太田述正コラム#8763(2016.11.30)
<米リベラル知識人の内省一(その1)>(2017.3.16公開)
1 始めに
 本日のディスカッションで予告した表記の第一弾シリーズです。
 俎上に載せるのは、本コラムで何度か登場したところの、イアン・ブルマ(Ian Buruma)<(コラム#338、2370、3496、3759、4181、6688)>の、「英米秩序の終焉(The End of the Anglo-American Order)」と題する長文コラム
http://www.nytimes.com/2016/11/29/magazine/the-end-of-the-anglo-american-order.html?hp&action=click&pgtype=Homepage&clickSource=story-heading&module=second-column-region&region=top-news&WT.nav=top-news&_r=0
です。
 なお、ブルマ(1951年~)は、「オランダの著作家・ジャーナリスト。オランダ人の父とイギリス人の母の間に、オランダの首都ハーグで生まれる。ライデン大学で<支那>文学を学ぶ。在学中に、アムステルダム公演の寺山修司の「天井桟敷」に出会って衝撃を受け、日本に留学し、1975年~1977年に日本大学芸術学部で日本映画を学ぶ。その後、東京、香港、ロンドンなどでジャーナリストとして活躍する。2003年より<米>バード大学教授となり、現在はニューヨーク在住」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%9E
という人物です。
 一点、重要な点を追加しておきます。
 ブルマが、(私が英留時に講義を聴いたことがある)軍事史家のマイケル・ハワード(Michael Howard)<(コラム#4003、6097、6450)>と対話する箇所が、ブルマのこのコラムの中に出てくるところ、(私自身も知らなかったのですが、)ブルマもハワードも、母方の祖父母が欧州からイギリスに移住してきたユダヤであって、従って、母親がユダヤ人であった両名とも(母系で決まるところの)ユダヤ人であることです。
 ですから、上掲の日本語ウィキペディアのように、ブルマの母親を単に「イギリス人」とされてしまうのは困るんですよね。
2 米リベラル知識人の内省一
 「何十年にもわたって、米国と英国の民主主義と自由のヴィジョンが戦後世界を定義してきた。
 <それが、>ドナルド・トランプ(Donald Trump)とナイジェル・ファラージ(Nigel Farage)<(注1)>の時代にはどうなるのだろうか。・・・
 (注1)1964年~。英独立党(UKIP)前党首、欧州議会議員(4期)。パブリックスクール卒なので要は高卒。金融機関を転々とする。フランスからイギリスに亡命してきたユグノーの子孫で妻はドイツ人。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%82%A4%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%82%B8
https://en.wikipedia.org/wiki/Nigel_Farage
 トランプとファラージは、すぐに自分達が何を共有しているかを認識した。
 たまたま、ブレグジット(Brexit)投票の翌日にスコットランドのゴルフリゾートの再オープン式に臨んでいたトランプは、圧倒的にブレグジットに反対票を投じたスコットランド人達に対して、それは「素晴らしいことだ」、と言った。
 英国人達は、「自分達の国を取り戻したのだ」、と。
 「主権」、「コントロール」、「偉大さ」、といった諸文句がトランプとファラージ双方の諸運動において、群衆達を燃え上がらせた。・・・
 この二人は、国際的ないし超国家的な諸機構が嫌いなこと以外にも共通点があった。・・・
 <それは、>暗黙裡に、「本物(real)」、「普通(ordinary)」、「ちゃんとしている(decent)」ところの我々自身の、そのいわばど真ん中にいる異邦人達であるエリート達<、が嫌いなこと>だ。・・・
 トランプは、イスラム教徒達、移民達、難民達、及び、メキシコ人達、に対して不快な諸言及を行った。
 しかし、最も深い敵意が向けられたのは、少数人種達を甘やかし、「本物の人々」を軽蔑している、というふれこみの、米国内のエリートたる裏切り者達に対してだった。・・・
 真面目な働く人々の富を盗んでいる「全球的権力構造」、への扇動的言及は、ジョージ・ソロス(George Soros)<(注2)(コラム#2854、6557)>、ジャネット・イエレン(Janet Yellen)<(注3)>、及び、ロイド・ブランクファイン(Lloyd Blankfein)<(注4)>の写真群によって図示(illustrate)された。
 (注2)1930年~。「ハンガリー・・・生まれの・・・ユダヤ系<米国>人の投資家・投機家、慈善家。・・・[英LSE]で・・・博士号(Ph.D.)を得た哲学者<でもある。>・・・ヘッジファンドがまだその呼称さえ確立していなかった黎明期の1969年にファンドを立ち上げ投資家としてのキャリアを開始<(注4)>し、世界有数の大金持ちになった。>」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%BB%E3%82%BD%E3%83%AD%E3%82%B9
 (注3)1946年~。「<米>国の経済学者(女性)。第15代連邦準備制度理事会(FRB)議長(在任:2014年 – )・・・現副議長のスタンレー・フィッシャーと同じく、ユダヤ人である。」ブラウン大卒、エール大博士(経済学)、ハーヴァード、LSE、カリフォルニア大バークレー校での教職や連邦準備制度関係役職等を経て現職。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%82%A8%E3%83%AC%E3%83%B3
 (注4)1954年~。米国の専門実業家、弁護士。ゴールドマン・サックスCEO。ハーヴァード大卒、同ロースクール卒。[ユダヤ系の家庭に生まれる。11億ドルの資産を保有。]
https://kotobank.jp/word/%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%89+%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%B3-1685914
https://en.wikipedia.org/wiki/Lloyd_Blankfein ([]内)
 恐らく、トランプ支持者の中には、この3人が全てユダヤ系であることに気付いてはいない者達もいることだろう。
 しかし、気付いている者達は、その意味している諸々のことを見過ごすはずがなかった。・・・
⇒トランプの義理の息子ののジャレッド・クシュナーがユダヤ人であるのみならず、彼と結婚した長女のイヴァンカが結婚にあたって長老派キリスト教徒からユダヤ教徒に改宗している
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%82%AB%E3%83%BB%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%97
くらいであり、トランプが選挙運動中に反ユダヤ主義をにおわせた、とのブルマの指摘にはにわかに首肯し難いものがあります。
 反ユダヤ主義に鋭敏過ぎるのは、ユダヤ人の哀しい性なのでしょうね。(太田)
(続く)