太田述正コラム#8965(2017.3.11)
<再び英国のインド亜大陸統治について(その1)>(2017.6.25公開)
1 始めに
 シャシ・タルール(Shashi Tharoor)の『不名誉な帝国(Inglorious Empire)』のさわりを書評群をもとにご紹介し、私のコメントを付します。
A:https://www.theguardian.com/world/2017/mar/08/india-britain-empire-railways-myths-gifts
(3月9日アクセス)
B:http://www.irishtimes.com/culture/books/inglorious-empire-what-the-british-did-to-india-1.2981299
(3月10日アクセス)
C:http://www.independent.co.uk/news/uk/politics/shashi-tharoor-britain-india-suffer-historical-amnesia-over-atrocities-of-their-former-empire-says-a7612086.html
 タルール(1956年~)は、以下のような人物です。
 「ロンドンで生まれ・・・主にインドで教育を受け、ムンバイのキャンピオン・スクール、高校はコルカタの聖ザビエル学校、大学はデリーのセント・スティーヴン大学の歴史学科を卒業し・・・その後国連へ入局し、・・・タフツ大学のフレッチャー・・・スクールにおいて博士号と二つの修士号を取得した。・・・2002年1月からは広報担当の国連事務次長・・・2006年7月24日に行われた国際連合安全保障理事会の各理事国による予備投票においては・・・潘基文に次ぐ票を獲得し・・・たが、最終的に国連事務総長は潘基文に決まった。・・・[<今回の本を含め>フィクションとノンフィクションの15のベストセラー作品群の著者であり、その全てがインドの歴史、文化、社会、を扱っていて、<(B)>]数多くの文学賞を授与されており、その中には1991年に受賞したイギリス連邦文学賞が含まれている。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%82%B7%E3%83%BB%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%AB
 2009年にインド国会議員に国民会議派から当選し、二つの閣外相を経験し、現在に至る。
https://en.wikipedia.org/wiki/Shashi_Tharoor
2 再び英国のインド亜大陸統治について
 (1)序
 「この本は、最も最近のものが、ジョン・ウィルソンの『英国によるインド亜大陸統治とインド帝国の混沌』(コラム#8605以下)であったところの、英国がインド亜大陸で何をやったかについての次第に増えつつある<書籍>リストに、付け加えられることになった。
 ウィルソンは、英国人達が自分達自身を征服者達であると見ることが生み出した、「勝利者の主権」なる人種主義的錯覚(delusion)・・このところの帝国への郷愁の波によって燃料をくべられている主張・・をはっきり示した。・・・
 タルールは、<この本の>終わり近くの脚注の中で、どちらかと言えば静かに、「自分のこの本<の原稿>が出版社に渡ろうとしていたまさにその時に」、ウィルソンの本が出版されたところ、「被征服者の犠牲において、英国がその帝国主義的統治によってどれくらい裨益したか」について、「多くの部分で<ウィルソンと>同じ話をしている」、と注記している。・・・
⇒ウィルソンの本を取り上げたシリーズの冒頭のあたりで、私は、「分割独立から70年近く経った21世紀の現在にもなって、ようやくこれを書いたのが、インド亜大陸人ではなく、英国人であったことが、私を暗澹たる気持ちにさせます。」(コラム#8605)と記したところ、ここにインド亜大陸人による本がついに出現したわけであり、それはもとより大変結構なことではあるものの、ウィルソンが歴史学者であるのに対し、タルールは歴史に関しては素人に毛が生えた程度の人物であることが、依然としてひっかかります。
 タルールには失礼かもしれませんが、こんなところにも、英国によるインド亜大陸統治が原住民愚民化政策でもあったことの「成果」が、いまだに尾を引いている感が私には拭えません。(太田)
 図書館でこの種の本が増えつつあるのには正当な理由がある。
 インド亜大陸における、英国の、搾取的にして人種主義的な帝国主義的プロジェクトは、タルール言うところの、「長きにわたる強欲の厚顔無恥の履歴」たる、その残忍性と執念深さにおいて、我々に畏怖の念を起こさせるものがあるからだ。
 このところのこれらの諸本は、ニオール・ファーガソン(Niall Ferguson)<(コラム#125、207~212、738、828、855、880、905、914、967、1053、1202、1433、1436、1469、1492、1507、1691、3129、3379、4123、4207、4209.4313、4870、5081、5087、5116、5125、5162、5291、5300、5314、5530、5546、5675、5677、5687、5907、5942、5950、5991、5993、6191、6257、6277、6519、6726、6915、7244、7274、7368、7427、7922、7924、8835)>が彼の2003年の本である、『帝国(Empire)』の中で自転車のように漕がれた吐き気を催させる正義感(righteousness)と恩着せがましさ(condescension)に対する歓迎すべき解毒剤だ。
 <ファーガソンの>『帝国』は、英帝国主義は、世界に、その敬服すべき独特の諸様相・・言語、銀行、代表諸議会、自由の観念・・を与え、「世界で一番大きな民主主義国家」であるインドに対し、英国は、その統治について洗練された認め方とされている域を超えた貢献をした、と主張している。・・・
 <実は、>タルール<の方>は、昨年、オックスフォード・ユニオン(Oxford Union)で行った伝染性のある(viral)講演の中で、英国は、世界経済の中で23%を占めていたインド亜大陸を4%に減じてしまった、と述べ<、この本を書かざるを得なくなったという経緯がある。>」(B)
(続く)