太田述正コラム#8553(2016.8.17)
<欧米史の転換点としての17世紀?(その1)>(2016.12.1公開)
1 始めに
 AC・グレイリング(Grayling)の『天才の時代–17世紀と近代精神の誕生(The Age of Genius: The Seventeenth Century and the Birth of the Modern Mind)』のさわりを書評類をもとにご紹介し、私のコメントを付します。
 書評群の多くが、それぞれ全く異なった本を取り上げているのではないかと思わせるほど論議が収斂していないという点で、また、著者の史観がいかにも時代遅れであるにもかかわらず、英国で数多くの新聞雑誌の電子版に取り上げられた、という点でも、これは変わった本です。
A:http://www.ft.com/intl/cms/s/0/f716cf96-e5e1-11e5-a09b-1f8b0d268c39.html
(3月12日アクセス。書評(以下同じ))
B:http://www.theguardian.com/books/2016/apr/10/the-age-of-genius-ac-grayling-review-the-seventeenth-century-and-the-birth-of-the-modern-mind
(4月10日アクセス)
C:https://www.timeshighereducation.com/books/review-the-age-of-genius-a-c-grayling-bloomsbury
(4月18日アクセス)
D:http://www.heraldscotland.com/arts_ents/14323159.Review__The_Age_of_Genius__by_AC_Grayling/?ref=rss
E:http://www.irishtimes.com/culture/books/the-age-of-genius-by-ac-grayling-review-bloody-strife-and-a-heady-rush-into-reason-1.2578525
F:http://www.spectator.co.uk/2016/03/a-c-grayling-reduces-history-to-a-game-of-quidditch/
G:http://www.telegraph.co.uk/education/2016/03/14/ac-grayling-the-17th-century-and-the-greatest-epoch-in-human-his/
(著者による概説)
H:http://www.scotsman.com/lifestyle/culture/books/book-review-the-age-of-genius-by-ac-grayling-1-4049322
(書評)
 なお、グレイリング(Anthony Clifford “A. C.” Grayling。1949年~)は、北ローデシア(現ザンビア)に生まれ、サセックス大卒、同大修士、オックスフォード大博士、ロンドン大バークベック校哲学教授等を経て、現在、ロンドンの、大学院を持たないNew College of the Humanitiesの初代学長(master)、という人物です。
https://en.wikipedia.org/wiki/A._C._Grayling
 (実は、ここまで、既に、今年の4月時点で書いてあったのですが、啓蒙主義については、これまで何度も取り上げてきたこともあり、エンジンがかからずにその後放置していて、このたび、ようやく再挑戦する運びになった次第です。)
2 欧米史の転換点としての17世紀?
 (1)序
 「グレイリングは、『啓蒙主義–どうしてまだ重要なのか(The Enlightenment: And Why It Still Matters)』<(コラム#6445以下)>を2013年に出版したところの、歴史学者にして政治学者たるアンソニー・パグデン(Anthony Pagden)<(コラム#2454、6445)>と<その主張において>同盟関係にある。
 二人とも、啓蒙主義には、相互に関係のない、かつ、対照的な諸要素、があった、神学が揺るぐことなく生き延びた、そして、「近代の誕生」をここに見るのは誤解を生む、という諸異議を軽視し、啓蒙主義は偉大なるプロジェクトであった、という観念を擁護している<、という意味で・・>。」(A)
 (2)概説
 「昔々、と言ってもそれほど前のことではないが、人々は、啓蒙主義<の時代>と呼ばれた素晴らしい時代・・野蛮と迷信から文明化された合理へという人類の進歩の物語における、とりわけ輝かしい(triumphant)時期・・の存在を信じていた。
 今日では、この語り口は、ホィッグ的な楽観主義者達だけが信じているところの、世俗神話である、として退けることがより流行っている。
 しかし、若干の人々は、この古き正統派の松明を、いまだに掲げており、その中でも最も精力的にそうしているのがAC・グレイリングなのだ。
 彼は、何冊かの本の中でこの信条の擁護者としての奉仕<活動を>してきた。
 <そして、>最近時点においては、17世紀に焦点を当てている。
 この世紀は、人類史において、根本的な旋回点を画した、と彼は主張している。
 この世紀の初頭においては、最も良く教育され最も知的な人々の考え方の諸流儀は、「彼ら自身の骨董的で中世的な諸先輩達のそれらと、基本的には、依然として変わってはいなかった(continuous)」、と。
 ところが、この世紀の末においては、彼らは、はっきり分かるほど近代的になった、と。
 こう記したくだりに至るまでにおいて、「宗教的正統性の諸要求への、あやしくもきれいであるところの(suspiciously neat)、「考え方」の服従(obeisance)」が、「宇宙の諸秘密への神秘的ないしは魔術的諸近道<を発見すること>への仰々しい諸期待」を経て、「より正確な数学的かつ経験論的探究の諸手法の勝利」へ、という直線的進歩があった、とも<グレイリングは記している>。」(B)
(続く)