太田述正コラム#0389(2004.6.23)
<終焉に向かうアルカーイダ(その4)>

 (前回のコラム#388をご覧になりたい方は、ホームページ(http://www.ohtan.net)の時事コラム欄をご覧ください。ただし、その目次が6月のコラムの目次の頁の所定の位置にではなく、誤って下の方に掲載されているのでご注意。)

 <補足:全般的にhttp://news.bbc.co.uk/1/hi/world/middle_east/1603178.stm(6月23日アクセス)を踏まえた。ここは飛ばして読んでもよい。>

 ア 1967年の第三次パレスティナ(中東)戦争におけるアラブ側の目も当てられない大敗北のショックが、アラブ・イスラム世界におけるアラブナショナリズムへの幻滅とイスラム原理主義の普及のきっかけになった。(なお、コラム#87参照。)
 イ Jamaat-e-Islami の創設者であるパキスタンのマウドゥディ(Sayyid Abul A’la Maududi。1903??1979年。http://www.jamaat.org/overview/founder.html(6月23日アクセス))も、同世代人であるエジプトのアルバンナ(コラム#387)と同趣旨の主張を行ったが、彼もアルカーイダやアフガニスタンにおけるタリバンの形成に大きな影響を与えている。
 ウ ホメイニ(Ayatollah Khomeini。1901または1902??1989年。http://www.rotten.com/library/bio/religion/ayatollah-khomeni/(6月23日アクセス))らシーア派の指導者達も、スンニ派のクトゥブのイスラム的革命理論によって啓発され、1979年にイランにおいてイスラム革命が生起する。この革命も当然のことながら、アルカーイダの形成に影響を及ぼしている。
 エ PLOの世俗主義にあきたらなかったパレスティナ人のアブドラ・アッザーム(Abdullah Azzam。1941??1988年。)は、留学先のエジプトでクトゥブの家族を通じてクトゥブの影響を受けモスレム同胞会に入会する。その彼が後にサウディの大学で教えていた時の学生がオサマ・ビンラディンだった。アッザームは、スペイン等、かつてイスラム世界に属していた地域をことごとく回復しなければならないと説いた。ソ連のアフガニスタン侵攻に怒ったアッザームは、1984年、ビンラディンとともにムジャへディンとしてソ連軍と戦うためにパキスタンのペシャワールに赴く。
ビンラディンはアッザームが暗殺された後、引き続きアフガニスタンの解放・イスラム化に尽力するとともに、全世界を向こうに回したジハードに着手することになる。
(以上、http://www.pbs.org/wgbh/pages/frontline/shows/knew/etc/cron.html及びhttp://www.nmhschool.org/tthornton/mehistorydatabase/abdullah_azzam.htm(6月23日アクセス)による。)
 オ 1991年から始まり、10万人もの犠牲者を出し、ようやく沈静化に向かっているアルジェリアでのイスラム原理主義者の反政府テロも、クトゥブのイスラム的革命理論の影響を抜きに論じることはできない(http://www.worldandi.com/specialreport/2003/February/Sa22876.htm。6月23日アクセス)。

5 必ず終焉を迎えるアルカーイダ

 以上見てきたように、サイード・クトゥブも、従ってその申し子であるアルカーイダも、都市化と産業化、そしてその世界への普及(グローバライゼーション)という現代が生んだ鬼子なのです。
 その証拠に、アルカーイダは、現代が生み出した最先端の衛星テレビを通じてマーケティング活動を行い、インターネットや携帯電話を駆使して連絡を取り合い、ジェット旅客機やSUVを用いて自爆テロを敢行します。
 アルカーイダが現代の鬼子であることを端的に示す事実があります。
 キリスト教原理主義と同じく現代という土壌から生まれたハリウッドの映画産業が幻想を紡ぎ出して世界の人々の「心」に働きかけるのと同様、キリスト教原理主義を起源とするイスラム原理主義も幻想を紡ぎ出してイスラム世界の人々の「心」に働きかけるわけですが、1981年のJama’at al-Jihadによるサダト暗殺事件といい、その20年後の2001年のアルカーイダによる9.11同時多発テロといい、ハリウッド映画に勝るとも劣らない、劇的なセッティングの中で視覚効果を最大限計算して敢行された一大スペクタクルであったことを思い出してください。
 そのアルカーイダは遠からず、必ず終焉を迎えることになるでしょう。なぜか?
 アルカーイダは、メンバーやシンパの精神をコーランとハディスという中世の8世紀の世界に退行させる一方で、既成の現代技術をつまみ食いしてイスラム世界の内外の敵とジハードを戦うのですが、こんなアルカーイダでは、現代的精神を身につけた市民からなり、従って新しい技術をどんどん生み出すことができる(米国等の)現代国家に勝てるわけがないだけでなく、(米国等の)現代国家によって支援された(jahiliyaへと堕落した)イスラム国家に勝つことすらおぼつかない、というのが第一の理由です。
 第二の理由は、アルカーイダがつまみ食いしている、世界を遍く覆い尽くした現代技術は、早晩それを生み出した現代的精神もまた世界に普及させるからです。現代技術の粋であるインターネットが可能にしたリアルタイムでのグローバルな思想と情報の交流を持ち出すまでもなく、このことはご理解いただけることでしょう。申し上げるまでもなく、現代的精神が普及した場所にアルカーイダは棲息することはできません。

(続く)