も新メンバーが相当加わっている(Strategic Survey 2003/4, IISS PP8)。

 残された問題は、警察・司法機能の弱体化に伴って現出したアリババ的世界(コラム#87)の解消です。
 現在イラクは泥棒、強盗、誘拐の白昼堂々たる横行や汚職の蔓延に苦しんでいます(http://www.csmonitor.com/2004/0519/p01s03-woiq.html(5月19日アクセス)及びhttp://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-school1jun01,1,1458336,print.story?coll=la-headlines-world(6月2日アクセス))。
 しかし、これはイラク戦争や米軍等による占領が引き起こした病理現象でも何でもなく、アラブ世界共通の生理現象であって(コラム#87)、その抑制のノウハウはイラクの旧政府関係者が(アラブの他の国の政府関係者同様)十分心得ていることから、イラク自前の警察・司法機能の強化につれて、これもまた急速に是正されて行くことでしょう。
 前にも述べたことがあると思いますが、イラクは大石油産出国で石油収入がある上、米国を始めとする世界各国から巨額の援助をこれまで与えられており、それが当分の間続きます。ですから、これほど恵まれている発展途上国はほかにはありません。
 その上、イラクには自由・民主主義が定着する基盤があり、しかもこのたび、自由・民主主義化の着実な第一歩が踏み出されました。その上、米英は今後ともイラクの後見役を喜んで続けていくことでしょう。
 そんなイラクの将来は洋々たるものがあります。
 私は日本が、米英と提携しつつ、今後とも朝野を挙げてイラクの再建と発展に協力していくことを心から願っています。