太田述正コラム#9067(2017.5.1)
<ナチが模範と仰いだ米国(その15)>(2017.8.15公開)
 (11)トランプ時代の現在の米欧
 「欧州の極右は米国を、称賛べきところが大いにある、と見ている。
 フランスのマリーヌ・ルペン(Marine le Pen)とオランダのヘルト・ウィルダース(Geert Wilders)<(コラム#2742、8771、8982)>のような政治指導者達には、最近の米大統領選のような寿ぐべき諸出来事が、彼らの銘柄の民族ナショナリズム(ethno-nationalism)の良い前兆のように見えている。
 この大西洋を挟んだ<米欧の>紐帯は<史上>初めてのものだろうか。
 過去からの決別なのだろうか。
 仮にそう見えるとすれば、極端な前衛としての米国の立ち位置(place)、すなわち、欧州における最悪の行き過ぎに関してさえも範例であったという歴史、が自覚されることが殆どないからに過ぎない。」(M)
 「アイオワ州選出米下院議員のスティーヴ・キング(Steve King)<(注23)>は、オランダの総選挙の前に・・・ヘルト・ウィルダース支持をツイートした。
 (注23)1949年~。Northwest Missouri State University中退。共和党員。
https://en.wikipedia.org/wiki/Steve_King
 米国と欧州は、外国人の赤ん坊達を輸入していては、彼らの文明を救えない、と付け加える形で・・。」(G)
 (12)ホイットマン批判
 「ホイットマンは、より広い文脈を強調することに失敗している点で間違っている。
 1930年代には、米国とナチスドイツは正反対の方向に動きつつあった。
 米国は、その恥ずべき人種主義的遺産を拒否し放棄するプロセスにあった。
 このプロセスは、余りにも遅く、完結するまでに更に何十年かがかかることになるわけだが、それは<、当時、>十分進行中ではあったのだ。
 もとより、多くの南部諸州が、1967年まで、人種間婚姻禁止諸法を持っていたことはぞっとさせられる。
 しかし、それら以外の14の諸州が、このような諸法を1948年から1965年の間に廃止したこともまた意義深い。
 ヒットラーが生きておれば、彼は、そう長くは、米国に対して好意を寄せ続けてはいなかったことだろう。」(A)
⇒これはまあ、とんでもない言いがかりをつけたものです。
 本件で戦後に「改善」が見られ始めたのは、黄色人種達の国である支那がこの大戦の連合国中の「主要」国の一つであったことから、ローズベルト政権が黄色人種に対する公的姿勢を変えざるをえなかったこと、かつ、大戦に米黒人達も動員しなければならなかったことから、少なくとも米軍内での差別を公的には緩和せざるをえなくなったこと(以上、コラム#省略)、が大きな契機になったからに過ぎないからです。(太田)
 「<ホイットマンのこの本ではなく、>キャロル・カケル(Carroll Kakel)<(注24)>の本であるところの、19世紀の米国の北米大陸における植民活動(すなわち、西方への拡大)の物語が第二次世界大戦中のヒットラーの生存圏追求を鼓吹したとする、『米国の西部とナチの東部(The American West and the Nazi East)』は、『ジェノサイド研究誌(The Journal of Genocide Research)』(2013年)の中で、トーマス・キューネ(Thomas Kuhne)<(注25)>によって批判されている。・・・
 (注24)Carroll P. Kakel III。ジョンズホプキンス第リベラルアート・センターの研究員(Research Historian)にして講師。2013年に、’The American West and the Nazi East’と’The Holocaust as Colonial Genocide: Hitler’s ‘Indian Wars’ in the ‘Wild East’ の両著を英Palgrave Macmillan上梓、ということくらいしか分からなかった。
http://www.goodreads.com/author/show/6997721.Carroll_P_Kakel
https://books.google.co.jp/books?id=SU7MAQAAQBAJ&pg=PT3&lpg=PT3&dq=Carroll+P.+Kakel&source=bl&ots=iaGWxqhPBY&sig=Hlpr2sciW2Bmn_sZTdL-5vS7qZU&hl=ja&sa=X&ved=0ahUKEwiI0-KD5s7TAhUMwbwKHWVuA_w4ChDoAQhbMA4#v=onepage&q=Carroll%20P.%20Kakel&f=false
 (注25)1958年~。米クラーク大(Clark University)のストラッスラー・ホロコーストとジェノサイド研究センター(Strassler Center for Holocaust and Genocide Studies) 所長。独テュービンゲン大博士。独の3つの大学で教鞭を執った後、クラーク大へ。
https://en.wikipedia.org/wiki/Thomas_K%C3%BChne
⇒カケルの後の方の本は、ホロコーストを、欧米列強が世界の植民地化の過程で行った原住民虐殺の一環と見るもの(上掲)であり、興味をそそられます。
 前の方の本は、その題名からして、ホロコーストを米国のインディアン虐殺と同一視するものだと思われます。
 カケルの本が米国のではなく英国の出版社によって上梓されたこと、ホイットマンの本とは違って、米英では全く書評が出ず、書評(両書を併せて取り上げた)を出したのはドイツ紙(フランクフルター・アルゲマイネ)だけのようであること、は、カケルの2冊の本が、ホイットマンの本よりも、更に「過激な」内容であることから、むべなるかな、といったところでしょうか。(太田)
 ミュラフチク(Muravchik)<(注26)>の及びキューネの諸見解は、米国の諸先例がなかったとしても、ナチの政策は、恐らくはほぼ決定論的流儀で進行したであろう、ということを示唆している。
 (注26)ジョシュア・ミュラフチク(Joshua Muravchik。1947年~)。様々なシンクタンクを渡り歩き、現在、米国の世界問題研究所(World Affairs Institute)の上級フェロー(distinguished fellow)。左翼からのネオコン転向者。NY市立大卒、ジョージタウン大博士。
https://en.wikipedia.org/wiki/Joshua_Muravchik
 彼らの諸見解は、ナチによる、米国の諸先例の諸参照は、諸鼓吹源としてよりは、修辞的正当化として用いられた(served)、ということを示唆しているのだ。」(H)
⇒キューネは米国に過剰適応したドイツ人、ミュラフチクは典型的ネオコン、であると見てよさそうなところ、ホイットマン/カケルの鋭く全うな主張に正面から反論できず、話を修辞的にすり替えて逃げているだけです。(太田)
(続く)