太田述正コラム#1448(2006.10.14)
<北朝鮮核実験か(続x4)>

1 最初の制裁決議案成立へ

 本日決議される予定の北朝鮮制裁安保理決議案は、国連憲章7章下の制裁という原則は守ったまま「(経済制裁などに限定した)41条に基づく措置」と併記して、決議が軍事行動への一歩となりかねないとの中共の懸念に配慮しました。
 北朝鮮に出入りする貨物の検査についても、米国が12日に提示した決議案は「加盟国が必要と考える措置を取るよう義務付ける」としていたところ、最終決議案では、核兵器などの武器の不正取引を防ぐための各国による「協調行動」の一例としてあげ、強制的な意味合いが薄め、国内法に基づいて適切な措置が可能であれば実施するとの趣旨に修正しました。  
 しかし、ボルトン米国連大使は、決議案に盛られた「貨物検査」について、「国際法と各国の当局と法律に基づくが、検査に協力するのは各国の権利であり、実のところ義務だ。これは北朝鮮を対象にした大量破壊兵器の拡散防止構想(PSI)の成文化だ」と述べ、しかも、対象となる「貨物」について、船舶貨物だけではなく、航空貨物や陸送貨物も含むとの見解を示しています。 (http://www.asahi.com/international/update/1014/001.html
及びhttp://www.asahi.com/international/update/1013/022.html
(どちらも10月14日アクセス))
 これで、「実際に海上封鎖が行われるようなことがあれば、たまらず北朝鮮から、米軍の艦艇等に武力攻撃が加えられたり、韓国等に対して核恫喝が行われたりする可能性があ」ることから、米国が北朝鮮に限定的武力攻撃を行う要件が整った(コラム#1440)わけです。
 それに、どうせ北朝鮮は言うことを聞かないでしょうから、いずれ米国は、「41条に基づく措置」というしばりを解消した形の決議案の成立を図ることでしょう。中共がいつまでも米国に抵抗を続けられるとは思いません。

2 本当に米国は限定的武力攻撃の機会をうかがっているのか?

 静岡県立大学の平岩俊司教授は、「仮に北朝鮮に軍事行動を起こせば、中韓との関係は破たんする。米国にとって、そこまでの覚悟を持って攻撃するほどの重要性はない。」と述べています。
 と同時に、同教授は、「武力攻撃<は>・・今の段階ではない。ただし、仮に北朝鮮が核兵器を拡散させる動きに出た場合は、米国にとって中東と同じ意味合いが出てくる。核兵器がテロリストに渡<るようなことがあった場合>、あるいは米国本土に対して危機が及ぶと判断した場合には、死活的な問題になる。迷わず軍事オプションを使うだろう。」とも述べています。
 (以上、
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20061013/mng_____tokuho__000.shtml
(10月13日アクセス)による。)
 このあたりが、日本の有識者の最大公約数的分析でしょう。
 つまり、米国自身の安全にとって死活的な問題が生じない限り、米国は武力攻撃を行わない、というのです。
 しかし、米国人は、建国以前から、自由民主主義を世界に広めるというオブセッションにとりつかれた帝国主義者(注)なのであり、キッシンジャーや平岩教授のようなリアリストは、米国では異端なのです。

 (注)Robert Kagan, Dangerous Nation(http://www.latimes.com/news/opinion/la-oe-boot11oct11,0,3767965,print.column?coll=la-opinion-rightrail(10月11日アクセス))。いずれ、この本については、詳述したい。

 その米国の大統領であるブッシュが、あれだけ北朝鮮の反自由民主主義体制を弾劾しており、武力攻撃を行うことがありうると明言している(コラム#1444、1445)のですから、利害損得抜きに(=米国自身の安全にとって死活的な問題が生じなくても)ブッシュ政権は武力を用いてでも、必ず北朝鮮の体制変革ないし体制崩壊を成し遂げるであろうと私は見ているのです。
 ワシントンポストの電子版は昨日、精神を病んだ国家が核を手にした前例はない、ただちに北朝鮮に武力攻撃を行うべきだ、と主張する無署名記事(China Confidentialというブログの主宰者というふれこみ)を掲載しました(
http://blog.washingtonpost.com/postglobal/needtoknow/2006/10/america_better_prepare_for_ano.html
。10月13日アクセス)。これは事実上の社説と言えます。
 このように、米国の世論もまた、北朝鮮への武力攻撃に傾いているのです。

3 コメント

 そう遠くない将来、ノドンの何発かが日本列島に向けて打ち込まれることくらいは覚悟しなければなりません。
 それらが、化学弾頭が搭載されているものである可能性も排除できません。
 しかし、核弾頭である可能性はほぼ皆無ですし、命中精度が低いので、仮にあなたが死亡するとしたら、交通事故にあったと諦めてください。
 それに、そんな事態になれば、拉致問題も核問題も完全に解決することは間違いないでしょうから、もって瞑すべしでしょう。