太田述正コラム#1449(2006.10.14)
<北朝鮮核実験か(続x5)>

1 安保理決議はどうなる?

 所要があって、外出しなければならなかったため、日本の新聞の電子版には目を通したものの、英米のメディアの電子版は見出しを眺めただけで、北朝鮮制裁決議案は本日(14日)中に採択される、と前回のコラムに書いたところ、夕刻に帰宅してみると、中共とロシアがだだをこねている、とTVで報じていたので、コラムはフライングだったかと一瞬冷や汗が出ました。
 前回のコラムで紹介したボルトン米国連大使の発言に対し、中共が、このような米国の見解に従えば「2週間以内に公海上で海戦を見ることになるだろう」と反発し、ロシアも同調している、というのです(
http://www.sankei.co.jp/news/061014/kok008.htm。10月14日アクセス)。
 しかし、どうやら中共は、この決議案の文面が、海上での臨検を中共にまで強要するものではないことをはっきりさせたい(
http://www.asahi.com/international/update/1014/023.html
。10月14日アクセス)、(ただし、米国が勝手に臨検をやるのは知ったことではない(?)、)というだけのことだったようで、ボルトン米国連大使も、安保理議長を務める日本の大島賢三国連大使も、ともに14日午後(日本時間15日未明)には、この点を含め、文言に微修正が施された上で決議は採択されるだろうと発言している(
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20061014it04.htm
。10月14日アクセス)のを知って、少し安心しましたが、果たしてどうなりますか。
 口の軽いボルトンは、やはり国連大使としてはミスキャストだった、とつくづく思います。

2 拡張された核抑止理論

 これまで論じてきたのは、いかなる場合に米国が北朝鮮に対し通常兵力で武力攻撃を行うか、についてでしたが、ボルトンがPSIの話を持ち出した(コラム#1448)こともあり、いかなる場合に米国が北朝鮮に対し核攻撃を行うか、という論点にも触れておきたいと思います。
 ブッシュ米大統領は、北朝鮮による「核実験」のその日(9日)に声明を発表し、「私は、韓国と日本を含むこの地域の同盟諸国に対し、米国は核抑止と安全保障のコミットメントの全てを履行するであろうことを改めて保証した」と述べるとともに、「北朝鮮による、核兵器または核物質の国家または非国家的存在への移転は、米国にとって重大な脅威であると見なされ、かかる行為のもたらす結果に対し、北朝鮮に完全に責任を負わせるだろう」と述べました。
 前者は従来からの核抑止にほかなりませんが、後者は新しい核抑止なのであり、「二番目の形の核抑止(second form of deterrence)」とか「拡張された核抑止(Expanded deterrence)」(注)と呼称され始めています。

 (注)Expanded deterrenceというのは、9月に生まれたばかりのネーミングだ(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/10/10/AR2006101001282_pf.html
。10月12日アクセス)。

 ワシントンポストのコラムニストであるクラウトハマー(Charles Krauthammer)は、後者についてのブッシュの発言は、「米国またはその同盟諸国で核爆発が起こった時は、北朝鮮以外に、核に係る諸義務をかくも不用意に破る核保有国はありえないので、これは北朝鮮による攻撃であると見なし、米国は北朝鮮に対し全面的な核報復を行う」と読み替えることが現在のところは可能であるけれど、イランが新たに核保有国になると、話がややこしくなる、と指摘しています(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/10/12/AR2006101201668_pf.html)。
 というのは、米国の国防総省も、国連の国際原子力機関も、核爆発が起こった場合にその生産国を割り出すため、生産国ごとの核物資のプロファイリングの整備を図っているものの、実際に生産国を突き止めるのは容易なことではないからです。
 ところで米国は、核兵器や核物質の移転そのものを阻止するため、以下の三つの措置を推進してきています。
 第一が、前述の拡散防止構想(PSI=Proliferation Security Initiative)であり、それぞれの領海や領空を核禁制品が通らないように阻止することを約束した諸国のゆるやかな連合を指しています。
 第二がメガポート(Megaport)であり、世界中の主要な荷役港に放射線探知機を設置しようというものです。
 そして第三が、世界中の主要な国境の検問所に放射線探知機を設置しようというものです。
 (以上、http://www.nytimes.com/2006/10/13/world/asia/13trace.html?_r=1&oref=slogin&pagewanted=print。10月14日アクセス)
米国としては、今回の北朝鮮制裁決議を、このPSIが成文化されたもの、ととらえているわけです。