太田述正コラム#8683(2016.10.21)
<プーチンのロシア(その1)>(2017.2.4公開)
1 始めに
 チャールズ・クローヴァー(Charles Clover)の『黒い風・白い雪–ロシアにおける新ナショナリズムの興隆(Black Wind, White Snow: The Rise of Russia’s New Nationalism)』のさわりを書評群をもとにご紹介し、私のコメントを付します。
A:http://www.ft.com/intl/cms/s/0/abb8cd48-fa58-11e5-8f41-df5bda8beb40.html#axzz46cQQ6GqU
(4月23日アクセス。書評(以下同じ))
B:http://blogs.lse.ac.uk/lsereviewofbooks/2016/06/21/book-review-black-wind-white-snow-the-rise-of-russias-new-nationalism-by-charles-clover/
(10月15日アクセス)
C:http://www.hurriyetdailynews.com/black-wind-white-snow-the-rise-of-russias-new-nationalism-by-charles-clover.aspx?pageID=238&nID=103194&NewsCatID=474
D:http://www.economist.com/news/books-and-arts/21697211-fine-analysis-what-motivates-vladimir-putins-regime-crowd
E:http://www.khodorkovsky.com/review-black-wind-white-snow-the-rise-of-russias-new-nationalism-by-charles-clover/
F:https://www.foreignaffairs.com/reviews/capsule-review/2016-08-11/black-wind-white-snow-rise-russias-new-nationalism-gumilev 
(この本とMark Bassin の The Gumilev Mystique: Biopolitics, Eurasianism, and the Construction of Community in Modern Russia の2冊を対象とした書評)
G:https://irrussianality.wordpress.com/2016/05/10/book-review-black-wind-white-snow/
 (この本だけの書評)
 クローヴァーについては、2008年から2013年まで、FTのモスクワ支局長を務めた(A)、ということくらいしか分かりませんでした。
 (1)プーチン–序に代えて
 「2013年に、プーチンは、・・・講演の中で、ロシアを「新しい世紀において、人々[と]歴史的なユーラシア(Eurasia)のアイデンティティを保全(preserve)するためのプロジェクトであるところの、…文明的国家(civilisational state )」と呼んだ。
 ユーラシアを再生し統合することは、「かつてのソ連が全球的発展の独立した中心になる機会である」、と彼は付け加えた。
 プーチンは、「ユーラシア」という言葉を前にも使ったことがあるが、この時の言及は、新しいアプローチを指し示しているように見えた。
 2014年には、彼は、本気であることを、クリミアを併合するとともに、「休暇中の」ロシア軍諸部隊を東部ウクライナに送り込むことで示した。」(A)
 「ロシア政治の熱心な観察者達は、若干の変わった言辞(terminology)が・・・プーチンの大統領としての第3期の間に公的修辞の中に紛れ込んでいることに気付いたかもしれない。
 その新しい語彙(lexicon)は、この体制のより積極的な(assertive)外交政策と何らかの形で関連しているように見える。
 著者は、彼の魅惑的な新著・・の最初で、いくつかの示唆的な諸事例を提供している。 これらには、プーチンによる、偉大なる諸国(nations)の運命を決定するところの、「情熱性(passionarnost=passionarity)」・・「内なるエネルギー」・・についてのほのめかしが含まれる。
 それは、ロシアを、国民国家というよりは「文明的国家」と描写し、「欧米の」というよりは「大西洋主義(Atlanticism)」という言葉を使用し、プーチンのかつてのソ連を構成した諸国家からなる「ユーラシア同盟」を創造しようという大志、の傾向だ・・・。
 著者は、この新しい単語は「ユーラシア主義」の増大しつつある影響の諸徴表である、と主張する。
 それは、スキタイ人達(Scythians)<(コラム#462、4038、6937、7304、7844、8649)>、フン人達(Huns)、トルコ人達(Turks)、モンゴル人達(Mongols)、ロシア帝国、そして、最も最近では、ソ連、へと次々に体現したところの原初的なユーラシア文明なる観念に立脚した、ロシアの超(supra-)ナショナリズムであって、米国に中心を置く、「大西洋」世界との間で恒久的な地政学的紛争を余儀なくされている(be locked in)、のだ。
 ユーラシア主義者の諸観念と彼らのロシアの選良への影響を解きほぐすことで、著者によれば、ロシア政府の最近のふるまいの、さもなくば不可思議な諸側面、を説明することに資しうるというのだ。
 例えば、欧米による諸制裁やルーブルの価値の大幅な減価が必至であるにもかかわらず、2014年に東部ウクライナに足がかりを得ることが至上命題であるように見えたというのは、いかなる戦略的計算によるのか、を。」(B)
(続く)