太田述正コラム#8895(2017.2.4)
<全球化の誇張と私の所感>(2017.5.21公開)
1 始めに
 本日のディスカッションで予告した、表記に係るコラム
https://www.washingtonpost.com/posteverything/wp/2017/02/03/globaloney/?utm_term=.8578b2498741
のさわりをご紹介し、私のコメントならぬ所感を付します。
 筆者2人は、それぞれ、ニューヨーク大ビジネススクールの教育・マネージメント全球化センター(Center for the Globalization of Education and Management)の所長と副所長であるところの、Pankaj GhemawatとSteven A. Altmanです。
2 全球化の誇張
 「ドナルド・トランプ(Donald Trump)の当選は、米国と他の欧米先進諸経済に蔓延する反全球化の怒りの波によって推進されたものだ。
 トランプはこの怒りを彼の修辞の中に木霊させている。
 その就任演説において、彼は、米国が、「自身の富、力、そして自信(confidence)が雲散霧消する一方で、他の諸国を富ませた」と嘆いた。・・・
 <しかし、>人々が信じがちな程度に比べて、世界全体は、はるかに少ししか全球化していないのだ。・・・
 諸財、諸サービス、人々、及び、情報の国境間の諸流通(flows)の程度を国内にとどまってる程度との比較に基づくと、米国は、2016年の「DHL全球的連接指標(DHL Global Connectedness Index)」によれば、140か国中100番目<に過ぎないの>だ。・・・
 米国は、2015年に、そのGDPの15%に相当する財サービスを輸入した。
 これは、米国を、殆ど全ての他の諸国よりも輸入に少なく依存させている。
 スーダン、アルゼンチン、ナイジェリア、ブラジル、そして、イラン、のわずか5か国しか、<米国よりも>経済の規模に比して輸入の少ない諸国はないのだ。・・・
 移民について言えば、一世の移民達は米国の人口の約14%を占めている。
 この計量法では、米国は、世界で27番目であって、平均こそ超えてはいるけれど、1番に比べれば物の数ではないのだ。・・・
 ・・・<結局のところ、>テクノロジーこそが、移民や国際競争よりも遥かに沢山の諸職を奪ったのだ。・・・
 <米国の、カナダ、メキシコ、及び、英国との流通の大きさを思い出して欲しいが、>実際のところ、国際的な諸流通は、今なお、諸国の間の、距離、及び、文化的、政治的、そして経済的、な諸相違、によって強く制約されている、ということなのだ。・・・
 人々は、世界を小さくするテクノロジーの力を信じ込んでいる。
 しかし、遡ること、何と大昔の1850年代以来、その時のテクノロジーが距離を無意味にした、と人々は言い続けてきている。・・・
 <そうは言っても、>前回、全球化が後退した時に何が起こったかも思い出すべきだろう。
 米国が1930年にスムート・ホーリー法(ホーリー・スムート法=Smoot-Hawley Tariff Act)<(コラム#598、3122、3326、3677、4586、4588、8267、8388、8400、8404)>を導入した後、<諸外国から>それに対する諸報復があり、全球的貿易は3分の1の水準にまで落ち込んでしまった。
 <そして、>この全球化の第一波の崩壊は、大恐慌が起こった主要原因になったのだ。・・・
 <これに加えて、現在の>国際貿易と国際投資の脳密度(intensities)は、前回の大後退の前に比べて3~4倍にもなっている<ことを銘記すべきだろう>。・・・」
3 所感
 1930年代に言及した上掲のコラムを読んだことが刺激となって、トランプの総合対外戦略について再考した結果を以下に記します。
 現在進行形の「米帝国主義の生誕(続)」シリーズの文脈を念頭に置きつつ、マティス米国防長官の意外な「宥和的」訪日、や、本日のディスカッション(コラム#8894)で紹介した関係記事群、等、を勘案すると、トランプは、キリスト教徒たる白人国家として米国を維持・発展させることを期し、有色人種の移民を強く規制するとともに、大恐慌、ニューディール、そして第二次世界大戦へ、という戦間期の米国の歴史の「反省」の上に立ち、各個撃破の二国間通商交渉でもって、報復されること、ひいては世界大恐慌の生起を回避しながら保護主義政策を推進し、更に、ニューディールばりの米国内インフラ投資を行って景気浮揚を図って、自らの国内支持層を裨益させ、後顧の憂いをなくした上で、熱戦たる第二次世界大戦、ならぬ、冷戦を基調とする第三次世界大戦、を戦い、ドイツ、日本、及び雑魚のイタリア、ならぬ、支那(中共)、EU、及び雑魚の北朝鮮と(スンニ、シーア双方の)イスラム原理主義、の大幅弱体化を図ることで、米国の世界覇権国化、ならぬ、世界覇権国の地位の延命、を図る、といった感じの総合対外戦略を推進しようとしている、と見ることができそうに思えてきたのです。
 米国が、前回、総合対外戦略の手先として使ったのは、英、ロシア(ソ連)、及び、支那(蒋介石政権)、であったのに対し、今回、手先として使うのは、英、ロシアは同じで、支那が日本にさし変わっただけ、と見るわけです。
 仮にこの見方が正しいとすると、トランプ政権が、日本に法制面を含む、防衛努力の大幅強化を求めてくるのは必至であって、(私や)中共当局の思惑通りの展開にあいなるのですが・・。